もうyoutubeもSNSも見たくないけど、そんな生活に戻れない時に読む本『現代生活独習ノート』(津村記久子)
できることならインターネットから離れたい。
もうyoutubeは見たくない。SNSは開きたくない。amazonの欲しいものリストは増えてく一方。楽天からはもう要らないって言ってるのにダイレクトメールが送られてくる。Ubereatsはなんだか苦手。うるさいグループライン無視してたら未読が100件越えた。
あーヤダヤダ現代社会。
新しいものより古いものの方が好きだから、知らないうちに生まれてきた知らないものにはあんまり興味がもてなくて、それより親の世代からほっそりしぶとく生き長らえてきた物の方がステキだと思うし信頼できる。
仮想通貨の今後よりも近年のレコードやテープレコーダーのリバイバルブーム方がが気になるし、youtuberより落語家の方が面白いと思う。最近買ってよかったものは万年筆。NFTって結局ナニ?
ネットが家庭に広まる以前の、21世紀前夜に想いを馳せながら、でもこの気持ちをネット上のプラットフォームを介してしか消化できない矛盾を抱え込みながら、今日読んだ本は『現代生活独習ノート』(津村記久子)。
慌ただしい現代に疲れたりモヤモヤしたりスレ切ってしまった人々を描いた8編からなる短編集。
内定を取った学生がヘンなこと呟いてないかSNSを監視する仕事をしている主人公が、休みの日に撮りためた録画をみる「レコーダー定置網漁」。
「私はギャンブルが嫌いだ。なんでこんなことで一日分のはらはらを使わなければいけないのかと自分に怒りを覚える。そして脳の側坐核というところを刺激するSNSは、ギャンブルと似たような性質を持っているとのことだ。ギャンブル嫌いの人がそれに関わると、それはもう仕事とはいえ疲弊しまくるわけだ。ちなみに側坐核についての情報も学生のSNSで知った。」
粗末な食事をみると心が落ち着くことに気づいた主人公が、インスタグラムに悲惨な食事を投稿していく「粗食インスタグラム」。
「きれいなごはんの写真を見ているとつらくなるのはなぜか?手が届かないから、妬ましいから、とすぐに理由は出てくるのだけれども、それ以上に、食べたらなくなってしまう、胃に収まったらだいたい同じグロいものになってしまうその一食の画像に、恐ろしいほどの判断と技術の積み上げが隠されていることを想像して辛くなるのではないか」
などなど。
みんな疲れてる。疲労に自覚的な人もいれば、そうじゃない人もいる。
限界ではないにせよ、みんなマイっている。けれどもみんなそんな暮らしを”だましだまし”続けてなんとか生きている。
辛く苦しい日々をなんとか乗り越える”だましだまし”のコツ。
それは日々に小さなユーモアというか、人のあったかい部分みたいなものを見つけること。それだけで心が和らぐし、週末の休みまで頑張ろうと思えるようになる。
例えば「粗食インスタグラム」のこの部分
「私ね、ここまでじゃないけど、結構ひどいものを毎日食べてますよ」そう言って朱牟田さんは私に、冷凍うどんを解凍して冷やし、めんつゆと大量のネギと揚げ玉を投入しただけのものを、この1カ月連続で食べていると打ち明けた。「おいしそうじゃないですか」「おいしいんですよこれが」
なんか笑った。わかるかなぁ、この良さ。なんか救われたんですよね。そうそう、いいよねぇって。
本を読む良さってこういうところにあると思うんですよね。世の中捨てたもんじゃねぇなって思える瞬間があるんですよ。
例えばここにブラック企業で120時間残業、心身ボロボロ、自殺一歩手前の人がいるとする。
「そんな辛いなら会社やめなよ」って良かれと思って出てきた言葉が、当人に取っては一番疲れる言葉だったりする。
「辛いんだね、話聞いてあげるよ」って寄り添う体でこられても、そもそも人に愚痴をいうのにも体力は必要なわけで。
それより後輩の新入社員から「先輩ちょっと聞いてくださいよー、まじくそなんですけどー」って半笑いで会社のおもしろ悪口を聞かされるのが一番心のビタミンになると思う。心の体力が回復すれば、会社をやめることもできる。
物語の効用ってそういうところにあるんだと思う。
できることならインターネットから離れてたい。けど、そんな生活には戻れないから、ゆるゆると半笑いで、現代生活を営んでいく。
取り合えずラインの既読だけは付けとこうとおもう。
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