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編者解説――〈マドンナベリー文庫〉創刊にあたって。

10月10日配信開始の〈マドンナベリー文庫〉第一弾、夜ノ杜零司『自己啓発少女と俺の夢を叶えるAV撮影』で、編者(ゆずはらとしゆき)が書いた解説文(?)を、夜ノ杜さんのご厚意で転載いたします。

夜ノ杜零司×ひげた『自己啓発少女と俺の夢を叶えるAV撮影』

以下、謎の新レーベル〈マドンナベリー文庫〉の創刊経緯です。


編者解説――〈マドンナベリー文庫〉創刊にあたって

ゆずはらとしゆき


 一般的に官能小説というジャンルは、著者のあとがきも誰かの解説もありません。
 あっても困るのですが、この『自己啓発少女と俺の夢を叶えるAV撮影』新レーベル〈マドンナベリー文庫〉創刊第一回配本という特殊な立ち位置でして、何が何やらさっぱり分からねえよ、と思いますので、読者諸兄の崇高な賢者タイムに御無礼ではありますが、少しだけ解説いたします。
 まず、レーベルの創刊経緯ですが、これは編者(ゆずはらとしゆき)が何を思ったか、十八年ぶりにマドンナメイト文庫へ官能小説の企画プロットを持ち込んだことに始まります。
「この小説、マドンナメイト文庫から出すのは無理ですね」
 あっさり言われました。 「またカテゴリエラーかよ」と肩を落としたら、問題なのは、 『COMIC快楽天』のような青年漫画的リアリズムのイラストレーションで彩られる〈キャラクター小説〉という部分でした。
 ライトノベルはイラストレーションとの相乗効果でキャラクターの生活感まで描くことが当たり前なので、もう〈キャラクター小説〉なんてゼロ年代用語は使わないんですが、官能小説はセックスの属性とシチュエーションに特化しています。イラストレーションも不気味の谷のスーパーリアリズムです。 『漫画エロトピア』の太古から脈々と続く匠の技です。
「いっそのこと、新しくレーベルを作りませんか。ゆずはらさんの企画編集で」
 これまたあっさり言われました。どう考えても就職できなかったのび太が起業して火事で倒産して莫大な借金を背負うあの有名すぎる第一話の運命しか見えなくて尻の穴がギュッとしましたが、作らないと出すことができないので選択肢がありません。
 どうしてこうなった。
 ……とはいえ、独りでレーベルを創刊できるわけがないので、とりあえずは〈官能ライト文芸〉というふざけたフレーズを掲げ、隔月刊のセレクションレーベルということで、編者が個人的に新作小説を読みたい作家さんだけに声をおかけしました。レーベルの私物化じゃねえか!

 そして、最初にOKをいただいたのが、この『自己啓発少女と俺の夢を叶えるAV撮影』の作者・夜ノ杜零司よのもりれいじさんでした。
 遠い昔のゼロ年代、講談社に『ファウスト』といういけ好かない文芸誌がありまして、 「萌え」 「非モテ」のブームに乗って一瞬だけ存在した〈二見ブルーベリー〉あたりの官能小説読者からは蛇蝎の如く嫌われていたんですが、その『ファウスト』編集部で夜ノ杜さんとよく顔を合わせていたのですね。主力作家陣と主力ではない編者で台湾旅行したこともありました。覆水盆に返らず。
 まあ、逆に夜ノ杜さんの執筆が決まって、いよいよ後に引けなくなったのですが……第一回配本が『自己啓発少女と俺の夢を叶えるAV撮影』になったのは、本来の官能小説らしい様式美と、飄々とした笑いの〈キャラクター小説〉を両立している本格派投手な夜ノ杜さんのほうが、創刊一発目に相応しいと判断したからです。
 本当はレーベルを作ってしまった編者が率先して範を示すべきなんですが、編者の脳内で編集者のゆずはらとしゆきが「てめえなんぞが第一回配本で誰が買うんだよ! この危険球野郎ビーンボーラーが!」と作家のゆずはらとしゆきを罵倒するので……。表へ出ろよこの野郎!

 イラストレーションはひげたさんにお願いいたしました。
 夜ノ杜さんの「世を忍ぶ」仮の作品群と共通する乾いたユーモアと可愛くも仄暗い女性キャラクターで、氷河期中年の周回遅れで黄昏流星群な青春官能喜劇を彩ってくださいました。有り難うございます。

 かくして、官能小説の新しい実験室〈マドンナベリー文庫〉勃起エレクチオンいたしました。
 対外的には〈官能ライト文芸〉という造語をでっち上げていますが、レーベルの基本コンセプトは〈官能小説をキャラクターで描く〉だけですから、別に頽廃と混沌をコンクリートミキサーにかけてブチまけるつもりはありません。本当に。
 そして、次回の第二回配本は編者こと、ゆずはらとしゆき『葉名はな伯父おじさん』です。イラストレーションは稲戸いなとせれれさんになります。
 ……それでは、今後とも宜しくお願いいたします!


……以上、謎の新レーベル〈マドンナベリー文庫〉の創刊経緯です。
あとがきや解説が存在する官能小説レーベル、というのも珍しいと思いますが、実験的なレーベルの「実験」は説明しないと分からないですからね……。
なので、もう少し突っ込んだ事情と余談は、前の記事「〈マドンナベリー文庫〉創刊第一弾『自己啓発少女と俺の夢を叶えるAV撮影』配信開始です。」のほうを参照してくださいませ。

かくして、〈ライト官能文芸〉〈新しき官能小説と文藝の実験室〉と銘打った〈マドンナベリー文庫〉第一弾、夜ノ杜零司×ひげた『自己啓発少女と俺の夢を叶えるAV撮影』電子書籍各ストアで配信中です!


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