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20011106 雑音の中の音

 何も考えずに雑音の中にいると、聞き覚えのある旋律や声などがその雑音の中から聞こえてくる経験はないだろうか。雑踏の様によく聞いてみると人の話し声や自動車の音が聞こえてくるというものではなく、様々な機械が動作している工場の中での雑音とか、テレビジョン受像器が放送局の電波を受信していない状態での「ザー」といったような雑音等での経験である。

 低音から高音まで、そしてそれらの大きさが物理的に全て同じである色々な音が完全に混ざり合った状態を白色(はくしょく)雑音$${^{*1}}$$という。この白色雑音というのはホワイトノイズwhite noiseの直訳だろう。「音」なのに「色」というのは何か変であるが、様々な色の光を合成すると白色光になることからこの名前が付いた。pink noise$${^{*2}}$$という言葉もある。含まれる音のうち、高い音になればなる程その音の大きさが小さくなるような雑音のことをいう。低い音を光の波長の長い「赤」色になぞらえて$${^{*3}}$$赤色成分が強い白色雑音ということでピンクノイズという。日本語で桃色(とうしょく)雑音$${^{*4}}$$と言うらしい。

 雑踏の中でもある程度会話が可能なのは耳が雑音と音声とを聞き分けることが出来ているから、と言う表現がなされる。実際には耳が聞き分けているのではなく、脳が聞き分けている。耳は耳の穴から進入してきた空気の振動を鼓膜によって聴細胞に伝える$${^{*5}}$$だけで、それを脳が音として知覚する。

 脳が「音」と判断すれば、音と知覚される物は物理的な音である空気の振動でなくてもよい。つまり空耳$${^{*6}}$$などは物理的な音ではないがれっきとした「音」になる。

 雑音の中でちゃんとした音が聞こえてくるというのはどういうことであろうか。雑音には様々な音が含まれている。それらが全て耳の穴を通って鼓膜から聴細胞に伝えられる。脳は聴細胞から来た信号を「音」と言う情報として組み立てる。脳はそれまで学習したことや経験に基づいてその「音」がどういう意味かを理解する。従って雑音の中から適当に音を拾って意味のある「音」に脳の中で再構築するので、雑音の中であるはずのない旋律や声が聞こえてくるのであろう。

 曲の所々に無音の部分を設けるとそのままでは途切れて曲が聞こえるが、無音の部分に白色雑音を挿入しておくと曲がつながって聞こえるようになる、とある本に書いてあった。この現象は初めて聞く曲でも起こるという。これは時間的に前後になっている音を脳が聞いて、脳の中で連続した曲を再構築している証拠だという。

 そうだとすると音波の存在は関係なく、無音の場合でも再構築が行われるのではないか。雑音は再構築のきっかけに過ぎないような気がする。やはり雑音から脳が音を拾っているのだろう。

*1 A6:白色雑音
*2 epanorama.net/Noise types
*3 ホワイトノイズとピンクノイズ
*4 ■桃色雑音(とうしょくざつおん)(ピンクノイズ)pink noise(B 0153)
*5 外界からの刺激の受容
*6 空耳アワー研究所

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