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漢字、踊る。

十四時間の「そのうち絶対死ぬ労働」を終え、つかの間の休息。敷布団に寝っ転がり、天井を見上げる。遠くから、トラックの音。鳴き声を聞いたことはあるけれど、固有名詞の浮かばない虫が鳴いている。

明日こそは禿げ上がった上司の頭を一発どついてやろう。できるはずもない目標を掲げながら天井のシミを見つめる。

つい、一週間前まで不眠気味だったのに、最近はこうして天井を眺めていると知らぬ間に寝てしまう。どんどん意識が遠のく。暗闇で目を開けていると、周りがじわじわと夜空のようになっていく感覚。「ミッドナイト・アイ」になりかけたところで異変に気づく。

天井からポツリポツリと俺の額に落ちてくる物体。掃除もしていないし、古いアパートだから、仕方がないと思っていたが何かが違う。霧雨のように落ちてくる。完全に目を開け、額に落ちたそれを見る。

……。天?一指し指に乗っかる程度の大きさのそれは、「天」という形の黒い物体であった。枕元によけたいくつかの黒い物体を手に取ると、今度は「井」。

「天井?」

寝落ち寸前のアホ面でクエスチョンしていると、雪崩のように「それ」が落ちてきた。

「ああああああああああ!」

想像もしない超常現象に見舞われ、真夜中に大声を出す。天井天井天井天井天井天井天井天井……。俺のミッドナイト・アイは既に覚醒していた。完璧に天井が落ちた。今日は満月か。雪崩の中でスマートフォンを探りあてる。

友達に連絡だ。急いで友達のタシロ君に電話をかける。

「あ、もしもし?!俺だけどさ」

気づけば身体中汗まみれである。「天井」という字に埋もれながら受話器に耳を当てる。なんか、この文字うごめいてないか?目の前で黒い物体が飛び跳ねる。やっぱり動いテル!コロサレル!

「ん~?あ~なんか用?」

いつもなら、安心するはずの間延びした声のタシロヴォイスがやけに腹立たしい。早口でしゃべれよ、早口で。

「天井が落っこちてきて、大変なんだよ死ぬ!俺、死ぬぅ!」

緊張は最高潮。黒い物体の動きが激しくなっている。踊っているのか?踊るわけない。いや、まずこの現象があるはずない。

「バカ言ってんな~はははははは」

ブツ。パニック状態の頭でタシロ君を絶交すると心に誓い、スマートフォンをぶん投げる。唯一の親友に裏切られたショックで、この黒い物体に抵抗する力が消える。ああ、もう死んでいくんだなあ。

夜空を見上げた。いつもより光輝いて見える。「天井」という黒い物体が俺を覆う直前、夜空から大量の「星」が落下してくるのが見えた。

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