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読書感想 ~島﨑藤村の「破戒」前半を読んで~

1 書籍の説明

明治後期、部落出身の教員瀬川丑松は父親から身分を隠せと堅く戒められていたにもかかわらず、同じ宿命を持つ解放運動家、猪子蓮太郎の壮烈な死に心を動かされ、ついに父の戒めを破ってしまう。
その結果、偽善にみちた社会は丑松を苛烈に追い詰めていった。
激しい正義感をもって社会問題に対処し、目ざめた者の内面的相剋を描き近代日本文学の頂点をなす傑作。

新潮社文庫本裏表紙のあらすじより

2 感想

 この物語は、明治初期に解放令が出されて以降も、一向になくならない部落差別の実態がよく描かれています。被差別側(マイノリティ)の丑松の視点で物語が進んでいくので、その当時の差別の実態がよく分かります。

 私が読んだのは、部落出身であることを「隠せ」と遺した父の言葉と、部落出身で自らの出自をカミングアウトし、本を通して部落差別の問題を世の中に訴える猪子蓮太郎の姿勢の間で葛藤する丑松の場面までです。

 この中で当たり前のように描かれるのは、変わっていくのはマイノリティ側であり、マジョリティ側は一向に変わろうとする素振りがないところです。だから、丑松は葛藤することを強いられます。
 しかし、現代的な視点でいえば、変わるべきはマジョリティ側です。でも、「破戒」が書かれたこの時代は科学が発展していないでしょうから、中々難しいですね。

 ただ、マイノリティ側がこのように葛藤してしまうような社会構造はやはり人権侵害です。
 鳥取ループによる部落地名総鑑事件の東京高裁判決で、以下のような趣旨の内容が述べられました。

(日本国憲法13条、14条1項を挙げた上で)部落の地名を公表することは、一定の人々にとっては、実際に差別を受けなくても、不安感を抱かせたり、怯えさせたりして、平穏な日常生活を侵害している。

東京高等裁判所2023年6月28日判決文の要約

 丑松は、「隠す」か、猪子にカミングアウトするかを葛藤していますが、周囲がいずれ、「丑松は部落出身だ」と知られ、アウティングされることに恐れながら生きています。この本の冒頭では、それを恐れて宿舎を引っ越す場面も描かれています。
 安心して過ごす、という基本的人権が侵害されているのです。

 この後、物語がどのように進んでいくのか?
部落差別の解決に向けた、島﨑藤村のアイディアがあったのか?

 読み進めていきたいと思います。

 最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

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