【自分と向き合う編】もしかして、こんな感じで自殺してしまった人もいるのかもしれない その4
冷たい器に入った、キンキンに冷えたアイスコーヒーは、熱い身体を心地よく冷やしてくれた。
わたしは、出張先でよく現地のお店に一人で入る。
そして、どういうわけなのか、必ずと言って良いほど、お店の店主や、常連客に話しかけられ、様々な話をうかがうことになる。
ここ、マザーハウス すなの店主も例外ではなかった。
「荷物引いてきたの?内地の方?」
「はい、旅行で。」
「一人なの?」
「はい、傷心旅行です」
「あら、まぁ」
そういう方もいらっしゃるわねぇと、石垣島では女一人旅も珍しくないと彼女は言った。
「今年はまだ台風が来てくれていないから、雨が降っていなくて。わたし達からしたら、台風が来てほしいわ。水も必要だし、暑さもましになるから」
現地の人からすれば、天気が悪い方が過ごしやすいとのことだった。
テレビで台風放送をやっているときに、石垣島や沖縄が台風の経路として映ることがよくあると伝えると、
「わたし達は慣れっこなのよ。台風なんて。テレビは大げさなんじゃない?」
と言われた。
他愛もない会話だが、わたしは、見方や立場が変わると、受け止め方も違う、ということを感じていた。
「・・・人生いろいろあると思うわ。まだ貴女も若いしね。」
傷心旅行と伝えていたので、失恋だと思われていた。わたしもあえては否定しない。仕事に失恋したようなものだったので、あながち間違えでもないからだ。
「わたしも、色々あって。ここで喫茶店をやることになったのよ。家族の勧めもあってね。」
「そこに器があるでしょう?」
店内には焼き物が飾られていた。最近陶芸を始めた男性だが、非常に素晴らしいものを作るとのことだった。
わたしは焼き物は分からないが、確かに、そこにあった器は、何か、こちらに訴えかけるものがあった。
「わたし、主人も子供もいるのだけど、やっぱり、こういう素晴らしいものを作る人を支えることもやっていきたくてね」
そういう、彼女の言葉にはそれを制作している男性への尊敬と、情愛があった。
「色々言う人もいるけど、結局、自分が思うように生きた方がいいって、わたしはそう思うのだけれど」
貴女はどう?
と、壮年の彼女はチャーミングに笑った。
石垣島がどういう空気なのかは分からない。
ただ、一般的に、閉鎖的なコミュニティにおいて、男女の関係は、例えプラトニックであったとしても、とやかく言う人も一定数は存在するだろう。
彼女はそれでも、わたしはやりたいことをする、と
そう、わたしに宣言していた。
宣言をするということは、不安も抱えているということだ。
でも、やる。
やると決めているから。
そして、貴女はどうなのか。
わたしは、自分のことについては何一つ話していなかった。
ただ、彼女の言葉は、わたしが石垣島に何をしに来たのか。
何を探しに来たのか、そういうことを教えてくれているような気がした。
たまたま、目について飛び込んだお店だったが、
まさか一軒目から教えを受けるとは。
わたしが見るからに悩んで見えたのか、石垣島という場所がそうなのか。
どちらだったのか、今でも定かではないが、
これを皮切りにわたしは、様々な教えと提案を、ここに住む人達から受けることとなった。
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