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【小説】唐揚げ【カニロク】

「やめろ、そんなことをするんじゃない!」
「うわ、いきなり大声出すなよ。驚くじゃないか」
「すまん」
「なんだよ」

川沿いの緑地公園にあるベンチ。そこには麦わら帽子の少年が二人、凍ったチューペットをかじりながら座っていた。

「おばあちゃんが新しく猫を飼ったんだ」
「猫、いいね。かわいいよね」
「うん、チャトラの可愛い顔してるヤツでね。僕が飼いたいくらいなんだ」
「なんだ、お前んち一軒家じゃん、親に頼んで飼えばいい」
「それが、お父さんが猫アレルギーで、無理なん」
「そっか。写真ある?」
「ある、これ」
「おー、可愛い。雑種?」
「そう」
「名前は?」
「タマ」
「え、こりゃまたオーソドックスな」
「うん。平凡でしょ。もしうちに来てくれたら、僕だったら『唐揚げ』って名前にする」

ここで冒頭にもどる。
「やめろ、そんなことをするんじゃない!」
「うわ、いきなり大声出すなよ。驚くじゃないか」
「すまん」
「なんだよ」

とりあえずチューペットをかじる。
大声を上げた少年は息を軽く吸って、心を落ち着けて話す。
「よく考えてみろ、もし猫の名前が唐揚げだったらな。誰かと猫の話をするときに『うちの猫の唐揚げがさ』って言うじゃん」
「うん、言うかもね」
「対面でもチャットでもいいけど、そうすると、相手はぎょっとするだろう?『こいつ猫を唐揚げにしたのか!?』って」
「うーん…」
「もちろんすぐに誤解は解けるさ。飼い猫を唐揚げになんかしたり、しないってね。でも、一瞬でも相手に『コイツ、猫を唐揚げに・・・!?』って思わせたらお終いさ。」
「お終いって何さ」
「お前はひどい人間かもしれないって、一瞬でも疑われてるわけじゃん。それはまずいよ」
「そうかな」
「そうさ。それにそんな意味のないことで人を驚かせたらダメさ。猫を唐揚げにするなんてこと、相手に想像させちゃ気の毒だよ」
「うーん、そうか」

座っている二人の目の高さで、まださほど赤くなっていない赤トンボたちががふざけ合うように飛んでいる。

「そうか、猫に唐揚げはよくなかったか」
「そうだよ。絶対にダメだよ」

二人はしばし黙った。
セミの声がさっきよりも大きく聞こえてきて心に沁みるかのようだ。

「これ、溶けても美味しいな」
どちらともなくそう言って少年たちはチューペットを飲み干すと、名残惜し気に手に持ったプラスチックの容器を逆さにして、あんぐり開けた口の上にかざした。
夏はどんどん過ぎていく。


カニロク:
柚子ロマのnoteに間借りしてる小説書き。
ごく短めのちょっと不思議だったり不気味だったりするお話を書く。

夏が来るので、夏っぽいお話をひとつ。


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