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20020215 鳴屋(やなり)

 「やなり」という名の妖怪がいる。「鳴屋」と書く。風もないのに天井や床から音がするのは妖怪「やなり」の仕業だと考えられた。その妖怪を初めて可視化$${^{*1}}$$したのは鳥山石燕の画図百鬼夜行$${^{*2}}$$であろう。石燕によって小さな鬼の様な妖怪$${^{*3}}$$が家の柱などを揺り動かしている様子が描かれた。

 私の実家ではよくこの妖怪が出現した。昼間や夜中に物音を立てずに静かにしていると突然、柱や天井から「ピシッ」とか「ミシミシ」という音が聞こえてきた。天井で鼠が走り回る音とは明らかに違う。そして気のせいでも何でもなく、居合わせた人は誰でもその音が聞こえた。

 この音は風がある日にはあまり聞こえなかった。風が吹くと風の音でかき消されてしまうのかも知れない。聞こえる時間帯は昼頃から3時ぐらいの間か、夜の8時から真夜中ぐらいの間である。早朝とか夕方には聞こえなかった。家族がもっとも活動する時間帯では人間が立てる音で「やなり」は聞こえなかったのかも知れない。

 雨の日も鳴らなかった。音のする時間帯、雨の日は鳴らない、ということを考えるとどうも柱などの材木の熱膨張が関係しているのではないかと思われる。昼間に太陽によって材木が暖められ膨張する。柱などが全て同じ種類の材木で出来ていれば皆同じように膨張するので歪みは生じないが、部分的に違う種類の木材が使われていたとすると熱膨張の差によって歪みが生じ音が発生する。夜になって冷えてくると元に戻る時にまた音が発生する。雨の日は温度が上がらないので柱は膨張しないので音は鳴らない。

 単純な物理現象で解き明かされてしまう妖怪というのも不憫である。

*1 可視化情報学会 (技術相談はじめました)
*2 百鬼灯篭 ~画図百鬼夜行と妖怪と~ 鳥山石燕とは…
*3 鳴家 | ノスタルジックジャパン

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