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なぜセールスやマーケティングから人事にジョブチェンジする人が少ないのか


事業部→人事のジョブチェンジのトレンド

最近は「人事経験不問」「セールスやマーケティング経験者募集」という人事の求人をよく見かけます。私自身、BtoBマーケティングを長らく続けて、3年前から採用の仕事を始めましたが、セールスやマーケティングスキルが採用に活きるだけでなく、事業部の経験があることで人材要件や組織の理解度が深まるので、事業部経験者が人事にジョブチェンジすることで大きな成果を出せるというのは、実体験としても理解できます。

一方で、セールスやマーケティングから人事にジョブチェンジする人はまだ少ないでしょうし、今後もあまり増えないのではないかと私は予想しています。それはスキルの問題ではなく、WillとCanが一致しないからです。

事業部と人事のミッションの違い

セールスやマーケティングは、会社によって業務は違えど、リード数や商談数やアポ数や売上を増やすための仕事です。言い換えると、彼らは事業やプロダクトを作り、成長させることがミッションです。軍事で喩えるなら、前線で武器を持って戦ったり作戦を指揮したりと、戦略・戦術を担当しています。

一方、人事や採用は、人材を採用・育成したり、人事制度や組織を作ったり、社員のエンゲージメントを高めたりと、人や組織を作り、成長させることがミッションです。もちろん組織が成長することで結果的に事業やプロダクトが成長するのですが、セールスやマーケティングに比べて、直接的には事業やプロダクトを成長させるものではありません。軍事だと、武器や食糧を輸送したり人員を配置したりと、兵站を担当しています。

戦争では前線と兵站どちらが欠けても勝利できないように、企業も事業と組織の両輪で成り立っています。なので優劣は無いのですが、私の経験則でいうと、セールスやマーケティングは事業やプロダクトの成長に対してモチベーションを感じる人が多いように感じます。自分の手でプロダクトを広めたい、顧客の課題を解決したい、自分の作った施策で数字を伸ばしたいとかですね。一方、人事部に異動すれば、事業やプロダクトを自分の手で成長させる機会は無くなります。

セールスやマーケティングのスキルが人事や採用に活きるのはその通りですが、それはあくまでCanであって、彼らが人事や採用をWillとして掲げるかというと、一番には掲げないでしょう。私自身、採用の仕事は好きですが、組織よりも事業を優先して働きたい人間なので、マーケティングのほうが好きです。

事業やプロダクトを離れることの寂しさ

ここで『なれる!SE』という古いライトノベルの一節を紹介します。簡単に説明すると、ブラックな中堅SIerに入社した主人公が、インフラエンジニアやSEや営業やCSやPdMなどを経験した後、総務部から「君は優秀だからIPO準備のため総務部に異動してくれないか」と打診されるのですが、彼はその異動に迷いを覚えます。

PMもCEも運用エンジニアも、サービス開発もプリセールス担当も、突き詰めてしまえばシステムエンジニアの一種だ。切り口が違うだけでどこかで技術と繋がっている。だが労務・経理・IRとなれば話が別だ。コンピュータを使ってもそれはあくまでツールとして、業務遂行の手段として。自らが主体的にシステムを作り上げることはなくなる
(SEを……やめる?)
ぞっと背中の毛が逆立った。

『なれる!SE』15巻

これはエンジニアの例ですが、セールスやマーケティングに置き換えても同じことが言えます。スタートアップだと、セールス・マーケティング・カスタマーサクセスなど事業部でジョブチェンジをすることは珍しくありませんし、それに大きな抵抗を覚える人は少ないように思います。それは、業務の役割分担はあれど、事業を作り、成長させる仕事ということは共通するからです。一方、人事部に異動すれば事業との繋がりは絶たれます。

※昔ジンジニア(エンジニア出身の人事)というのが流行りましたが、最近ほとんど見かけなくなりました。人事になりたいエンジニアが少なかったのが原因ではないかと推測しています。

私のようにフリーランスであればマーケティングと採用のかけもちも可能ですが、会社員だとマーケティング部と人事部の兼務になることはめったに無いでしょう。マーケティング部から人事部に異動すれば、事業のマーケティングからは完全に離れるはずです。それは事業やプロダクトから離れることを意味します。

『なれる!SE』の主人公はその後色々な経緯を経て、総務部への異動を強制されそうになるのですが、最終的には会社を辞めて独立したため、総務部ではなくエンジニアの道を選びます。奇しくも私と同じフリーランスですが、キャリアは人それぞれなので正解はありません。自分の生き方や仕事を自分で決めたいのであればフリーランスがマッチしますし、会社のためなら何でもやるタイプの人は人事部に異動するのもありでしょう。

事業部→人事のジョブチェンジを納得してもらう方法

ここまでは社員視点でのキャリアの話でしたが、会社視点で言うと、事業サイドの人間を人事や採用に異動させたいという意向はあると思います。特にHRBPなど組織作りに重きを置くポジションの求人を見ると、人事プロパーよりも事業部の人間を配置するほうが主流に思えます。

「業務命令だから」と割り切って異動を命じるのも一つの手ですし、それで納得する社員もいるでしょうが、中には抵抗を覚える社員もいるでしょうし、あまり無理強いすると転職するかもしれません。その場合、どのように説明して異動を納得してもらうべきでしょうか。仮に私が社員だとして、異動を命じられた場合、事業部から人事に異動するメリットを説明されれば納得する気がします。具体的には、以下のようなものです。

  • 人事を通じて組織作りの経験ができるので、仮に人事から事業サイドに戻ったとしても、その経験が役にたつ。CMOやマネージャーなどキャリアアップができる可能性もある。

  • 事業部と人事を両方経験した人材は稀少なので、仮に転職するとしても事業、人事どちらも選択できるので、キャリアの選択肢が広がる。COOやCSO(Chief Strategy Officer)など、事業と組織両方を見るポジションに就くことも考えられる。

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