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【短歌】最近の入選作

ネットの短歌企画で、最近いくつか佳作・秀作に選んで頂きましたので、入選作と頂いた選評をまとめました。
(以下に挙げる短歌のほとんどは、過去にnoteで公開したものです)

★第5回毎月短歌の11月自選部門 秀作

「いい人は、いなさそうだね」そう言えば恋ってものがあったんだっけ
(選者:北原有さん

展開の仕方が素敵です。セリフを入れた短歌は難しいですが、下の句とのつき過ぎず、離れ過ぎずのバランスが良く、しっとりと歌の世界に入っていくことができる一首でした。

北原有さん「第5回毎月短歌 北原有選」より

★第6回毎月短歌のテーマ詠「肌」部門 ネクストぽこ賞(佳作)

新色のコスメをさしてこの肌は最強だから冬空を裂く
(選者:外村ぽこさん

自分は男なので、がっつりしたメイクはしたことがないんですけど、主体の、新色のコスメを使ってテンション上がって自分が無敵になる感じっていうのは、何となく分かるんですよね。
新色のコスメが何なのか、アイシャドウなのかチークなのかは分かんないですけど、「この肌は最強!」って表現しているところがすごくいいなって、ギャルマインドじゃないですけど、すごくいいなって思って。
「冬空を裂く」っていうのがやっぱり、寒いけど……寒いと猫背になっちゃうじゃないですか。でも、肌に新色のコスメをさしてると、それを見せたくなるというか、背筋を伸ばして歩ける感じがするじゃないですか。それがすごくカッコイイというか、主体のテンションが上がってる感じというのが生き生きと伝わって来るので、すごく好きでした。

外村ぽこさんのスペース「短歌選評ラジオ」より(桜井が文字起こし)

★「短歌の冬」の十首連作部門 佳作

連作タイトル:車椅子の風景
多様なる人の世なれば多様なる歩き方ありタイヤの足跡
自由とは善意の人に階段を運ばれるより一つのスロープ
狭い歩道、歪んだ地面、石畳、用を成さない急なスロープ
スロープの入口塞ぐ自転車よ置いてやろうか檸檬をひとつ
届かない横断歩道の押しボタン押して去る人、今日のヒーロー
車椅子で良かったことは特にない、推しが覚えてくれる以外は
爆音を浴びて拳を突き上げれば立ち上がれそうなライブ会場
介助請う我を見れども我でなく連れに応える駅員もいて
我先とエレベーターへ駆けて行く健脚の二足歩行者たち
「おもいやりエレベーター」に車椅子用ボタンなくて許される国

(選者:田中翠香さん

よくできた社会詠。という言葉では何の評にもなっていないだろう。作者が車椅子ユーザーかはわからないが、ふだん車椅子からは縁遠い私のような人間にとっては、まさに読んだ瞬間から世界の見え方が変わる連作だ。
一首目がとにかくいい。言われたらその通りだ。だが、言われる前にそのことを意識した瞬間が、いままでどれくらいあっただろうか。歩き方は多様だ。そして歩き方とは単なる二足歩行だけではない。車椅子もそうなのだと、意識の外側にある部分を鋭く提示する。三首目の檸檬が鮮烈だ。梶井基次郎がベースにあるのだろうが、人間はみな健常者ということが前提で構築されたこの社会へ強烈な怒りを提示している。六首目は推し活だろうか。主体の率直な感想であろう。認知を得られたささやかな喜びと、日常の苦しさから離脱したような晴れやかな一瞬だ。
車椅子ユーザーだが日常は様々な人に助けられているから大丈夫、という綺麗事は描かれていない。車椅子を日常的に用いる一人の人間の心の揺れと、その個人としての社会との葛藤が、複数の景を切り取りつつ確実に読者に迫ってくる。
全体を通してこの社会における物理的な生きにくさと、それに起因する精神的な生きにくさを率直に、そして確かな血肉をもって描いた素晴らしい作品だった。

田中翠香さん「短歌の冬 10首連作部門 田中翠香選」より

選者の皆様、私の短歌を選んで下さったうえに、素晴らしい選評をありがとうございました。どれも身に余るお言葉でした。

今回取り上げた短歌を初めて公開したときの記事は、こちらです↓
企画応募時に少し修正した歌もあります。



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