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サマンサの話をしよう

サマンサ。
サマンサタバサが苦手だ。
サマンサタバサに罪は無いが、あまり思い出したくない経験がある。

遡ること8年前。
ザ・芋臭い高校生ことわたしは制服という鎧を失い、ただの芋臭い18歳として大学の入学式に挑んでいた。
一応都心の文系私立。カトリック系。8割女子の学部。右も左もかわいい。
何をやってきたんだみんな。勉強してきたんじゃないのか。わたしが勉強しかしてなかっただけか。

講堂でクラス分けの発表がされる中、なるべく目立たないよう縮こまっていたわたしに天使が話しかけてきた。
「何クラス?」
透き通るような白い肌と大きな目。
地元では見たことのない育ちの良さそうなタイプ。

かえでちゃんというらしい。
奇跡的に同じクラスだったのもあり、こじ開けるように、少ない火種から無理やり火を起こすように話を盛り上げる。
お互い大学内に知り合いが一切いない状態なのもあり明日一緒にお昼食べようねと約束して別れた。
よし、一安心。

だいぶタイプは違うけど、あんなに可愛い子と一緒にいればわたしもどうにかなるんじゃいか?と淡い期待があった。

翌日、食堂に現れたかえでちゃんはさらに可愛い子を連れてきた。
サークル見学で仲良くなったらしい。
一気に4人も。まぶしい。ヒィ。
こういう時ピエロ役に徹してしまう悪い癖が出てしまう。
いかに自分が金が無いか、駅から大学までに迷って(めちゃくちゃ遠かった)テストに遅刻しそうになった、等。
5人で新宿のデザートバイキングに行くことになった。
よし、一安心。

大学2日目にしてかなり疲弊していた。
バンドの新譜の話したい。
夢女あるある言いたい。
さっきの教授のモノマネしたい。
毎日毎日何に一安心しているんだわたしは?
いやでもここで変わらなきゃいつ変われるんだ?
というか、変わらなきゃいけないのか?

それでも明日はくるのでさすがにドタキャンはせずにわたしは新宿に向かった。
既に4人は着いていて、昨日よりずっと打ち解けているようだった。
道中で1人が言った。
「あれ、バッグそれサマンサじゃない?」
「ウチも」
「ウチもサマンサ」
「ウケる〜」
(何故かあの頃は一人称がウチの子が多かったな)

わたし以外の4人全員が、サマンサタバサのバッグを持っていた。
すっかり盛り上がってしまって、5人で記念撮影をしようと言い出した。
えっ、わたしもかい。
わたしは仕方なくサマンサタバサのバッグを持っている体で3000円のエキナカで買ったバッグを掲げた。
そこそこウケた。

翌日、食堂で当たり前のように5人集まったが内心わたしは肝が冷える思いだった。
今日は何をさせられるんだろう。
5人の中で一番顔が派手目で、リーダー格になりつつあるMちゃんが言った。
「ウチらのチーム名さぁ、サマンサにしようよ。」

チーム名?

「それでオソロのTシャツ作ってディズニーいこう」

オ ソ ロ の T シ ャ ツ 。




次の日からわたしは食堂に行かなくなった。

結局その後バンドサークルで単位ギリギリになりながら高校同様パッとしない大学生活を楽しく過ごしましたとさ。めでたしめでたし。

その後彼女たちはCAになった、と聞いている。

サマンサタバサ。
ああ、パサついた語感も嫌いだ。

(※あくまで筆者の経験です。全てのCAがサマンサ的という意図ではありません。)

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