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20041025 筆石

 漢字の名前が付いた化石は、大抵それがどんな種類の生物かがその名前から想像できる。三葉虫*1$${^{*1}}$$ならば「虫」の仲間だろうとか、直角貝$${^{*2}}$$、三角貝$${^{*3}}$$なら「貝」、鱗木$${^{*4}}$$なら「木」だろうというところまでなら判る。

 筆石(ふでいし)という名の化石がある。その名前からはどんな生き物の化石なのか想像しにくい。子供の頃見た図鑑には大抵くらげのような形の想像図$${^{*5}}$$が載っていた。「筆石」という熟語からは「くらげ」は想像できない。どうしてくらげが「筆石$${^{*3}}$$」という名前になったのだろうか。

 その語源は足に見える部分が羽根ペンに似ている$${^{*6}}$$から、という説明があった。化石の姿が羽根ペン$${^{*7}}$$に似ているからというのは、何となく変である。羽根ペンは鳥の羽根そのものでできているのだから「羽根石」なら判るが、羽根ペンの羽根を飛ばして「筆石」というのはおかしい。

 筆石$${^{*8}}$$は英語で「graptolite$${^{*9}}$$」と言う。graptoliteの語源は「grapto(書いた跡のある)$${^{*10}}$$+lite(石)$${^{*11}}$$」で、発掘された頁岩$${^{*12}}$$に残っていた姿が石板に何か書いた状態と似ていたことが由来らしい。化石として残った生物の痕跡部分を指しているのではなく、発掘された状態を指していることになる。

 日本語の「筆石」は「graptolite」の誤訳ではないだろうか。graptoを「書くもの」と解して「筆」としたのかもしれない。

*1 博物館Q&A:三葉虫Q&A
*2 有限会社西日本地研 アンモナイトと直角貝の群集プレート
*3 化石
*4 デボン紀鱗木化石
*5 Graptolite Ecology
*6 筆石
*7 The writing [implement] of Jane Austen - the quill pen
*8 Graptolite Home
*9 graptolite. The American Heritage® Dictionary of the English Language: Fourth Edition. 2000.
*10 graphic. The American Heritage® Dictionary of the English Language: Fourth Edition. 2000.
*11 -lite. The American Heritage® Dictionary of the English Language: Fourth Edition. 2000.
*12 19990806 瑞浪市の化石

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