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青春の筋肉痛

高校のとき、数少ない友だちでRというやつがいた。
眼鏡をかけてオタク気質だがユーモアのあるやつで面白かった。
2年でクラスが一緒になって仲良くなってからは学校でよく一緒に過ごしていた。彼は帰宅部だったので弓道部の僕とは学校で過ごすことが主で昼飯は彼を含む4人で食べて、トランプしたり喋ったりして休憩時間が消化されていた。

あるときRと筋トレをしようという話になった。
どういう経緯だったかはもう覚えてないが一緒に筋トレを始めれば相乗効果で長続きして鍛えられるんじゃないかということだったと思う。惰性の僕もそれなら頑張れるかもとその話に乗って僕は腹筋、Rは胸筋という部位指定で始まった。
休憩時間にどんな感じかを報告し合うだけの他愛もないやり取りだった。

ある日のテスト期間、Rを含むいつものメンバーでカラオケに行くことになった。
普段予定の合わない僕らでもテスト期間は部停期間になるのでせっかくならと駅近くのカラオケに遊びに行った。
カラオケ自体は楽しかったのだが問題が生じた。
途中不良っぽい他校の学生2名が入り込んできたのだ。
カラオケは壁が薄く隣の音漏れが聞こえるのは当たり前なのだが何かの拍子でRとは違う運動部の友だちが壁を叩かれたと思い、軽いノリで叩き返していたみたいだった。それに腹を立てた不良が乱入してきたのだった。
実際には腹を立てたのは1人でもう1人はなだめる係だった。
スクールカーストで言えば中の下くらいの目立たない僕らには恐ろしい出来事だ。
平和に終わらせたかったが運動部の彼は引かなかった。
「頼むからやめてくれ」と心の中で思っていたが、全然謝る様子もない。一触即発の中で僕らがまあまあと間に入ると不良に胸を押されて弾かれて床に手をついた。
Rも同様に押されたが胸筋を鍛えていたお陰で弾かれるどころか微動だにしなかった。
不良も一瞬びっくりしていた。
だって胸筋が強かっただけであとは全然強くなさそうなのだから。
腹でも殴ってやれば怯んでいたかもしれないが、どんまい不良。

こんな一悶着を乗り切った僕らはRの胸筋を帰りに絶賛しまくった。
筋トレがこんなときに役立つなんて。

そんな彼とは卒業後は全く交流はないのだが、約10年ぶりに地元のディスカウントショップでレジをしているのを目撃した。
人見知りの僕だが声をかけたくなったのでレジに並んで「覚えてる?○○だけど!」と話しかけた。

「○○?ちょっと覚えてない」
彼にとって高校生活は消したい黒歴史なのかどうかわからないが僕はその日以降そのディスカウントショップに入れないでいる。
最近筋トレしていないけど胸筋あたりがチクッとするな。

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