マガジンのカバー画像

あり得ない日常

67
フィクション続きもの
運営しているクリエイター

2024年1月の記事一覧

続けますか?|パラレル短編創作

1 学生を卒業して幾年月、もうすぐ年度替わりという事もあって年末とはまた違った慌ただしさを感じる。 田舎ならまだ少し違うのだろうか。 ラッシュ時は乗り遅れることをあまり心配する必要のない路線の駅近に住む身としては、寝に帰っているようなものだけとはいえ、便利なもので気に入っている。 休みの平日にはたまに足を延ばして、大きな駅の本屋に立ち寄るのが最近の楽しみになっている。 旅行になんて、思えばいつ行っただろうか。 男の独り身だから、時間を気にせずふらっと出かければいい

有料
300

あり得ない日常#4

 もう桜は散ってしまったが、これから夏を迎える時期というのもあって、そこらじゅうの植物の緑色が日を重ねるごとに鮮やかに見える気がする。  日焼けをしたくない、というのもあるのだが、普段はあまり外を出歩こうとは思わない。子供の頃よりもさらに日差しが強くなった気がする。  根っからのインドア派のわたしには少々つらい時期がやってくる。  昔は、休日という概念があったらしく、それ以外は基本的に生活のためにお金を稼ぐべく、ほとんどの人生を雇用契約で拘束されていたらしい。  今ほ

有料
100

あり得ない日常#3

 こんなところかな。  あとは充電ユニットとヒューズを取り付けて予備電源に接続してあげれば、心配することは早々無くなるだろう。  ほっと一息ついて、ふと窓の外を見る。  輸送用ドローンたちが一所懸命荷物を運んでいるのが見える。  さすがに家電などの大型製品は運ぶことはできないが、食料品や日用品の入ったパケットをそれぞれ取り扱う店舗に届けるべく向かっている。  輸送を終えたドローンたちはホッとしたように軽々と発送地へ帰っていく。  人間も一応、大型ドローンで移動する

有料
100

あり得ない日常#2

 ドアのハンドルを握るとピッと電子音が鳴る。 そのタイミングでガチャっと軽く引くと、明らかに重そうな金属製のドアだが、そうとは思えない力加減で開いた。  おはようございますーと中の様子を窺いつつ挨拶の言葉をかける。 「あ、おはようー。」  奥の窓の光を遮るように壁際からひょこっと顔を出して、少し年配の女性が挨拶を返してくれた。  彼女は井上さん。 ちょうどコーヒーを淹れているところだったらしい。  分譲マンションのような造りと間取りだが、ここは会社の事務所である。

有料
100

あり得ない日常#1

「おや、お出かけかい?」  声の跡をたどるように顔をあげると、お隣のおじいさんだった。  ええ、今日は出勤の日なんですよと言うと「偉いねえ」と、落ち葉を竹ぼうきで掃きつつ声をかけてくれる。 「気をつけてね、いってらっしゃい」  実に、昔ながらの一軒家が立ち並ぶ住宅街の光景として申し分ない。  行ってきます、そう言うと手を振って応えてくれた。  近くの駅まで10分程度を徒歩で向かう。最初は自転車を使うかどうか悩んだが、まあいいかと踏んで以来そのままだ。  昔は電車

有料
100