INGRESSでつながる、親父と友人とのキズナ
位置情報ゲームが、どんどんと増えてきた。
今年の9月にNianticからリリースされた「Monster Hunter Now」も大盛況のようで、道中で狩りに没頭するハンターをよく見かける。ぼくはランク40くらいまではプレイしたものの、早々に飽きてやめてしまった。年をとったのか、年々飽きがはやくなっているように感じる。
ぼくが最も熱中した位置情報ゲームは「INGRESS」だ。「INGRESS」は、Nianticがはじめてリリースした位置情報ゲームで、プレイヤーは緑と青の2陣営のうちどちらかを選び、さまざまな場所にあるポータル(Pokemon GOでいうポケストップのようなもの)を奪い合う。いわば、現実世界を舞台にした陣取りゲームだ。
いまとなっては、「位置情報ゲーム」が1つのゲームジャンルとして広く一般に根付いているものの、「INGRESS」がリリースされた当時は、状況がまったく異なっていた。位置情報ゲームなんてものは他に存在せず、「INGRESS」こそが、位置情報ゲームのパイオニアだった。そして、そのゲーム体験はこれまでに類を見ない、斬新でまったく新しいものだった。従来のゲームでは「ゲーム内の仮想世界へ没入する感覚」を覚えることがあたりまえで、それを味わうことが、ゲームに求める大きな要素の1つだったと思う。しかし、位置情報ゲームにおいては「現実世界の毎日に、ゲームの世界が入ってくる」ような感覚を覚える。人生ではじめて味わうその感覚に、ぼくはとにかく驚き、ワクワクし、夢中になったことを、今でも鮮明に覚えている。
「INGRESS」のリリースからひと月ほどたったとき、ぼくはその存在を知り、すぐにインストールして遊びはじめた。そして、すぐに自分の体内からメラメラと闘志が湧くのを感じた。なぜなら、小さい頃から家族や友人と大切な時間を過ごしてきた、自宅近くの公園や学校が、相手陣営のポータル(陣地)になっていたからだ。ぼくは、自分の大切な思い出が詰まった場所が、どこの誰だか知らない”Buutaro"という敵に奪い取られている、その事実が許せなかったのだ。そして、ポータルを取り返すために、攻撃を開始した。しかし、まったく歯が立たない。Buutaroはすでに高レベルのベテランで、強固なシールドでポータルを守っていたのだ。ぼくは途方に暮れた。どうしたら奪い返せるだろうか。思案した先に、ぼくはひとつの結論にたどり着いた。それは、「仲間を増やし、数の暴力で勝つ」。ぼくはすぐに動き出した。
郷土愛の強い父親と、地元の友人に、熱をこめて声をかけた。「INGRESSっていう最高におもしろい陣地取りゲームがあるんだけど、俺らの公園とか学校が、Buutaroっていう敵に奪われてて...奪い返したいから手伝ってくれない?」。その切実な願いが伝わったのか、みんなすぐにインストールし、手を貸してくれた。普段はまったくゲームで遊ばない父親も、「それはまずい」と、すぐに力になってくれたのだった。
最低限のゲーム知識とアイテムをそろえ、いよいよ奪還作戦の実行日を迎えた。タイミングをあわせて、一斉に集中攻撃を与える。1人1人の力は弱いものの、みんなで力を合わせれば、その力は何倍にもなる。1人ではまったく歯が立たなかったBuutaroの強固なシールドが、みるみる砕け散っていく。Buutaroも、さすがに数の暴力には勝てなかったようで、とうとう奪還に成功し、みんなで喜びをわかちあった。それから、ぼくたちは「INGRESS」にどんどんとハマっていき、チームの勢力を広げ、自分たちの街のほとんどの陣地を取るとともに、その治安維持活動に努めるようになった。みんなで力を合わせて、ポータルを奪還したときのよろこびと達成感は、いまでも忘れられない。ゲームで遊ばない父親と、長いあいだ疎遠だった古い友人とのコミュニケーションが活性化し、何気ない日常がとにかくたのしくなり、毎日がゆたかになっていくのを感じた。
位置情報ゲームがまったく根付いていない、あのタイミングだからこそ、得られた経験だったんだろうな。もういまではプレイしていないものの、大切な思い出として心に残っている。
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