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リスカ跡みたいな傷

傷跡

 わたしには、左腕にリストカットをしてできたような傷がある。

 と言っても、なんてことはない、10代の頃、実家(もうすぐ限界集落)の犬(コーギー)を散歩させていた時にその犬に嚙まれてて出来た傷だ。散歩中、犬が動かなくなり(拒否柴みたいに)、仕方なく抱きかかえて連れて行こうとした時に噛まれた。その犬は、わたしに懐いていたし、威嚇しただけで嚙むつもりはなかったのかもしれないが、その傷跡が、まるでリスカ跡のようになってしまった。

異世界東京に転生?

 もう10年以上前、上京して池袋の近くに住んでいた頃、よく池袋駅を使ってたのだけど、ある夏の日、駅の構内で見知らぬ若い女性に声をかけられた。
 
 その女性は、顔はよく見てはいないが、20代前半だったろうか、スーツケースを片手に持ち、服装もいかにも今どきの若い女性といった印象。
 
 女性は、「ドンキ(駅のそばにあるほう?それともホテル街にあるほう?)で知り合った男性にお金を盗られたんです。」というようなことを話した。
 わたしは、少し考えてから、駅を出てすぐのところに交番があるのを思い出し、「そういうのは警察にいったほうがいいかな」と言った。それから何かを話したかは忘れたんだけど、その後、彼女はこう言ってきた。

 「ねぇ、わたしと遊ばない?」

 当時のわたしは、どういうことなのかわからずしばらく考え込んだ。お金を盗られたけど遊ぶとはどういうことなのだろう?と。東京ではそういうものなの?ってね。東京っていう異世界に転生しちゃったみたい。

 そして彼女は眼を輝かせて、わたしの腕の傷を触ってきた。今思うと、同じ類の人間を見つけたと思ったのかも、まぁ、それは、当たらずといえども遠からずと言ったところ。男でそういう傷跡があるのが珍しいと思ったのかもしれないけど。

 結局、自分がどうするべきなのかわからず、彼女の場を立ち去ってしまったのだけど。今なら違った対応を取っていたかもしれないな。

 これも、当時のわたしはよくわかっていなかったのだけど、彼女はいわゆる「立ちんぼ(いい言葉だとは思っていません)」だったのだろう。そういう人とは全く無縁の世界に住んでたんだからしょうがないかな。今後の人生に活かします。

勘違い乙?

 彼女はリストカットの跡と勘違いしたかもしれない。そう考えると、今まで色んな所で誤解されていたのかもしれないな。半袖のシーズンやワクチン接種したときとか色々。
 
 そういえば、母親はリストカットでもしたのかと心配していた(親戚のお姉さんが手首を切って自殺未遂を図ったことがあったので余計に)。
 
 まっ、別に傷跡を消したいとは思わないんだけど。なんか面白いし。

切ない何か

 「立ちんぼ」というものが世間を賑わす時代。社会的弱者なのかそうでないのか、彼女の人となりをわたしに知る由はない。もうちょっと話を聞いてみてもよかったかなぁ、と思うのは正直なところ。とは言え、わたしが彼女に何かできたとは思わないけど。言葉は悪いけど、今のわたしの単純な知的好奇心。「一期一会」を大切に。
 
 彼女が生きていれば30代位になっているんだろうけど、どこで何をしているのか考えると、胸がざわつくというか、ちょっと切なくなるようなならないような。

 ―傷跡を見てふと思い出した、そんな昔の話。

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