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キスのカウント

暑さでうだるような日だった。カフェで待っていると、彼女が訪れた。ダークグレイのタイトなマキシワンピースから若さが蒸気のように溢れていた。

大学卒業後、彼女は地方都市で就職をした。学生時代に付き合った彼と別れ、そこで新たな出会いを期待したが、周りには既に相手がいる人ばかりだった。

理想の男性は地方から仕事を求め東京にいると信じた。彼女は直ぐにマッチングアプリを始めた。条件の良さそうな3人に巡り合い、遠距離の交際を重ねた。

Ⅲ回目
アイドルのような顔つきの彼。彼女は東京へ行き、一緒に遊び、ご飯を食べ、夜を過ごし、次の日家に帰った。彼が一番の推しだったが、人気があるからなかなか会えなかった。しかしお互いに自由で、執着はしなかった。

五回目
今までに会ったことのないタイプだった。彼は陽気で、面白くて、破天荒。初めて人間的に好きな人が出来た。けれども、二人の関係が壊れるのが惜しくて、仲が良いセフレに甘んじた。

0回目
年上の彼は常に安定してて優しかった。いつもご飯とお茶をするだけで、手さえもつながなかった。その紳士的なところに心惹かれ、彼女から真剣な交際を希望したが、断られた。その後、海外赴任になり会えなくなってしまった。

Ⅳ回目
多忙で会ってくれなかった彼から一緒にリゾートへ行こうと誘われた。イケメンは顔を見ているだけで楽しい。二人で乗った大きな象、美味しかった料理、美しいビーチの夕焼け。思い出作りのよう…。復路の空港で彼女は涙が止まらなくなった。他の女の影を強く感じた。もう会わないと心に決めた。

八回目
いつも楽しそうにしている彼が怒った。二人で参加したパーティーで、彼女が他の男性に口説かれている様子を見たから。今までお互い自由にしてきたが、彼の剥き出しの感情を知り嬉しかった。相思相愛であることに気が付いたので正式に付き合うことになった。彼は、東京から彼女のいる地方都市に職場を異動した。

1回目
友人と海外旅行に行った際、赴任している彼と落ち合った。そこで、以前交際を断ったのは他の女性と婚約した直後だったと聞かされた、併せてその1年後に離婚したことも。あのとき君を選べばよかったと彼に手を繋がれ、彼女に電気が走った。古城のような5つ星ホテルで抱かれ、忘れられない一夜を過ごした。

三十回目
結婚をした。そのタイミングで夫の東京への異動が決まった。彼女も会社に希望を出して東京へ。日々の生活は地方都市にいたときと特に変わりはなかった。夫は相変わらず面白く、楽しませてくれて、スキンシップも絶やさなかった。ただ、セックスがなくなった。急に女性としての価値が下がった気がした。

2回目
赴任先の海外から一時帰国すると彼から連絡があった。結婚してから男性の誘いは断っていたが、満たされない夜が続いていたのと、あの甘美な夜を思い出したことで、彼に体をゆだねてしまった。頻繁には会えないが、結び合う相手がいることに彼女は喜びを感じた。

Ⅴ回目
リゾートで別れた彼に「東京に引っ越した」と連絡した。一度タガが外れてしまった彼女の体は止まるところを知らなかった。彼は結婚していたがすぐに会いに来てくれた。その後も、何度も会うと結婚という境界線が曖昧になり罪悪感が薄まっていった。 

9回目
完全に帰国し彼が東京に戻ってきた。お互いに体を求めあい、毎日のように会った。夫と彼のいる2重生活が1年間続いた。彼は彼女が元居た地方都市へ転職を決め、そこで彼女が理想とした家を買った。独身である彼はさらなる幸せを求め夫との離婚を迫ってきた。彼女は過剰な愛に溺れていった。

X回目
体の相性のいい甘い顔つきの彼も、夫婦仲も円満で子育ても忙しくなかなか会えなかった。このままずっとキープしたいという気持ちもあるが、会えなければ満たされることはない。おのずと彼女から連絡する頻度も減っていった。

69回目
帰郷すると都合をつけて、経由地の地方都市にある彼の家へ行った。ここでの生活が始まるかもしれないと興奮したのもつかの間、1日中彼といたら強いストレスを感じた。あんなに頻繁に会っていたのに、生活が合わないことに愕然とした。この関係を続けるのはお互いに良くないと彼女から別れを告げた。

१*回目
彼と別れてしばらく経ってからSNSで知り合った既婚男性と会った。お互いにパートナーと別れた者同士で共感し合っていた。始めこそ強引だったものの彼女を大事にしてくれた。そして何よりも、彼によって濃密な性の世界を開眼させられ、離れられない存在になった。

三十一回目
夫婦で相談して月一で子作りのためにセックスすることを決めた。しかし、その回数では彼女が女として満たされないことに夫は気が付いてはいない。妊活とセックスを切り離すことに彼女はした。満たされない部分は彼に埋めてもらう。両立し、交じり合い重ね合い繋がり合っていこう。



※ 「१」はヒンディー語の数字で1

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