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20030105 EBIC

 半導体はちょっとした構造の変化によって電気特性が大きく変わってしまう$${^{*1}}$$構造敏感$${^{*2}}$$という特性を持っている。

 何らかの原因で、外見は全く何ともないのに半導体素子が動作しなくなることがある。半導体素子は湿気や塩水などに非常に弱いため樹脂$${^{*3}}$$や金属$${^{*4}}$$の箱の中に入れてある。この箱の中に入っている半導体チップ$${^{*5}}$$が計算をしたり$${^{*6}}$$、電気信号を増幅したり$${^{*7}}$$、光を出したり$${^{*8}}$$する。

 箱の外見だけでなく、その中に入っている半導体チップの外観を顕微鏡などでつぶさに観察しても壊れた部分がないのに、その素子が動作しない場合もある。半導体は構造敏感なので外見からは判らないような内部のほんのちょっとした異変でも敏感に影響されてしまう。

 そういった直接に外から見ることが出来ない故障を分析する方法の一つにEBICという手法がある。Electron Beam Induced Current(電子線励起電流)の頭文字で「イービック」と読む。

 原理は走査型電子顕微鏡$${^{*9}}$$とよく似ている。半導体チップを真空にした箱の中に入れて電子顕微鏡と同じように電子線を照射する。電子線を照射するとその電子線の刺激によって半導体の中で電子と正孔と呼ばれるその電子が抜けた孔$${^{*10}}$$が生じる。電子線は半導体の奥深くにはなかなか入ることが出来ないので半導体の表面近くで電子と正孔を発生させる。もともと半導体チップが計算したりするところは表面近くなのでそれで十分なのである。

 電子が発生するということは電気が出来るということである。電気が出来て電気が通りやすければ電流が発生する。その電流が上手く流れれば半導体は正常である。半導体の中で何か異常が起こっていると電子線によって発生した電子と正孔が元に戻ってしまい、上手く電流が流れない。電流が上手く流れるところと電流が上手く流れないところを色分け$${^{*11}}$$すればどこに異常があるか判る。これがEBIC法$${^{*12}}$$である。構造敏感をうまく利用した分析方法である。

 更に電子線による微小領域における極微弱な電流を確実に検出するために原子間力顕微鏡(走査プローブ顕微鏡:SPM)$${^{*13}}$$とEBICを組み合わせた分析方法$${^{*14}}$$もあるようだ。

*1 20030102 構造敏感な半導体
*2 ====註1:構造敏感性(structure-sensitive property)について
*3 集積回路とは?集積回路の仕組み・役割と種類 | Archive of Yone
*4 Transistor Outlines | AMETEK ECP
*5 総合技術マーケットi-engineering、連載コラム
*6 1401 CPUの構造
*7 日本TI、3倍の高速処理性能をもつ高速オペアンプを発表 高性能固定ゲイン・アンプの新ファミリ、広帯域を提供
*8 やさしい技術講座「半導体レーザ」
*9 第13コース「身のまわりの物を観てみよう(電子顕微鏡)」のページ(工学部応用化学科)
*10 太陽光発電の原理
*11 MST|[EBIC]電子線誘起電流
*12 http://lyra.colorado.edu/sbo/keith/we/ebic.jpg
*13 20000406 原子間力顕微鏡
*14 SEM-SPM Hybrid System for Nano EBIC

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