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20010820 エピタキシー

 エピタキシー$${^{*1}}$$という言葉がある。英語で書くとepitaxy$${^{*2}}$$である。この言葉を分解するとepiとtaxyとなり、epi-は「上」「追加」などを意味するギリシャ語が語源の接頭辞で、taxy$${^{*3}}$$は「整列したもの」という意味のギリシャ語の言葉が元となっている。形容詞はエピタキシャルepitaxialで、エピタキシャル成長、エピタキシャル膜という具合に使う。略してエピともいう。ルイ・ヴィトン$${^{*4}}$$のエピ$${^{*5}}$$とは違う。

 エピタキシーは、ある結晶の上に新しい結晶が元の結晶配列を受け継ぎながら成長した状態をいう。新しい結晶部分は元の結晶と同じ物質でも異なる物質でも構わない。例えば食塩の結晶に氷砂糖の結晶が成長している場合、これをエピタキシーという。このとき食塩の結晶と氷砂糖の結晶の境目は綺麗に揃っていなければならない。そうでないと結晶の配列が受け継がれたことにならない。

 実際に塩と砂糖がエピタキシーになることはないだろう。食塩の結晶$${^{*6}}$$はナトリウム原子と塩素原子が交互に規則正しく並んでいる。この並びに合わせて砂糖の分子を配列させるのだが、ナトリウム原子や塩素原子に比べて砂糖の分子$${^{*7}}$$は余りにも大き過ぎるので上手く配列を受け継ぐことは出来ないだろう。

 エピタキシャル成長は元になる結晶の表面が非常に綺麗になっていなければならない。結晶の表面にゴミが乗っていれば、結晶を構成する原子の大きさに比べてそのゴミは遙かに大きいのでエピタキシーになれない。それに結晶が出来るためには結晶を構成する原子や分子が自由に動ける状態でないと配列がうまく出来ない。そこでゴミが付かないように真空の中で結晶成長$${^{*8}}$$させたり、原子や分子を自由に動かせるために物質を溶融させた状態$${^{*9}}$$や気体状の化合物にした状態$${^{*10}}$$で結晶を作ったりする。

 エピタキシャルというと結晶表面の原子と原子とのつながりが重要なので、上記のような大がかりな装置が必要な気がするが、必ずしもそうではない。磁気テープ$${^{*11}}$$の磁性体の粉の表面にエピタキシャル成長させてテープ性能を高める技術がある。これは元となる磁性体の粉をある溶液の中で反応させれば、その磁性体の粉の表面にエピタキシャル結晶が成長する。こういう至極簡単なエピタキシャル成長方法もある。

*1 エピタキシャル成長
*2 epitaxy. The American Heritage® Dictionary of the English Language: Fourth Edition. 2000
*3 -taxis. The American Heritage® Dictionary of the English Language: Fourth Edition. 2000
*4 LOUIS VUITTON, Champs Elysees, Paris - Carbondale
*5 エピ・コレクション【ルイ・ヴィトン・ナビ!】エピのカラーバリエーション
*6 発泡スチロール球を用いた結晶の実体積模型(1億倍)の作り方
*7 砂糖(ショ糖)
*8 新型電子銃を用いた分子線エピタキシーによるSi薄膜の作製と評価
*9 LPE
*10 非極性GaN系量子構造の有機金属化学気相エピタキシー(MOVPE) 成長とデバイス化
*11 maxell:製品情報:インダストリアル プロダクツ:BETACAM

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