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チーズの街・アルクマール

オランダと聞いて連想するものとして、風車やチューリップと並んでチーズを思い浮かべる人も少なくないだろう。
そんなチーズ大国たるオランダにおいて、伝統的なチーズ取引の様子を今に伝える街がある。
今回はそんなチーズの街アルクマールを取り上げたい。

アルクマールはこんな街

アルクマール(Alkmaar)はオランダ西部・北ホラント州に位置する人口約10万人の街である。
10世紀頃に漁村として誕生したアルクマールは、中世の間に徐々に発展を続け、16世紀のオランダ独立戦争(八十年戦争)においてはスペイン軍の猛攻を退け、北部オランダ独立の鍵となったことでも知られる。
その後干拓事業によって低湿地が干拓されてからは北ホラント州屈指の交易地としても栄えた歴史を持っている。

チーズ大国オランダ

オランダは世界5位の生産量を誇るチーズ大国である。
オランダの人口一人あたりのチーズ消費量は18.5kgと日本人の約8.5倍もの量を食べるほどチーズをこよなる愛する国であり、ハード/セミハードチーズの代表格であるゴーダチーズエダムチーズはいずれもオランダの街の名前から取られたオランダを代表するチーズの品種である。

そんなゴーダ、エダムで実施されるチーズ市をしのぎ、オランダNo.1の歴史と規模を誇るチーズ市が行われているのがアルクマールなのである。
その歴史は1385年に遡り、最大で1日300トンものチーズが取引されていたという。
現在でも現役のチーズ市であり、観光客にも人気のスポットとなっている。

アルクマールへのアクセス

アルクマールへは首都アムステルダムから電車でおよそ40分程度の距離であり、十分に日帰り可能な距離である。
チーズ市が行われているのは4月から9月の毎週金曜日である。
私がオランダに到着したのがちょうど金曜日のことであったため、アムステルダム・スキポール空港に到着するなり、アムステルダムを素通りしてアルクマールへと向かったのであった。

自転車ゾーンがあるあたり、さすが自転車大国オランダだと感心したものだが、ヨーロッパでは特段珍しいものでもないと知るのはもう少し後年のことである。

電車はほぼ定刻でアルクマールへと到着した。

アルクマールの駅から、チーズ市の行われる市街地へは1kmほどの道のりだ。
のどかな地方の町と言った風情の道を進む。

やがて店が立ち並ぶストリートに差し掛かると、目的地はすぐそこだ。

チーズ市と博物館

チーズ市が開催されるのは、市の中心部に位置するワーグ広場(Waagplein)である。

チーズ市は人気のアトラクションであるため、多くの人で賑い、最前列で楽しむにはかなり前から待たなければならない。
そうでなければ背の高い西洋人の後塵を拝してこんな感じになる。

そこで見物の穴場スポットとしてオススメなのが広場の後ろに立つチーズ博物館だ。

この博物館の展示室の広場に面した窓からはチーズ市の様子を眺めることができるのだ。

整然と陳列されたチーズたち。今でも1日に30トンのチーズが取引されているそうだ。

待つことしばし。明らかにゴーダチーズを意識したと思われる明るい色のジャケットを纏ったチーズおばちゃんの司会によって取引が開始される。

チーズ市を回すのはそれぞれに役割を持った男たちだ。

チーズおばちゃんが隠れているので探してみよう

チーズたちは'ingooiers' (トス屋)の手によって運ぶための荷台に載せられていく。

1つ10kgあるという塊チーズを何故か至近距離から投げて渡す男たち。

台に載せられたチーズたちは'kaasdragers'(運び屋)の手によって運ばれていく。このあと 'waagmeesters'(測り屋)たちによって重さが測量されるのである。

このチーズ市はただのパフォーマンスではなく、れっきとした商取引であるので、観光客が買うこともできる。
伝統衣装を身にまとった女性に声をかけると買えるらしい。
もっとも10kgのチーズを持ち帰る酔狂さと腕力が必要だが。

実際のところ観光客向けには、小さく切られた詰め合わせも販売されているようだ。

博物館にもこれらの商取引で伝統的に利用されている道具類が展示されているので、運び屋気分を味わうことも可能だ。

運ばれていったチーズたちはリアカーからトラックへと積み替えられて各地へと出荷されていく。

'zetters'(積み屋)によって出荷されていくチーズたち。
ここでは投げずに転がされるらしい。

意外な博物館

アルクマール観光の目玉はやはりチーズ市とチーズ博物館と言えるだろう。
だが、それ以外にも意外な博物館がある。

言わずとしれた伝説的バンドThe Beatlesの博物館である。
ビートルズの聖地といえば出身地であるリヴァプールや、デビュー前に長期巡業を行ったハンブルクなどが挙げられるが、なぜオランダのアルクマールに博物館が存在するのか?
そこには浅からぬ縁の存在がある。

なんとジョン・レノンが初めて使ったギターがアルクマール製であるそうだ。
つまり、ジョン・レノンの音楽性の形成にアルクマールは大いに貢献をしていると言え、ビートルズとは切っても切れない縁を持つ場所であり、訪問しない手はない場所であると言っても過言ではないだろう。

なお、私は行っていない。

実際のところ、1200㎡の広さを誇る館内に豊富なコレクションが展示されているようで、ファンならば訪れる価値は十分にあるのではないだろうか。

その他、アルクマールは川沿いの可愛らしい家々や、

風車などといったいかにもオランダらしい光景を随所に見ることができるので、ぶらぶら街歩きするのもおすすめだ。

また、チーズ市の行われる日には広場の周りに露天も並ぶ。
オランダの伝統的なミニパンケーキ・ポッフェルチェ(poffertjes)を楽しむのも良いだろう。

アルクマールのマグネット

アルクマールのマグネットがこちら。

広場に整然と並べられたチーズをそれを運ぶ男たちだ。
いかにもアルクマールらしい光景と言えるだろう。

このマグネットは肝心の磁石がとても弱いため、別途マグネットを裏に貼り付けて補強している。


チーズ王国オランダにおいて、6世紀の時を超えて行われているアルクマールのチーズ市。
オランダらしい原風景を楽しみたいのであれば、ぜひとも訪れてみたい街と言えるのではないだろうか。


最後までご覧いただきありがとうございました。
次回は誰もが知るアニメの聖地の街を取り上げたいと思います。

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