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20000908 磁性細菌

 磁性細菌$${^{*1}}$$と言う1000分の1ミリ程度の大きさの生物がいる。自分の体の中に10000分の1ミリぐらいの数珠状に連なった磁性体$${^{*2}}$$を持っているのでそう呼ばれる。走磁性細菌$${^{*3}}$$とも言う。「走磁性」とは地磁気や磁界の方向に従って動く$${^{*4}}$$性質と言う意味である。この細菌が腹の中に抱えている磁石はビデオテープ$${^{*5}}$$や冷蔵庫等にメモを貼り付けるための磁石等の親戚で、フェライト磁石$${^{*6}}$$の一種のマグネタイト$${^{*7}}$$と呼ばれる鉄の酸化物で出来た磁石である。このマグネタイトは室温で強い磁性を発現$${^{*8}}$$するので、磁性細菌が持っているマグネタイトのように非常に小さい粒子だとその微粒子は何もしなくても勝手に磁石になってしまう$${^{*9}}$$。この体内磁石によって地磁気の方向に沿って磁性細菌$${^{*10}}$$は動くそうである。

 どうしてこの細菌は、地磁気の方向を知る必要があったのか。それはこの細菌は酸素を嫌う細菌だかららしい。酸素を嫌う細菌は嫌気性細菌と呼ばれ、ボツリヌス菌や破傷風菌などがそれの仲間である。
 地磁気の方向$${^{*11}}$$は平面的に見ると北極や南極の方向を向いているのだが、立体的に見れば愛知県付近の場合、北極に向かって48度斜め地中を向いている。北極や南極付近では真下であり、赤道付近では水平方向を向いている。この角度を伏角$${^{*12}}$$という。つまり水中や泥の中の細菌にとって磁界の方向は地球上の大抵の場所は斜めではあるが、地面の方向を向いている。

 磁性細菌は空気から逃げる$${^{*13}}$$為にこの地磁気$${^{*14}}$$を利用しているようなのだ。地磁気によって上下を知って上に行けば空気があるので、磁気の強い方向である斜め下に向かえば空気がないので生き長らえると言うわけだ。

 はたして本当にそうであろうか。赤道付近にいる磁性細菌にとって上下は南北になってしまい、体内磁石は空気から逃れる役目を果たしていない。それならば赤道付近には磁性細菌がいないのではないかと考えられるが、赤道付近で採取された磁性細菌は50%が北極、50%が南極に向かう$${^{*15}}$$と言う記述を見つけたので、その辺にもいるのだろう。

 もしかしたら体内磁石は単なる錘(おもり)ではなかろうか。これによって空気のある方向を知るのではないか。ではどうして磁石なのか。それは結果的に磁石になってしまったのだろう。進化の途中、錘を獲得するための重い元素を体内に留めることが出来る細菌だけが生き残った。金属のままでは生体内では不安定なので安定な酸化物として体の中に蓄えた。それがたまたま磁石の材料だった。赤道でも磁性細菌が健在であることを考えるとそんな気がしてならない。

*1 バイオミネラリゼーション of Matsunaga, Tanaka, Yoshino Lab.
*2 生物磁石 磁性細菌とその応用
*3 鉄の中に書き込まれた細菌の歴史 (Writing Bacterial Histories in Iron)
*4 じしゃく忍法帳 / 第36回「カラス撃退に磁石?」の巻
*5 ビデオテープ「美しさ」Eシリーズ
*6 日立金属>製品情報>マグネット>フェライト磁石
*7 じしゃく忍法帳 / 第67回「岩石と磁石」の巻
*8 鉄や磁鉄鉱はなぜ磁石にくっつくか?
*9 じしゃく忍法帳 / 第36回「カラス撃退に磁石?」の巻
*10 生物磁石
*11 地磁気ってなに?
*12 地 磁 気
*13 magneto-lab : research
*14 地球は大きな磁石
*15 Using Magnetotactic Bacteria to Study Natural Selection

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