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20010609 小林礫斎

 小林礫斎$${^{*1}}$$という人がいた。ある雑誌を読んでいて初めてこの人物を知った。箪笥や硯箱などの家具の精密な小型模型$${^{*2}}$$を作る職人であった。

 小さい物に対するあこがれ$${^{*3}}$$は昔から誰にでもあるような気がする。小さい物の中に自分たちがいる世界を縮小した微小世界$${^{*4}}$$の存在を期待しているのかも知れない。これは世界共通$${^{*5}}$$なのであろう。精密な家具調度品を備えたドールハウス$${^{*6}}$$などはその典型である。シェークスピアのThe Merry Wives of Windsor$${^{*7}}$$に出てくる表現で「The world is mine oyster$${^{*8}}$$(世界は私の意のまま)」も微小世界へのあこがれが含まれていると思う。

 日本の場合、その小さな物は微小世界を構成する部品ではなく、それで完結した微小世界を作り上げるのが得意である。たばこ入れや印籠のひもの端につける帯にはさむための細工物である「根付け$${^{*9}}$$」もその一例であろう。礫斎の作品も単に寸法が小さいだけはなく、そこには微小世界の存在を前提としたかのような精緻さを作り込んでいる。

 読んだ雑誌には「礫斎は指が太く、眼は近眼であったにもかかわらず」とあった。素手ではなく道具を使うのだから、指が太いことが精密な作業に不利であるとは一概に言えないが、指が太いことと微細作業との対比には意味がある。しかし近眼であることは不利ではない$${^{*10}}$$。むしろ有利である。近眼は通常の視力の眼より短い距離でも焦点を合わせることが出来るので細かい作業には向いているのだ。

*1 特別展「小林礫斎 手のひらの中の美 〜技を極めた繊巧美術〜」 小林礫斎 本名夏太郎
*2 プレスリリース:約1,500点のミニチュアコレクション公開!「館蔵ミニチュア展 小さなものの大きな魅力」をたばこと塩の博物館にて9月7日(土)より期間限定開催(@Press) - 毎日新聞 江戸の粋 小林礫斎
*3 19991119 巻き貝の頂点
*4 たばこと塩の博物館
*5 SMALL WORLDS Official Site|The world's largest indoor miniature theme park
*6 マイ・ドールズ・ハウスへようこそ!
*7 The Merry Wives of Windsor. Craig, W.J., ed. 1914. The Oxford Shakespeare
*8 Act II. Scene II. The Merry Wives of Windsor. Craig, W.J., ed. 1914. The Oxford Shakespeare
*9 Wood and Ivory Japanese Netsuke
*10  20001016 近視の手術

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