島﨑藤村「破戒」読了
1 穢多の印を探そうとする民衆
主人公の丑松が穢多だといううわさが広まっていくのですが、丑松は見た目が貧相でなかったり、学力があったりと、民衆の穢多の印のひとつにも当てはまりません。
そこで民衆(主に同僚の教員)は、穢多に多い名字など、印を探そうとします。この描写は、現代の部落差別と同じだと感じました。
現代でも、他人のルーツを探り、出身地や職業などで差別するのが止みません。具体的には、鳥取ループの部落地名総鑑復刻版事件(※1)や教師の部落差別(※2)などがありました。
部落差別は、他の個別の人権課題(外国人差別や障害者差別など)と異なり、差別する印を見つけにくい。だから、他人のルーツを勝手に探そうとする。それが、一方的なアウティングにつながることがあります。
2 当事者の苦悩がよく理解できる名著
部落差別について、現在では映画や書籍などで学ぶことができます。しかし、破戒が出版された当時は、部落差別が当たり前に存在した時代です。そのような中、この本は部落の人たちがどれだけ普段の生活でマジョリティにはない苦悩を抱えながら生きているのかが、よく理解できます。
常に自分の出身を隠し続けなければならない、自分の言動が穢多村の人たちと似ていないか、自分の思想がおかしくないか、自分の出自が明らかになると親族にまで迷惑をかけてしまう心配など。
これほど人権が侵害されていたのか!と私はとても驚きました。
3 部落差別解消推進法が施行された現代だからこそ生徒に紹介したい1冊
部落差別解消法(※3)が2016年に施行されました。この法律の第1条にはこのように書かれています。
日本国憲法(※4)の第13条や第14条1項に示される通り、すべての国民には幸福追求権と自由権が保障されています。この憲法は、自分だけではなく他者にも権利があり、これを保持するために国民の不断の努力が求められています。(第12条)
では部落差別についても、その解消に向けて国民一人ひとりの不断の努力が必要です。インターネットで調べると、偏見に満ちた情報や動画が数多くあります。そのため、まずはここから勉強してみては?という意味で、私は生徒たちにこの「破戒」を勧めたいです。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
※1 部落地名総鑑復刻版事件
※2 教員の部落差別
※3 部落差別の解消の推進に関する法律
https://www.moj.go.jp/content/001236563.pdf
※4 日本国憲法