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愛するおはぎ

春分の日に、和菓子屋さんで買ったぼた餅を食べました。

あんこ、きなこ、ごまの3種類。
並んだ3つの小さな俵型は、大きさも形も均等で整っています。

俵型って、ころんとして可愛らしくて好きな形です。
昔、母がお弁当に俵型のおにぎりを入れてくれて、普段は三角なのでその形が新鮮に映り、嬉しかったのを覚えています。

すぐに食べて無くなってしまうのが勿体なくて、じっとぼた餅を見つめました。
お行儀よく並んだそれらが、だんだんまるっとした子犬の背中のように見えてきて、お母さん犬からお乳をもらう時の、ぎゅうぎゅうになって並ぶ子犬たちの姿と重なりました。
こんな姿を思い描いたら、ますます食べられなくなってしまいます。


いつまでも見つめていたい可愛らしさでしたが、お腹も空いてきたので遠慮なくいただくことにしました。

箸を通せばやわらかく、口に含めばほのかな甘み。
艶のあるもち米に包まれた、なめらかなあんこが舌の上に広がり、やさしい甘さが一日を終えた体に染みわたります。
それぞれの食感や風味の違いを楽しみながら、ぺろりと完食しました。


(春はぼた餅、秋はおはぎと呼びますが、ここからはあえて「おはぎ」で。)

おはぎを見ると思い出すのは、祖母の手作りおはぎです。
小さい頃、お墓参りで父の実家に行くと、祖母のおはぎがテーブルに並べられていました。

祖母は、もち米ではなくご飯で作っていました。
大きな俵型のご飯に、控えめな甘さのあんこがぎっしりと詰まっていて、外側にきなこをたっぷりとまぶした、食べ応えのあるおはぎです。

帰りには、必ずパックに詰めて持たせてくれました。
私の家族以外にもたくさんの親戚が来ていたことを考えると、一体いくつ準備してくれていたのでしょう。

祖母は料理が上手で、親戚や近所の方々によく手料理を振る舞っていました。
お墓参りやお正月など人が集まる時には、テーブルの上は並べきれないほどの手料理で賑わっていました。

常に台所と居間を行き来していて、なかなか座らないので
「おばあちゃん、ここに一緒に座って!」
とお願いしたこともあったくらいです。

当時子どもだった私は、あんこが苦手で、おはぎを一口だけ食べて残りは両親に渡していました。
毎年ほんの少ししか手を付けていなかったのに、不思議とその味をしっかり思い起こすことができます。
あんこは苦手でしたが、大きなおはぎにぎっしりとつまった祖母の愛情はきちんと感じていました。


今、あのおはぎが無性に懐かしく、食べたい。

あんこが好きになった今なら、本当の美味しさが分かるはず……。



今は祖母もかなりの高齢になりました。
元気ですが、昔のように料理を振る舞うことは出来なくなってしまいました。
あの手作りおはぎは、家族で時々思い出しながら、胸の中で光りつづけています。

おばあちゃん、美味しいおはぎをありがとうね。



2023.03.22 朝


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