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読書記録「宗教の経済学 信仰は経済を発展させるのか」ロバート・J・バロー、レイチェル・M・マックリアリー著

慶應義塾大学出版会
2021

著者2人のこれまでの論文やそれに関連する分野の論文を本の形にしてまとめた一冊。

マックス・ウェーバーは著書「プロテスタンティズムと資本主義の精神」で信仰、特にプロテスタンティズムが人間の職業倫理、正直、節約などの特性を育てることを通じて経済成長を促すと主張した。
果たしてそれは正しいのか、実証分析で検証した結果が示されている。

第1章 市場としての宗教
第2章 何が宗教性を決めるのか
第3章 宗教は経済成長を促すのか-プロテスタンティズムと資本主義
第4章 イスラムと経済成長-およびヒンズー教・仏教・ユダヤ教と経済成長
第5章 どのような国が国教を持つのか
第6章 クラブとしての宗教-教団と信者の政治経済学
第7章 聖人作りの経済学-カトリック教会のグローバル戦略
第8章 宗教の富

実証分析でウェーバーの主張を検証した結果、経済成長に相関しているのは礼拝の参加率などではなく信仰することだという。そして宗教の中でも重要なのは組織に所属することではなく、信仰すること、特に地獄信仰であるという。
ウェーバーはプロテスタンティズムの信仰は産業革命において重要だったのであり、20世紀の近代資本主義には信仰が薄れて自分の理論が当てはまらないと考えていたようだ。しかしながら、現代のデータでも宗教心が依然として経済成長に相関していることを発見している。
面白いと思ったのが、現代のドイツ(2000-2008)の労働時間とプロテスタントへの帰依の関係を調べた研究。給料や通学年数に目立つ違いが発見できなかったにも関わらず、プロテスタント教徒は実質カトリック教徒より4時間多く働くという結果が得られた。

更に宗教を従属変数としてみて、宗教性を決めるのは何かについても検証。
アダム・スミスは宗教の独占(国教)は革新性を失い怠惰になり、結果として宗教への参加率を下げて信仰を弱めると主張した。スミスによれば宗教と国との距離が離れているほど、宗教提供者との間での競争が活発になり、多様化が進み生き生きとするものだ。
その分かりやすい例がアメリカで、自由競争があるから好みに合わせた宗教が存在し、結果として信仰心のレベル高くなっている。
どのような国が国教を持つのか、そしてどうして過激な主張に人々は惹きつけられるのかをクラブモデルを用いながら説明もしている。

キリスト教の聖人作りの話などとても興味深かった。
なんとなく最近は働きかければ割と聖人になれるのだという感じがしていたが、実際に
しかも一見バラマキで聖人の価値を下げるかに見えるこの方針は信者獲得には有効だという。

これらの研究のデータには日本も入っている。
もちろん、仏教という括りで日本を入れてしまって良いのかとか思うところはある。例えば"天国""地獄"といって日本人が思い浮かべるものはキリスト教文化圏の人々が思い浮かべるものとは大きく違っているだろう。
だからこそ、日本にも当てはまるようなある程度当てはまる実証分析が出来たら面白いと思う。

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