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4年を経て、アメリカ⑦

アメリカ編も7回目になりました。
今回の渡米はとにかく4年半もの間置きっぱなしになっていた荷物の整理でした。
整理、といってもただ大掃除をするとかそういうことではありません。
僕らにとってアメリカに残していたものはほとんどが「貴重品」とも言えるものでした。音楽活動、創作活動をしようと思ってアメリカに移住した僕らだったので、そのために必要なものを厳選してアメリカに運んでいったのです。
思い返せば僕らはアメリカに渡る前にも大掛かりな荷物の整理をしていました。
その時は住んでいた家を引き払ったので、大型の家具は倉庫を借りて保管し、そのほかの様々なものは捨てたり売り払ったりしました。
断捨離とかモノは最低限にしようとかそういう思想もありますし、当時の僕らはそんな気持ちでどんどん物を減らしていましたが、今の僕はその思想とは真逆かもしれません。
渡米前に多くのものを捨てた時は「必要になったらまた買えばいい」と思って捨てていました。でもそんなものの中には二度と手に入らないものも多くあります。手には入るけどそのためには手間やお金がすごくかかるものもあります。例えば先ごろ亡くなったスティーブ・アルビニのインタビュー記事が載っていた音楽雑誌などもありましたが、「どうせバックナンバーがあるし、彼の言葉は頭の中に入っている!」とかいうもっともらしい理由を自分に言い聞かせて捨ててしまいました。捨てなければよかったです。
他にはどんなに古い道具でも昭和の頃とかに作られていた日本製の機械や道具です。いくつかものは今も手元にありますが、その頃のものは壊れません。そして質がいい。おそらく日本はもうそういうものを作ることはできないでしょう。同じ働きをするものはもう全てアジア製になっています。機能だけを移植しただけなのですぐに壊れます。時計などはいい例です。昭和の時計は壊れません。きっと僕が死ぬまで使えるでしょう。捨てるものと残すものはかなりしっかり見極めないとうっかりとても価値のあるものを失ってしまうんだなと思っています。

また話が逸れましたが、で今回アメリカに置いてあった何十個もの段ボールに入った荷物を開いた時、できる限り捨てないで厳選して整理して持ち帰ることにしました。自分の荷物に対して言うのも何ですがいいものがたくさんありました。ミュージシャン的に言えば、シールドの一本一本やエフェクターペダルなども買った当時の値段ではもう買えません。今は資材不足と円安の時代です。下手をすれば当時の二倍以上の値段を出さないと手に入りません。昔買った質の良いものを修理して使う、というのが僕の今の思想です。モノは減りませんが死ぬまで使える良いものがたくさんあります。持ち帰ったり日本に送り返すのは送料も手間もとてもかかるのでいっそのことほぼ捨ててしまえば「コスパもタイパ」も良いのでしょう。でも僕はこの言葉が心底嫌いです。コスパとタイパという言葉は僕らの社会をとことん貧しくした思想だと思っています。要するに少ない労力で楽をして成果を出すという考え方でしょう?そこから生まれるものはどこまでも貧しくペラペラなものでしかない。最悪です。

ああ、また話が逸れてしまいました。
そんなわけで僕らは本当にいらないものを捨てて、また再度アメリカツアーをするための最低限の機材や資材を友人の地下室に置いてもらうことにして、残りのものを全て日本に持ち帰り、送り返しました。
大変でした。アメリカ滞在の後半は梱包と発送の毎日でした。それを予想して梱包資材は今回持ち込んでいましたが、それらは大活躍しました。
それを郵便局に運ぶのにも友人たちが何度も何度も助けてくれました。
こんなに人に助けてもらうことはないというくらい助けてもらいました。
しつこいくらいこれまで何度も書いていますが、僕らのアメリカ生活は人から助けられて成り立っていました。それには本当に感謝しかないのです。
しかし助けてくれた友人たちは口々に「友達なんだから、家族なんだから当たり前だ。感謝なんて言わないでよ」と言います。その度に涙が出そうになっていました。僕は英語が大してできるわけではありませんが、荷物発送の際のやり取りは慣れたものになりました(笑)
ギターなどの送れないものは飛行機で持ち帰ります。僕らはエレキギターを2本、アコースティックギターを2本持ち帰らなければならなかったので、それを運ぶための準備にも一苦労でした。
それでもどうしても全て持ち帰りたかったのです。
モノに過剰な思い入れをするわけではありませんが、大切にしてきたものというのは自分の体の一部のような感覚があります。それをもう失いたくないという思いがありました。信じられないくらいの大荷物になりましたが、今回その全てを運ぶことができました。4年半もの間、ずっと気になっていたのにどうにもならなかったことをやっとやることができた、という達成感はとても大きかったです。自分のモノへの思い入れというのはこんなに強かったんだな、としみじみ思った旅でした。

続く

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