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第5回毎月短歌 北原有選


あけましておめでとうございます。
北原有です。
今年もよろしくお願いします。
選評記事を投稿するのが遅くなり、申し訳ございません。

前回選者を担当した際の基準から変えずに選を行いました。
どのような基準で選をしたのか明記いたします。
・特選、秀作、佳作の3つの賞を設け、特選と秀作に選評を書きました。

・読んでいて特にグッときた作品を選んでいます。韻律の気持ちよさ、新しい視点がある、語の選択が面白い、エピソードを上手くアウトプットしている等理由は様々です。それらを複合的に検討し、選びました。
・選をする上で、応募者の名前を隠して選をいたしました。評を書くときも名前を見ていません。選評記事にまとめるときに名前を拝見いたしました。
・分かち書きや句ごとの字空けなどがある作品は、それらが歌の魅力を増幅させているか、効果的に使われているかを吟味しました。

自由詠

【特選】

空気入れ、それっぽい言葉、夢の網 いくつになってもうまく使えない/石村まい
上の句で羅列された言葉たちが、つづく下の句で作者にとってどんな存在かであるかが明らかになります。そこで読み手は羅列された言葉同士がなぜ響き合っているのかがわかるのです。うまく使えないことが悔しいとか(悔しさもあるでしょうが)そういうことだけではなく、もっとニュートラルな作者自身の核みたいなものが一首の中からうかがえます。
夢の網という抽象的な言葉が、歌の「コク」になっていて味わいが深いものになっています。

寒さより冷たさのほうがつらかったフルニトラゼパ厶が溶ける青/キナコモチコ
寒さと冷たさについて作者なりの定義があり、感じ方の違いがあるのだと考え、読む目に力を入れて読んでしまいました。私はその人の思想や哲学が少しだけ透けてくる歌に心を打たれるのだなと。歌の中に固有名詞を使うことは結構難しさがあると思いますが、この歌の「フルニトラゼパム」は全体の流れの中に溶け込んでいて良いと考え、優秀作としました。

【秀作】

古くなりテフロン加工が剥げ落ちて、こびりついてる日々 炎 愛/久我山景色

「日々 炎 愛」がいいですね説明しすぎず、並べるだけでも全部伝わってくるのがこの歌の面白さのひとつかなと感じました。
さらっとしているけど凄い情念みたいなものが透けていて、素敵な一首でした。

夫婦して継いだ中華屋切り回す幼なじみを風の噂で/藤本くま
切り回す、と、風の噂で、が、この出来事を思い起こしたスピード感を出しているのか、と考えながら読みました。
助詞をけっこう抜いてるなという印象はありますが、悪い影響は起こっておらず、一首として読みたいことを過不足なく詠んでいると感じました。作者が言いたいことを言っている歌って面白いからなーと思います。

【佳作】

神様は私をレンチンする時に外装フィルムを剥がし忘れた/遠藤ミサキ

生き方に迷うと何も選べずにイオンモールは迷宮になる/くらたか湖春

もし僕があと二駅で降りたなら君が笑顔で待ってる気がして/藤瀬こうたろー

丁寧な暮らしは遠く惣菜をとめる輪ゴムの謎のねばつき/ぐりこ

医院にもクリスマス色あふれ出し癌と向き合う自分を褒めた/古城えつ

題詠 食
【特選】

朝の分の食器を朝に片付ける告白前に捨てるプリクラ/遠藤ミサキ
捨てたプリクラに写るのは昔の恋人かもしれない。朝の分の食器を朝に片付ける、という作者にとっては当たり前の習慣と同じように、以前の恋愛の片づけをする。カラッとしていて、でも告白前になるまでプリクラを捨てていないという人間らしさもある。儀式、儀礼みたいなものにグッときた。魅力的な一首。

「彼女とは来んよ」ときみは笑いをり私ビールと酢豚の女/つし
「私ビールと酢豚の女」という体言止めが気持ち良い。歌としての流れが心地よくて口ずさみたくなる。
相手に対して何かしらの好意が滲み出ているように思う。それが恋愛感情でも友愛でもどちらでも面白い歌であり、一首としての強度が極めて高いと感じた。

【秀作】

ご馳走は向かいの席に人がいて美味しいねって言えるひととき/死んでるみたいに生きてる
素直な歌で強い好感を持った。素直な感情を定型の中に流し込めるのが短歌の面白いところであり、一つの原点のように私は思っている。
まっすぐな言葉がまっすぐ伝わる。素敵なストレートです。

牛丼屋のタッチパネルが動かない十一月の夜はさびしい/汐留ライス
疎外感やさみしさを、日常で起こったエラー(誰しも体験しうるが頻繁に起こるわけでは無い)に落とし込んでいて技巧的だが、テクニック過ぎないバランスで詠まれていた。

