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特級公式レポート:3次予選第一グループ

ファイナルで演奏するピアノ協奏曲から一部分を、ピアノ伴奏で演奏します。ピアノ伴奏は事務局が指定した公式伴奏者が務め、すでに昨日、リハーサルを終えています。また本番前にも、会場で短時間ですがリハを行うことができます。私はこのグループを、配信で聴きました。

1.後藤 美優さん

本日最初の演奏者は後藤 美優さん。二次予選では、エチュード+リストのソナタ一曲という思い切ったプログラムで、どっしりとしたうねりと、かそけき歌心の組み合わせが素晴らしかった後藤さん。チャイコフスキー:ピアノ協奏曲 第1番 変ロ短調 Op.23 第一楽章の演奏です。伴奏者は、江夏真理奈先生。

後藤美優さん

まだ固い会場の雰囲気を、一変させるような重音の重なり。とてもパワフルです。後藤さんの特徴は、そのエネルギー量と、緩急を活かした曲作りにあるように感じました。「多くの人ならこのくらいの長さで次の音に移行するだろうな」という休符や長い音符を、強い胆力でほんのわずかぐっと溜め、その分をその後の部分に雪崩れ込ませるのです。その粘り、グルーブ感によって、よりドラマチックで力強い演出ができている、そんな印象を受けました。オケパートとは、音色を合わせるように。オケパートとソロパートが続くような音形の部分は、まるでひとつの楽器を鳴らしているようでした。

2.森永 冬香さん

2番目の演奏者も、同じくチャイコフスキー:ピアノ協奏曲の第1番です。 伴奏者は、恩田佳奈先生に変わります。森永さんの二次予選のリスト、巡礼の年第2年「イタリア」 S.161 より 「ダンテを読んで -ソナタ風幻想曲-」は、激しさの合間に上から降り注ぐような音の連なりに「僥倖」という言葉が浮かびました。

森永 冬香さん

同じピアノ、同じ曲なのに、後藤さんと雰囲気が変わるところも聴きどころです。森永さんの表現には、力強さの中に慈しみに似た母性を感じます。圧倒的な重低音も、単に力強いというだけでなく、たおやかさやしなやかさをまとった、芯の強さで構成されているようです。穏やかな部分では、夜のとばりが降りるように、柔らかな裾がそっと引かれるように。時に弾き手は堂々とこちらにやってきて、時にはこちらが耳をそっと近づけたくなるようにすっと引いてしまう・・弾き手と聴き手との距離感を様々に変えることで、聴衆の集中力を切らさない、そんな演奏でした。恩田先生との掛け合いは、時にひそやかに、時に思い切りよく、呼吸を合わせるようでした。

3.吉原佳奈さん

吉原佳奈さんは、ラフマニノフ:パガニーニの主題による狂詩曲 Op.43 (指定部分抜粋)。伴奏者は梅村知世先生です。二次予選では、タネーエフの糸を正確に編み込んで大きな刺繍を作り上げるような丁寧な曲作りから、軽やかなシマノフスキへの移行が素敵でした。

吉原 佳奈さん

チャイコフスキーとはうって変わって、大きなスケールの響きの中にも、パラパラとした小気味好い音が響きます。このフレーズをこう弾きたい、ここはこうしたい、という意図が伝わってくる演奏です。それを梅村先生がぐっと下支えしていき、聴衆を力強く引っ張っていきます。そして奇跡のような第18変奏へ。短いフレーズの中にも「ああ、ここが問いになっていて、ここが答えになっている」と、全てのフレーズが言葉として迫ってくるようでした。
昨日リハーサルを聴かせていただいた時にも「すごい!」と思いましたが、本番はまた別次元の凄みを感じました。優れた演奏家には、本番だけに取っておく集中力のようなものがあるのかも知れません。


出演者の情報、演奏の動画などは下記のページよりご覧ください。

(画像提供:ピティナ)