【ねぇそれって本当に大丈夫?】よくある人事の問題(その3:求人ー労働条件2)
前回の記事からすっかり日が空いてしまいすみません。かれこれ半年近く・・。
求人票の分かりづらいところだったり、こういうところが組織改革の軸になる従業員満足(エンプロイエンゲージメント)を生むのにそれが表現できていない求人票が多いので、このマガジンを書いていますが、今回は労働条件のうち、一番労働者が気になる「給与・労働時間」の範囲になります。
前回の記事はこちら
前回、労働条件として「勤務地」「転勤」「雇用期間/試用期間」を書きましたが、今回はその続き「給与」「就業時間」に関して書きたいと思います。
今回も盛りだくさんな内容になります、報酬って大事。
1.給与
給与項目に書かれているのは、概ね「想定年収」「賃金形態」の2項目になります。
1-1.想定年収
想定年収は言わずもがな、賞与の査定期間も含め1年勤務した際に得られるであろう年収の想定です。
ここで注意すべきは、月給+賞与の賃金形態の場合は、賞与の査定期間を確認しておくこと。
賞与が年2回の会社だと、大体は夏季(6~8月)と年末(12月or1月)のパターンが多いです。
新卒の際、最初の夏季賞与はそもそも試用期間。会社に対してあまりまだ利益を上げれる立場でもなく、研修期間中だったりしますよね。
当然中途採用では即戦力として採用されるので、丸々研修を受け続けている、なんてことはないかと思いますが、それでも4月入社で夏季賞与が7月だったりすると、「夏季賞与の査定期間は1~6月の勤務実績・業績による」と賞与規定があれば、4~6月の勤務実績しかないので他の人の半分、という計算になります。
新卒の場合は、「寸志」という扱いでホント微々たる金額だったりしますよね。
そうなってくると、例えば月給30万、賞与2ヶ月分×年2回の要件の場合
(30×12)+(30×2×2)
のところが、実際は
(30×12)+(15×2+30×2)
となり、4月~3月の年収は30万少ない計算になります。
想定年収は前者で表現することが多いので、見込んで買い物等する場合は気を付けましょう(さすがにないか)。
1-2.賃金形態(制度)
次に賃金形態ですが、こちらは主には「月給制」「年俸制」が正社員では標準の書かれ方をしますが、パートアルバイトなどは「時給制」と書かれますし、「出来高制」(歩合制)などもあります。
ただ、完全出来高制は一般の雇用形態ではNGで、業務委託であれば問題ありません。(フリーランスなどがまさにそれ)
また、標準労働時間に対し最低賃金を割らない月給に加えて、インセンティブとして出来高を支給する「月給制+歩合制」であれば正社員の雇用には問題ありません。
労働基準法で賃金支払いの5原則、というものがあるので、さすがに今の世の中「今月会社のお金ないから、給料来月支払うね」なんてことはない・・・と思いたいです。
話が逸れましたが、年俸制はプロ野球選手などで有名ですが、評価によって「毎年1回」年収が変動します。年俸制では「月給+賞与」の人のように16分割にして特定月に2ヶ月分ずつ上乗せしてもらうパターンや、12分割してもらうパターンなど会社によって支給割合は異なります。
次に、月給+賞与はなじみが深いでしょう。月の固定給+変動給に加え、賞与が出るパターンです。
しかしながら、このパターンの場合、「賞与」には、就業規則(賃金規定)の記載次第で「支給されない」という選択肢もあり得るので注意が必要です。
そして、それは違法ではありません。業績が良くない、会社が倒産しそうだから支給しない、でも従業員に対する不利益変更という扱いにはならないのです。
先述の月30万、賞与2ヶ月×年2回、というパターンで、コロナ禍や大震災などの影響で賞与が出せなくなった場合、想定年収は480万だったのに、蓋を開けてみたら賞与0で年収360万だった、なんてこともあり得るのです。
そう考えると、「年収における賞与の占める比率が大きい」ことは、年収で見ると非常に不安定な要素と言わざるをえません。
先日、ANAの冬賞与支給無、というニュースが流れましたが、長く続いている日本の大手企業は非常に賞与比率が大きいので、年2回のうちの1回が月給の2~3か月分あることもあります。そうすると、上記のように年収大幅減、ということもあり得ます。
よって、給与を軸に就職先を考えられる方は、過去の支給実績や業績からの見込みなどに注意してください。
コロナ禍での業績変動で支給されない、とか予想出来ないのが当然ですが、そこらも含めての賞与比率が高い会社は年収に対するリスクが大きい、ということが言えます。
短信や決算資料などを見て、業績が非常に好調なのに、比率が通常時と変わらない、またはその逆だったりすると何かがおかしいです。
1-3.賃金形態(内訳)
給与の内訳は、先述でもあったように「固定給(基本給、役職手当、家族手当、住宅手当、通勤手当等)」と「変動給(残業代、欠勤控除、インセンティブ、勤務地手当など)」で構成されます。
年俸制でも、正社員として雇用される場合は、雇用形態が「管理監督職」や「役員」といった場合でない限り、残業代などは発生するので、変動給も当然有ります。
