「チャリング・クロス街84番地」

 書店で勤務している私は、出版業界、もとい、書店の売上が減少していることや紙の本が売れなくなっていることを日々体感しています。コロナでの外出自粛期間は奇跡的に前年を上回る売上を挙げた月もありましたが、今年に入ってからは当たり前のように前年割れ。私が働いている、300坪以上の広さがある地域一番店でも、前年比90%前後であり、全国の書店の前年比平均はそれよりさらに低く、80%前半といったところでしょうか。
 あらゆるエンタメが世の中にあふれている現在、スマホやサブスクに時間を奪われ、本のライトユーザーは手軽に読める電子書籍に流れており、今後も本を買う人は減り続けていくことは間違いないでしょう。

このような時代、それでも人が書店に来る理由は何なのでしょうか。
 人は書店に何を求めているのでしょうか。
 書店が生き残るにはどうしていけばいいのでしょうか。

 出版業界で働く人なら一度は考えたことがあるであろうこの問いに対する、一つの答え(になるかもしれないこと?)が書かれている作品です。


「チャリング・クロス街84番地」



 イギリス・ロンドンの古書店で働くフランク・ドエルと、アメリカ・ニューヨークの脚本家へレーン・ハンフが、本の購入を介して20年にわたり手紙を送り合い、深い信頼と友情で繋がりあっていた実話。
 大の古本好きのヘレーンが、絶版本(出版社が新たに販売しないと決めた本)を専門に取り扱う古書店・マークス社のことを知り、手紙で本の注文をするところから物語は始まる。当初は「本を注文するお客さんと書店員」のやり取りだが、何度も本の注文をするうちに、「ヘレーンとフランク」のやり取りに、さらに他の店員のセシリー、フランクの奥さんのノーラも巻き込み、本の注文にとどまらず、贈り物をプレゼントしあい、繋がりは広がっていく。実に20年もの間、彼等はお互い顔を合わせることなく、心の通ったやり取りを続けるのだった。

 「本を通して関係が広がり、お互い会ったことがなくても深い信頼でつながって、一生の付き合いになる」というストーリーは素晴らしいのですが、僕が一番衝撃だったのは、フランクとヘレーンの本に対する愛情です。「世の中には、自分よりもはるかに強く、深く、本が好きな人がいるのだ」ということに気付かされました。

 僕は、自分の本好き具合にそんなに自信があるわけではありません。おそらく普通の人よりは本を読んでいると思いますし、好きな方だとは思いますが、もっともっと本が好きな人がたくさんいることはわかっているつもりでした。
 しかし、頭ではわかっていても、「自分は書店で働いているんだぞ」というプライドもあり、どこかで傲慢になっていた部分があることに気づかされました。
 「書店員として、もっとお客様に求められている売り場・本について考えることができたはずだ」と思わざるをえないのと同時に、自分が想像していたよりもはるかに強く紙の本を愛してくれている人がいるのであれば、紙の本・書店も、まだまだ生き残っていく可能性はあるのだろうなと感じた次第であります。

 よく言われているありきたりな結論ですが、「ネット書店・電子書籍と違う部分を付加価値として、本好きな人が行きたいと思うような本屋を作ること」が、「書店が生き残るにはどうしたらいいのか」という問いに対する一つの答えなのだろうと思わされる本でした。
接客、陳列、雰囲気、、、
それら一つ一つに働く人の意思が加わってその書店を創り、お客様はそれを楽しんでくれるようになる。
効率化ではなく、本当に本が好きな人に向けて本屋を作っていかなければならないし、書店員という立場の人間はもっともっと本のこと、世の中のことを勉強なくちゃなぁ・・・

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