『燃えよ剣』上・下 司馬遼太郎著 新潮文庫

本書を読み終える前に、岡田准一が土方歳三を演じた映画『燃えよ剣』を先に劇場で観た。岡田は以前から映画の宣伝でバラエティ番組に出演するたびに「サムライか軍人役のオファーしか来ない」と冗談めかしているが、決してそんなことはない。「ファブル」も素晴らしかった。ただやはり、一つの道をただひたすらに極めようとするサムライの生き方が、アクションを極めたい岡田にいちばん似合うことは確かなのだろう。
土方歳三の場合は、己が信じる道を「きわめる」すなわち「極める」あるいは「究める」というよりは、むしろ、道を「生き抜く」「ただ真っ直ぐに駆け抜ける」といった方が正しいような気がする。そしてその道は「武士道」といった高尚な精神論ではなく、ひたすらに相手を倒すことだけを求めた喧嘩の道だった。
これだけでも、稀有であり、人を引きつけて当然の人間像なのだが、彼の喧嘩道は、いかにして敵を倒すかという実践的な戦い方、兵法を含む。かと思えば、俳諧を嗜むというもので、そのギャップがさらに人物に深みを加えてくれる。
ここに近藤勇、沖田総司との心の交わり、お雪との恋(これは創作だというが)が加わって、重厚な物語になっているところが、司馬遼太郎の味わいと言っていいだろうか。
いずれ時間を置いてまた読みたい作品である。そして、映画も、原作を読み終えた今、また改めて見直してみたいと思う。


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