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20030308 左右の定義

 左右$${^{*1}}$$の普遍的な定義はできるのだろうか。これについてインターネット上の知り合いである浅見氏$${^{*2}}$$が何度も考察$${^{*3}}$$をしている。

 右がどちらで左がどちら、というのをどこでも誰でも決める方法はあるのだろうか。浅見氏は物理現象を基にして「右」の定義が出来るのではないか、と考えた。DNAが宇宙のどこでも同じ様な螺旋(らせん)構造を形作るのならば「右」を定義できるかも知れないと言う。ただし、その前提には「上下」と「前後」の定義が必要となってくる。そこで「上」は天体の重力の向きと逆の方向、「前」は上と直角を成す任意の向きであって、通常進む方向とする。

 「右」の定義は厳密そうだが、「上」、「前」の定義がそれに較べて非常に曖昧のような気がする。天体はどれくらいの大きさが必要か、通常進む方向とはどのように定義すればいいのか、非常に難しい。

 DNAの他に「弱い相互作用$${^{*4}}$$」という素粒子反応を使った左右の定義$${^{*5}}$$が紹介されている。web上で調べてみると、この物理現象を使えば異星人に「左右」を伝えることが出来る$${^{*6}}$$と書いているページが沢山ある。

 コバルト60$${^{*7}}$$は人工的な放射性元素でβ線$${^{*8}}$$を出す。β線は放射線の一種でその実体は電子である。この電子はコバルト60の原子核から放出される。電子は通常は四方八方に飛び散るはずであるが、よくよく調べてみると$${^{*9}}$$その電子の飛び出し方は原子核のスピンと呼ばれる物理量$${^{*10}}$$に依存することが判った。コバルト60を極低温にして強い磁場をかけてやると$${^{*11}}$$、熱でバラバラの値になっていたスピンが磁場の方向に従って揃ってくる。すると原子核から飛び出してくる電子の数が磁極によって偏ってくる$${^{*5}}$$というのだ。これは「弱い相互作用」という素粒子反応に依存しているという。

 つまりN(北)極とS(南)極の区別がコバルト60で確かめることが出来ると言うことである。電子がたくさん出る磁極を「S(南)極」と決めれば宇宙のどこでも誰が観測しても磁界の向きを決めることが出来る。磁界の向きが決まれば電磁気関係の現象$${^{*12}}$$を用いて「右」が決められそうである。

 ところがそうはいかない。この方法でN極S極の区別は出来るが、「どちらがN極」というのは決められない。それは「上下」、「前後」が定義されてないからである。

 異星人と通信が出来るようになり、「右」を伝えるために上記の実験をやってもらう。地球では磁石を水平に置いているつもりだったが、異星人は宇宙空間で実験をしていたので、磁石のNS極の名前の付け方は分かったが、どちらの方向を「右」とすればさっぱり分からないということになる。この実験だけでは「上下前後」が伝わらないからである。

 つまり左右は物理的定義ではなく、「心臓がある方が左」というような生物的な定義なのである。右左を考える生物の形態によって発生した概念であろう。異星人でなくともヒトデやウニに左右の概念を伝えようとしても不可能に違いない。これはヒトデ$${^{*13}}$$やウニに考える能力がないという意味ではない。ヒトデやウニには「前後」や「左右」を決められないからだ。

 異星人ならばもっと問題は深刻である。相手の形が全く判らない。完全な球型の生物かも知れない。もし人類とそっくりな形をした異星人なら「上下前後」を伝えることが出来るだろう。そうなればコバルト60で「右」も定義できそうだ。

 しかしこれは意味がない。地球人と宇宙人とが同じ形だということが判るのなら「こちらが右手だ」と図示した写真を送れば済むことになる。

*1 20030307 左右の不思議
*2 Gabacho-Net
*3 右ってこっち!
*4 光子物理学研究室 弱い相互作用とパリティ非保存効果
*5 科学と技術の諸相 質問集
*6 Google 検索: 宇宙人 左右
*7 放射線Q&A
*8 原子核の崩壊
*9 Bファクトリー(KEKB)って?
*10 Molecular Chemical Physics at Kyoto Univ. スピンってどんなもの?
*11 納谷昌宏のホームページ コバルト60の崩壊
*12 Meldeの実験 右ネジの法則
*13 Invertebrates 4-6 Starfish structure

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