また、賞与に関しては「固定給×○ヶ月分」といった表記ではなく、「基本給×○ヶ月分」といった記載がされるので、例え月収が40万あっても、基本給が10万、職務給が30万に対して2ヶ月分支給されたところで、10×2=20万となります。
固定給と変動給に関しては、後述の社会保険の所でも触れるので頭の片隅に置いておいてください。
大体、求人票に書かれているのは「基本給:¥xxx,xxx~」のみだけならいいのですが「固定残業代:¥xx,xxx~を含む/月」という記載がある会社が非常に増えています。
固定残業代(みなし残業手当)の記載は、次項の就業時間の所で触れますが、この場合、基本給30万(時間割賃金約¥1,875※)で月20時間みなしだった場合、1875×1.25×20の金額が固定残業代¥xx,xxxとイコールであるか確認しましょう。
時間割賃金の求め方は、基本給÷(年間の所定勤務日数×1日の所定労働時間/12)で求めるので、単純に月160で割ってしまったりすると異なる値になるのですが、ここが大幅に狂っている場合は計算がおかしいです。
正直、みなし残業制度があるというのは会社にとっても従業員にとってもあまりいいものではないと個人的に思います。
人事および会社があまり現場を見れていない、ということの裏返しのように感じるからです。
仕事が定時で終わる量しかなく、社内の平均残業時間が0に近い、もしくは手を余らせている状況で、みなし残業手当を支払うのは会社にとって損です。
逆に、みなし残業の記載があるから、と残業時間がみなし残業の時間をオーバーしても支給されないものだ、と誤解している方も非常に多いです。
この場合、労働者にとって損ですし、オーバー分を支給していない会社は賃金未払いを常に行っている非常に悪質な企業となります(もちろん、裁判を起こせば支払い命令が下り、支給しなくてはならなくなります)
裁量労働や管理監督職などになると、尚更そこらへんがややこしくなったりするのですが、基本的には「会社が割り振った仕事を、会社が望む能力と本人の能力とのすり合わせの結果、残業を命じなければならないぐらいの仕事を従業員に与えたのだから、ちゃんと残業代を支払う」というのが一番シンプルです。
ただ、実態として基本給が少ないから生活残業をする人、単純に仕事が遅いから残業になってしまう人、仕事を押し付けられすぎてパンクして残業している人、さまざまな事情があって残業が発生している中、「会社としての支出が一定に近くなる」という人件費予算策定などの面倒さ(誤差を少なくする)を減らすために導入している企業が多く、また現場の実態を人事が見れないことを示しています。
また、みなし残業代を作ると言うことは、勤怠管理と給与計算の際に(「総労働時間」-「月の法定労働時間」)×1.25でいいところを、(「総労働時間」-「月の法定労働時間」ー「みなし残業時間」)×1.25という式になるので、給与システムや勤怠システムを入れる担当の注意する手間が1つ増えます。
2.就業時間
就業時間は一般的に8時間をベースに考えられています。
中には7時間半や7時間45分などあります。
このあたりは労働基準法で1日8時間、週40時間をベースに考えられていますが、特例として週44時間まで適用される場合がありますが極めてきわめて限定的な制限があるので、基本的には見ることはないと思います。
最近では増えたフレックス勤務の場合、コアタイム有りと無しの2パターンに分かれます。(フレックス勤務や裁量労働制は労使協定を結ぶ必要があり、適用対象者を労働基準監督署に届ける必要があります。)
また、最近では先述した賃金の項目における固定残業代という表記があり、例えば40時間分の固定残業代¥xxx,xxを含む、といった記載があれば40時間は残業してもしなくても残業代を支払う代わりに、そこまでの残業をする可能性が十分にあるということです。
固定残業代の記述がある場合は、就業時間だけでなく、平均残業時間も確認するようにしましょう。
2-1.休憩時間
労働基準法では、労働時間が6時間を1分でも超える場合、45分の休憩、8時間を超える場合60分の休憩を与える義務が存在します。
多忙だから、と労働者が自ら昼食を食べながらメールチェックをしていたり、休憩中の電話番などをしていた場合は労働時間とみなされるので、労働裁判などになると「休憩を取らせていない」となります。
「完全に職務から離れて休む時間」を「勤務時間の合間に」「原則皆同じ時間に」取らせることが必須となります。(販売・サービスなどは同じ時間に休憩を取ると営業が出来ないので、そのあたりは考慮されています)
2-1.フレックス勤務(1ヶ月あたりの変形労働)における就業時間の特徴
コアタイム有りの場合、コアタイム11:00~15:00という記載がされますが、これは11:00~15:00は必ず勤務する時間として、この時間に勤務しない場合にそれをそのまま月の欠勤時間として控除対象とすることは出来ません。(あくまで勤怠集計としては、月の所定労働時間を守っているかで欠勤と判断する)
