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『これやこの』サンキュータツオ著~新たな世界を知る風穴~

【『これやこの』書籍の説明 KADOKAWAのホームページより】
https://www.kadokawa.co.jp/product/321907000688/

サンキュータツオさん 
 サンキュータツオさんの存在は、中学生の時から学校の図書館で愛読していた雑誌『栄養と料理』で4,5年前に知った。『栄養と料理』でサンキュータツオさんを知った人間はたぶん少数派だと思う。
 その後、落語に興味を持ちはじめて初めて足を運んだ新宿末廣亭の昼の部の公演で確かロケット団さんの代演で出演されていた米粒写経さんの漫才を聴いて大ファンに。2018年10月の上席昼の部でのこと。
 以来、米粒写経さんが出演される日に演芸場(主に池袋演芸場)に足を運ぶようになった。
 また、サンキュータツオさんがキュレーターを務められている、「渋谷らくご」にも足を運ぶようになった。
 ここまで書くと気持ち悪いとかストーカーなどと思われるかもしれないが、私は断じてその手の人間ではない。
 確かに「渋谷らくご」の終演後に出口付近に立たれているサンキュータツオさんに「ありがとうございました。」と頭を下げてお礼を言うが、それ以外は一線を引いて演者と客の関係をきっちり守っている。

『これやこの』を読む
 そのサンキュータツオさんの初のエッセイ集『これやこの』。7月9日に美容院に行った際に池袋のジュンク堂書店で購入。ここ5年ほど書籍は主にAmazonで購入するようになったが、この本に関しては「実際に書店で手に取って購入した方がいい。」という妙な使命感に駆られて発売日から少し日は経ったが無事に書店で手に取って購入。

 この本のテーマが「死」だと知り、現在持病の双極性障害(2型)のうつ転により、精神科の主治医からも精神医学の世界で50年以上ご飯を食べている両親からも自殺のリスクが高い病状だと断言されている私が今読んでいい本かどうか迷い、購入を躊躇していた。
 しかし、Amazonのレビュー欄で落語家の故・柳家喜多八師匠や故・立川左談次師匠のことが書かれていることを知ったり、ライターの村瀬秀信さんのツイートで2019年の都市対抗野球大会で橋戸賞(MVPに該当する)を受賞された元横浜DeNAベイスターズで現在はJFE東日本の硬式野球部に在籍の須田幸太さんの事が書かれていることを知り、購入を決意した。
 くり返すが、今回はAmazonではなくどうしても手に取って購入したかったので、池袋の美容院に予約を入れている7月9日を待った。

 そして、購入。帰宅時の移動の電車内で時には涙を流しながら鼻をすすりながら読み続けた。コロナウイルス禍で夏でもマスクをしているので泣いていることがあまり目立たずに助かった。
 購入してよかった。「2020年一番の本」どころか「私の今後の人生に影響を与えるであろう本」だった。

私の中の火薬庫
 私は先述の双極性障害(2型)以外に「歩く医学事典」のように複数の持病を抱えている。
 火薬庫を抱えて生きていると思っている。
 1年前に卵巣がんの前がん症状の診断を受けた。7ヵ月前に治療方針が決まって投薬治療がはじまったが、副作用の精神症状や貧血等に悩まされ続けている。
 今年のゴールデンウイーク明けから体調が著しく悪化。その上5月末に近所のスーパーへの買い物帰りに雨に濡れた路面に足を取られて転倒し、右手首尺骨亀裂骨折等のケガ。そこにメニエール病の再発で聴力が低下したことがとどめを刺して、精神的な混乱が起こった。
 精神的なコントロールが効かなくなった。自ら命を絶たずに一日を生きられただけでも自分をほめるような状態になっている。いや、そうしなきゃやってられない。
 身体が丈夫ではない中生きてきて今も仕事を現役で続けている両親から週に1回の電話の時に合言葉のように、「自分の心身の不調と上手くつき合えよ(つき合いなさい)。」と言われているが、それができず辛い状況になっている。
 とうとう私の精神的な支えになっている、「文章を書くこと」すら難しくなった。
 受診時に精神科の主治医に相談したところ、「一時的なものですよ。また書けるようになります。」と言われた。主治医がおっしゃることは信じたいが、「文章が書けなくなった」ことに絶望する日々を送っていた。
 また少しずつ文章を書くことができるようになったが、不安で手探りの状態は続く。

新たな世界を知る風穴
 そのような状態の時に『これやこの』を読めたことに感謝している。
 私は自分自身の不調や辛さと上手く距離を取れていなかったことを、この本を読んで再認識。子どもの時から物理的な面でも心理的な面でも不器用だったが。
 そんな酷く不器用な自分を持て余していた。正直生きることが怖くなった。
 しかし、この本の62ページに書かれている、「心に空いた穴を、見て見ぬふりしながらたまに見て、適度な距離感で付き合っていく。やがてその穴が新たな世界を知る風穴になる。」という文章に心を強く動かされた。
 西武新宿線に揺られる私の心に深くしみわたっていった。
 「私は生きていていいんだ。生きていける。」という気持ちになった。
 
 涙が流れた。
 この本に私は救われるのかもしれない。

 サンキュータツオさん、ありがとうございます。

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