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あり得ない日常#3

 こんなところかな。

 あとは充電ユニットとヒューズを取り付けて予備電源に接続してあげれば、心配することは早々無くなるだろう。

 ほっと一息ついて、ふと窓の外を見る。

 輸送用ドローンたちが一所懸命荷物を運んでいるのが見える。

 さすがに家電などの大型製品は運ぶことはできないが、食料品や日用品の入ったパケットをそれぞれ取り扱う店舗に届けるべく向かっている。

 輸送を終えたドローンたちはホッとしたように軽々と発送地へ帰っていく。

 人間も一応、大型ドローンで移動することができるようにはなっているが、高価であることと、行政によって航路と高度が制限されていることもあって一般市民の日常移動は従来通り地を移動している。

 高所恐怖症のわたしにとっては、もしドローン移動が義務化されたらどうしようかと思っていたところだった。

 さすがにそんなことはないか。
乗れるようになるまで苦労はしたが、自転車でいい。

飛行機で限界なんだよお願いだから。

 いつの間にか集中していたら時間が経っていた。

井上さんもすでに次の予定に出向いたらしい。

あとは設備とシステムを点検したらわたしも帰ろうかな。

 もうすぐ12時くらい。思いのほか早く終わった。

 設備とシステムさえ正常に動いてくれさえすれば、会社としてのサービス提供に支障はない。

 需要が減らない事と、設備の機能に問題がなければ、売り上げは安定する。

 これが何を意味するかと言えば、社員の勤怠と会社の売り上げがある意味分離されている所が大きな特徴だ。

 また、現代を生きる国民には最低限何もしなくても生活できるだけのお金を行政が保障し、振り込んでくれるところも大きな特徴だろう。

 昔は明治維新の廃藩置県から都道府県と呼んでいたらしいが、人口の大きな減少に伴って再編成され、海と大きな河川によって州分けがなされた。

 そしてその各州によって物価が違うことがあるので、その水準に応じた金額を行政である州が毎月振り込んでくれる。

 例えば、無洗米5㎏が2千円で買えるとすると、その地域に住む住人には一人10万円が毎月支給される仕組みだ。

 そこから家賃と光熱費、さらには食費から被服費と支出をするのだが、贅沢をしなければ生活できない事はない。

 これはベーシックインカムと呼ばれる制度で、隣のおじいさんが定年する数年前に導入された制度らしい。

 年金の仕組みは廃止されたが、社会実験を経て本格的にこの仕組みに切り替えられたのである

 頭に置いておくべきは、病気になった時だ。

 病気も軽いものなら数百円の負担でいいが、手術を要する場合は数万円の負担になったりする。

大きな病院にかかる事になればなるほど、資金が必要になる。

そうなる場合を想定してある程度の資産は保有しておいた方が良いだろう。

 また、海外旅行に行きたいなど、ちょっと特別なことをやりたい人は、その資金をつくるべく働くわけだ。

 結婚すれば世帯で20万円、子供が3人ほど出来れば月に50万円は入ってくるわけだから、生活だけを考えれば十分だろう。

 お金がかからない若いうちに、働くもよし、株式や債券などの資産にできるだけ替えて置くもよしの世界だ。

 ベーシックインカムは非課税だが、そのほかの所得には課税されることだけ覚えておけばいい。

 働く人がいなくなるんじゃないかと懸念されて、なかなか導入までには苦難があったようだが、始まってみれば、能力の高い人や好奇心の強い人が積極的に労働の場に参加するので、かえって効率が上がったようだ。

 能力の差も相まった地位の奪い合いや妬みが解消され、いじめの話すら聞かない。

 辞めても、生活費に困ることはなく、それでも働きたいなら、自分にとってより良い環境を時間をかけて見つければいいだけだからだ。

 そろそろお腹が減ってきたな。

帰りに何か買って帰ろう。

 コーヒーカップを流しで洗って脇の水切り棚に置くと、戸締りを確認して靴を履き、まだ日の高い街中へ昼食を求めて潜り込むのだった。

 この物語はフィクションであり、実在する人物や団体とは一切関係がありません。架空の創作物語です。

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