湯浴みの聖地・バース
風呂は日本人の心であり、入浴はリリンの生み出した文化の極みである。
そんな日本人と並んで風呂をこよなく愛したのが古代ローマの人々だ。
イングランドにはそんなローマ人が創ったテルマエが今にその姿を遺している。
今回はそんな風呂の街・バースを取り上げたい。
バースはこんな街
バースは、イングランド南西部サマセット州に位置する人口約9万人の街である。
古くはケルト人が住んでいたと考えられるこの街が発展を遂げたのは2世紀頃、古代ローマ支配期と言われている。
その要因はこの地に湧いていた温泉であり、病気に効能があると考えられたこともあって、街は城壁で囲まれた温泉の街として栄えた。
ローマ帝国の撤退後も温泉の利用は続き、18世紀頃からは保養地としても利用され、以後イングランド有数の観光地となった街は、1987年に「バース市街」として世界遺産にも登録されている。
なお、バースのスペルはBath、すなわち風呂(bath)と同じである。そのため、風呂の語源となったと語られる場合があるが、実際には風呂があるからその地名がついただけで、語源ではないようだ。
ローマの至宝
バースの街最大の見所は、やはりローマン・バスと呼ばれる古代ローマの公衆浴場である。
屈指の人気スポットとあって、休日には多くの人で賑わい、行列ができる。
エントランス部の優雅な内装は19世紀に再建されたものである。
18-19世紀のジョージアン時代に富裕層の保養地として復活を遂げたバースにはその当時に開発された建築が多く存在する。
ローマン・バスに関しても外装はその当時の建造物となっている。
エントランスには世界遺産を示すマークが誇らしげに飾られている。
建物内では、ローマ時代の遺構や異物が保存された博物館にもなっており、
一大娯楽施設として栄えた当時の様子を窺い知ることができる。
当時は、大浴場の他に小規模な浴場や、プールにサウナ、床暖房まで設置されたそうである。復元図を見ると、現代のスパリゾートの案内図と言われても納得するような充実ぶりだ。
そして流れる源泉も未だに健在であり、イギリスにいながらにして硫黄感のあるTHE温泉という湯を感じることができる。
そして最大の目玉はグレートバスと呼ばれる大浴場だ。
紀元後75年に作られたと言われているこの大浴場は45枚の鉛板を敷き詰めた深さ1.6mの大浴場で、ローマ時代の姿を今に残している。
当時は高さ20mのホールだったそうだが、現在では周囲の柱や壁のみが残っている。
残念ながら現在は入ることができないが、ローマ人に扮したスタッフが当時を偲ばせてくれる。
蘇る秘宝
ローマ人の撤退後も温泉の文化は続いていたが、1978年に一時完全に閉鎖され、バースに入浴のできる施設は失われてしまった。
しかし、依然として湯は湧いており、人気観光地としての地位を確立していたバースに2006年にスパがオープンし、温浴施設が復活した。
それがサーメ・バース・スパである。
ローマン・バスやバース寺院(Bath Abbey)にほど近い位置に作られたスパでは屋上の露天風呂を楽しむことができる。
温泉の入浴文化を捨てるという暴挙に出てしまったイングランドの湯の街に28年ぶりに湯けむりが立ち上ったのである。
かつて「どうして毎日1度は風呂に入るのか?」と訪ねられたローマ皇帝は「1日に2度入る時間がないからだ」と答えたという逸話がある。
今からでもヨーロッパの人達はその気概を取り戻すべきだし、
ローマ皇帝はしずかちゃんを見習うべきだと思う。
このスパが混浴だと聞いた私の友人は、わざわざ別行動を取って意気揚々とスパへと消えてゆき、1時間後「あまり人がいなかった」としょぼくれて帰ってきた。
バース名物
バースにも名物とされる食べ物がある。
温泉地の名物といえば、まんじゅうに卵が相場であるが、残念ながらそれとは趣が異なる。
行列のできる小さな古い建物が、その元祖と言われている。
こじんまりとした店内でいただくことができるのが、サリーラン(Sally Lunn)と呼ばれるパンだ。
1680年にフランスから亡命したユグノーの女性、サリー・ラン(Solange Luyon)が作り始めたものと言われており、ブリオッシュのような風味を楽しめる。
ジャムやクロテッドクリームなどと一緒に食べることもできるが、ちょうど小腹が空いていたタイミングだったので、食事として楽しんだ。
バースのマグネット
バースのマグネットがこちら。
バースを象徴するローマン・バスが描かれた一品だ。
ところで水が緑色なのは、泉質ではなく藻が繁殖しているかららしい。
そう聞くと俄然歴史あるテルマエがシーズンオフのプールに見えてくる。
風呂をこよなく愛する日本人にとって、今も湯が湧き出るこの地で、遥か昔の日常的な湯浴みが楽しまれていた時代に思いを馳せ、数千年の時を超えた共感とノスタルジーを楽しむのも良いのではないだろうか。
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