メイドカフェで出されたオムライスの味が驚くくらい母のに似てる/宇井モナミ
メイドカフェという非日常空間で日常を感じるのが面白かった。なんでだろうという思いと同時に妙に納得するような感じもあって、作者の表現から自分もそれを追体験できるような没入感がある。
初めの方の韻律が重いかなとも思ったが一首全体では良いリズムだと感じた。
一首単位で選ぶのが企画のセオリーなので選考理由とは離れるが、この歌が入っている連作超面白そー!!と思った。そのまま散りばめることもできれば、連作の構成にかかわる装置になりそうな歌でもある。

たまごやき 朝から焼いた たまごやき
えらいぞわたし がんばれわたし/ふわふわ
全部一字空けを選択しているのが、歌の雰囲気と合っていて際立つ。
たまごやき、と、わたし、のリフレーンなわけですが、「がんばれわたし」が心に染みた。疲れてる時読んだら泣いてしまうかもしれない。

【佳作】

欲望の純度について 店員がじょうずに零すスパークリング/石村まい

焼肉のたれを魚にかけるのだしかも刺身だ焼いてないのだ/汐留ライス

胃カメラの検査の前に麻雀の牌を食べるとしたら、四萬/深山睦美

玉子焼き今日は焦げずに焼けたから食べにおいでよ褒めてもいいよ/宮緖か

11月自選

【特選】

律儀だね酔いに任せた告白は既読スルーをして欲しかった/くらたか湖春
定型のリズムに乗っていてかろやかだけど、さみしい、苦しいが心を刺してくる。
「を」が良いですね。現実のことを歌えている感じがします。ぐっと引き戻してくる。

作文に出てくる君は旧姓で押せばどうにかなりそうだった/猫背の犬
押せばどうにかなりそうだった、というちょっとだけ歪んだ視点から詠まれた、もうどうしようもなさ。惹き込まれました。韻律も気持ちよくて、素敵な歌です。
恋ってこういうことがあるから辛いし、面白い歌になるんだよなーと改めて思いました。

【秀作】

iPhoneを指で愛撫す午前二時君ほど愛した人はいない/野口み里
恋愛の甘やかな陶酔感がよく表現されていました。午前二時、触れているのはその人ではないのに、愛情が伝わってくる。

「いい人は、いなさそうだね」そう言えば恋ってものがあったんだっけ/桜井弓月
展開の仕方が素敵です。セリフを入れた短歌は難しいですが、下の句とのつき過ぎず、離れ過ぎずのバランスが良く、しっとりと歌の世界に入っていくことができる一首でした。

柔らかくきみのかたちが残された背もたれに手をふれそうになる/daist
優しさと温かさがあります。デート後の幸福に満ちながらも少しさみしい瞬間を正面から捉えています。助詞の使い方がやわらかく声に出して読みたくなる一首です。

【佳作】

嘘にしかない味が好きな人もいるメロンソーダの香りが好きだ/遠藤ミサキ

去り際は美しくあれ 帰り道持て余すのに貰う花束/ぐりこ

優しさを全部あげたいエジプトに渡らず死んだツバメのように/睡密堂

山賊になりたい夜がやってくる夜襲であなたを奪い去りたい/野口み里

あのひとの私を叱らないとこと私に興味ないとこが好き/遠藤ミサキ

今回もありがとうございました。
こちらもまた勉強の機会を与えていただき、誠にありがとうございます。

前回選者を務めた際に、
・この歌はどこを変えていたら入賞していたか、また上位の賞になっていたか
ということを希望者にお伝えしておりました。
その際に最も多くした回答が
韻律を整えること
でした。

たくさんの応募作品すべてに目を通すと、やはり韻律の整った歌が目立ちます。
歌の内容が素敵でも選者の目を溢れてしまう歌がやっぱりあるのです(なるべくそんなことがないように選をしますが、難しいですね)
僕は初句6音は全く気にしないのですが、全体通して2音以上の余りや、中8などは読後がどうしても、もたっとしまうので少し気になります。
破調の歌も大好きです。しかし、短歌という韻文をやる以上、定型とは付き合っていかなくてはならないですし、定型へのリスペクトがなければ良い破調の歌は生まれ得ないとまで思っています。
選者をやってみると、韻律というものは選者の好みを超えた重大な要素なのだなと強く感じます。

大変光栄なことに、今後も選者を務める機会がありそうです。今後も選の基準は変えずにやっていこうと思います。
北原が韻律のことを言ってたなーくらいでも良いので少し覚えていただけたら嬉しいです。

これからも愛を信じていきましょう。
また会いましょう。

北原有

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