舞台『死の笛』観てきました

人生で一番大好きな俳優・林遣都が出演する。
人生で一番大好きな脚本家・坂元裕二が台本を書く。
それだけで見たいと思った。
この舞台を企画してくださった安田顕さんには本当に感謝の言葉しか浮かばない。

舞台を見終わった後、一番に出てきた感想は
「なにかとてもすごいものを見てしまった……」だった。
私の稚拙な語彙力と乏しい感性では
あの舞台で表現されたこと全てを受け止めることも、書き表すこともできないのではないかと思った。

以下は舞台内容を思い返しながら特に印象的だった部分について書き留めたり、考えたことを書いているので、
時系列順でもないし、いきなりネタバレに繋がるようなことが書いてあります。
敬称も省略してあります。




彼らの話す独特な文章?言語?を理解するまでにやや時間がかかってしまったけど、
それが逆に私の心を一気に彼らも世界の中へと引き込んでいった。

林遣都が演じる男の歌う、野糞の歌が今も頭から離れない。

二人のテンポの良い掛け合いが気持ちよくて、ずっと笑ってしまう。
二人が声を揃えて野糞の歌を歌うのが面白くてまた笑ってしまう。
今、二人が働いているこの場所は、戦争とかけ離れた平和な空間だなと思った。

しかし、一旦林遣都が舞台上を離れると
一気に安田顕が死や恐怖を意識するようになる。
さっきまでは客席もあんなに笑っていたのに
急にシリアスな雰囲気になる。
坂元裕二のここ数年間の作品を思い出した。
日常と死は地続きなのだと思い知らされる。
急に彼らが過ごしている世界は戦争中なのだと思い出す。

恐怖の中、一度は馬鹿馬鹿しいと投げ捨てた“死の笛”(息を吹き込んだ時、音が鳴ったら死ぬと言われている)を手に取って吹いてしまう安田顕。
自分も希死念慮に囚われた時は死ぬこと以外考えられなくなるし
普段は絶対にしないような行動に出たり、莫大な恐怖心を抱いたりするので
安田顕の演じるこの男に信じられないくらい感情移入をしてしまった。

死にたい気持ちに襲われているのは林遣都演じる男も同じで、
クライマックスで狂ったように笛を吹き鳴らす二人を見て絶句してしまった。
ほんの少し前までは生きる希望のようなものを見出していると感じ取ったのに。
でも彼らは彼らの中で勝手に植え付けられた“存在しない記憶”に苦しめられていて、
それに抗う術は自ら命を断つことしかないのかもしれない。
なんて辛い事実なんだろうか。


この舞台はきっと自分に、
「死んでほしくない」というメッセージと同時に
「死にたい気持ちを強くは否定しない、でも生きてほしい」
と語りかけてくれたんだと解釈した。

これほど難しくて含みのある舞台を
たった二人で演じ切った安田顕と林遣都の俳優としての凄さをまざまざと見せつけられた。
彼らのこと、もっと大好きになった。

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