小説:森博嗣のWシリーズ "閃き"の表現に痺れる
森博嗣氏のWシリーズ。
2200年代の近未来が舞台のSF。
ウォーカロンと称される 人口細胞で作られた生命体が普及している未来の話。
まだ完結していないのだけど、2017年8月現在、以下の6冊が発売されています。
・彼女は一人で歩くのか?
・魔法の色を知っているか?
・風は青海を渡るのか?
・デボラ、眠っているのか?
・私たちは生きているのか?
・青白く輝く月を見たか?
今までのシリーズとの関連が浮かび上がってくるところも垂涎ものですが、
それ以上に、もう、「感覚」の表現がすごくて。説明に困る。
特に、
3作目『風は青海を渡るのか?』で、
主人公がウォーカロンと人間とについて閃いたシーンが美しすぎて、
主人公が感じた 閃き を追体験した気がしました。感動で鳥肌。
続いて4作目『デボラ、眠っているのか』の、主人公たちの思考が混じり合うところが秀逸すぎる。
閃きや混線という、主人公たちが感じた感覚を、読んでいる私が鮮やかに味わうことができるって、すごいことだと思う。
このシリーズを読めて幸せ。
登場人物たちの会話も、淡々と無機質な感じがするのにも関わらず、相変わらず面白くて、大好物。
淡々とした言葉のやりとりなのに、主人公のハギリと護衛?のウグイが段々と心を許していく感じがして、ふふっと笑ってしまう。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「一等寝室は、ここだけだそうです。二等はカプセルタイプになり、フロアも違います。いざというときに、駆けつけるのに時間がかかります」
「そうう理由から判断したんだね」
「はい」
「その、上の段には、どうやって上るのかな」
ウグイは、片手を上段のベッドにつき、ジャンプし、そこに腰掛けた。
「なるほど」僕は頷いた。拍手がしたかったが、あまり上品ではない。「夜中に落ちないように」
「落ちる確率は、高さには無関係です」
「落ちたときのダメージが違うだろう
?」
「高さがあった方が、落ちるまでに対処ができます」
なるほど、そうかもしれない。猫ならそのとおりだ。理屈っぽいが、理屈は必要なものだから、理屈っぽい方が優位だろう。いずれにしても、ウグイがジョークにつき合ってくれているのは確かだ。以前の彼女だったら、片方の眉を上げて、軽蔑の眼差しを返したはずだ。
* * *
「なんか似ているな、とずっと考えていたんだ」僕は彼女に話した。
「何がですか?」ウグイは首を傾げた。意味がわからない、ということだろう。
「この状況がだよ。えっとねぇ・・・、うーん、どうも、ぼんやりとなんだけれど、女神かな、そんな高貴な立場の人が、山の中に立て籠もってしまうんだ」
「それが、どうかしましたか?」
「古典が専門だから、知っているかと思ってね」
「そうですか」
「わからない?」
「アマテラスオオミカミのことでしょうか?」
「ああ、なんか、聞いたことがあるなぁ」
「そこから得られるヒントがあるのですか?」
「アマテラスオオミカミっていうのは、女神? 女性なの?」
「どうでしょう。そうではないか、というだけだと思います。誰も見たことはありませんし、遺伝子が残っているわけでもありませんし。記述としても、どうも女性っぽい、というだけだったかと」
「そう、やっぱりよく知っているね。その話で、隠れている女神をそとに出すために、楽しそうに踊ったんだよ」
『青白く輝く月を見たか?』より
◇◇◇◇◇◇◇◇
続きが楽しみです。
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