ですが、就業規則などに記載することで、懲戒処分の対象とすることは可能ですのでその記載があるか確認しましょう。(そもそもフレックス制度であっても全員が自由気ままに働いては統制も取れませんし、22:00以降や休日の割増賃金の適用が除外されるわけではないので、コアタイムを設けることでそれらの問題を避けることを目的としているケースがほとんどですが、それだけ社員との認識合わせが出来ていない(フレックス勤務がどういうものか説明出来ていない)という裏返しのケースもあります)
その他の時間は個人に委ねられますが、月の所定労働時間は法律で定められていて、休日も含んだ月の日数(精算期間の歴日数)を超えるか超えないかで残業手当や欠勤時間などを算出します。
また、フレックスには精算期間が存在し、多くは1ヶ月単位で清算しますが、精算期間を3か月間とすることで均して算出することも制度上可能となっています。
但し、このような均しを発生させると、勤怠管理システムの設定や労務の割増賃金精算が非常に大変になるので、人事労務の負荷軽減から適用している所はあまり見かけません。
2-2.裁量労働における就業時間の特徴
裁量労働制は、個人にかなりの裁量を持たせることで、労基署に届け出た「1日に○時間働いたとみなす」ため、明確な就業時間の括りがありません。
つまり、1日に2時間働いただけで与えられている業務をこなせるのであれば2時間働いて帰っても○時間働いたことになります。
もちろん、その○時間が1日8時間を超えていれば、その分の残業代は支払う必要があり、先述した固定残業代として支払われますが、○時間を超えたとしても○時間しか働いていないので、それ以上の残業代は払う必要はありません。
但し、こちらも深夜時間や休日勤務は別扱いです。
ただ、こちらもフレックス同様に自由気ままに働かれると組織として機能しないので一応の標準時間を定めるのは問題ありませんが、フレックスとは違いそれを守らなくても懲戒処分や罰則とすることは出来ません。(完全に出勤しなかった場合は欠勤として取り扱うことは出来ます)
2-3.年間変形労働における就業時間の特徴
1ヶ月内の変形労働は前述の通りフレックス制度に該当し、フレックスでは精算期間を3ヶ月まで延長できるとしていましたが、1年間の変形労働時間制というものも存在します。
このケースは特に繁閑期が明確な事業場で適用されますが、かなり導入しているところは少ないでしょう。
例えば年末調整や確定申告の帳票の事務作業や計算を請け負う事業があったとしましょう。その場合、多忙なのは11月~3月となります。逆にそれ以外の月は比較的暇になります。
その場合、4月~10月は1日あたり1日6時間勤務として、11月~3月は1日10時間勤務とすると、年間を通してみたとき、平均して1日当たり8時間、週40時間となります。
それらをあらかじめ定めておくことで、年間を通して1日8時間1週間40時間を守っている、として残業代を免除できる、という制度なので、事前に説明を受けておかないとかなり誤認しやすい制度になります。
もちろん労働基準監督署への労使協定の届出が別途必要となります。
2-4.就業時間まとめ
簡単にまとめると
・通常勤務=1日8時間週40時間で、定められた時間に始業し、定められた時間に終業する一番一般的なパターン
・フレックス勤務=深夜早朝・休日に該当しない範囲で自由に始業、終業を選べる変則的なパターンだが、月で定められた労働時間の縛りは受ける
・裁量労働=深夜早朝・休日に該当しない範囲で、自由に始業、就業を選べ、尚且つ所定労働時間の縛りを受けずに働いたと見なされるが、特殊な制度のため、職種などかなり限定されている
・年間変形労働=特定の時期に対し他の時期とバランスを取り、年間の法定労働時間を超えない限りは1日8時間以上の労働があっても残業代を免除できる制度、但しその特性から複雑な条件が設けられている
となります。
まとめ
今回は給与形態と就業時間について色々纏めました。
主に働く側からの視点ですが、給与や就業時間はコロナ禍の今、非常に注目されているポイントでもあります。
従業員からすれば、倒産や希望退職、業績悪化からの賞与減額に加えリモートワークなどでの労働環境の変化、会社からすればコロナ特需の会社を除けば軒並み業績減、目減りするキャッシュ、在宅によるオフィスの存在価値の減少、リモート整備にかかったIT出費など頭の痛いことが山ほどあります。
そんな中で、違法な労働条件や会社優位に運びやすい労働条件を知らずのうちに受け入れてしまうと苦労するのは自分ですし、逆にそういう労働条件を出す会社は中々人も取れず、果ては身内から労基署への告発・是正措置を経て苦しい状況へ、なんて笑えない状態を作ってしまうのが人事制度というものです。
人を活かすも殺すも人、それが人事。特に金と時間は人の生活に直結します。一番、社員の為を思って出来ることをやる、それが人事に求められるホスピタリティであり、会社の空気を換え、ステップアップさせる大きな要素であることは間違いないと思います。
次の回では休日・休暇と通勤手当、社会保険に関して書きたいと思います。人事担当の方には耳タコの話でしょうが、労働者視点では意外と盲点な部分なので読んで頂ければと思います。
労働基準法や税制、社会保障制度など法要素が多く含まれるのでまた長い話になると思いますが是非お付き合いください。
おしまい
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