マシュマロが不味い
青空がうっとうしいと思う日は、ちょっと危険だ。
今週はずっと快晴で、私の機嫌は上がったり下がったりを繰り返している。
天気予報では数日後に接近する台風に注意しろという警告を出していて、それもさらに気分を下げる。
「お腹も空いてないんだよなあ」
なんとなく、生きるためにというだけの気持ちで食パンを焼いてかじって。
栄養が取れてないとますます気分が落ちるかなと思って、ビタミン剤やミネラル剤なんかも水で流し込んで。とりあえず今日やるべきタスクをこなしていく。
「うつ病なんかな?」
そう思うこともしょっちゅうだけど、気がつくと治っていることが多いから風邪薬とか頭痛薬を飲んでやり過ごしている。
不思議だけれど、市販薬の何かしらで気分が上がることがあるから、薬物的にそういう効果をもたらすものもあるのかなと思っているが、乱用するまでは至っていない。
職場ではコーヒーを淹れて、いくつかのマシュマロを浮かべて飲む。
普段美味しく食べているマシュマロだけれど、今日ばっかりは甘ったるいだけで口の中で嫌なまとわりかたをする。
何をやっても楽しくないし、何を食べても美味しくないし、将来に希望も見えない。それどころか過去のことをクヨクヨ考えていて後悔ばかりしている。
(私って本当はこの世に必要ないんじゃないかな)
そう思うと、勝手に胸から熱いものが込み上げて涙が出てくる。
「ねえ、来週新しくできたお店でランチしない?」
「いいね! 楽しみ」
(トイレに何度も行ってるの、怪しまれてないみたいでよかった)
同僚に変に思われないか気にすることだけはしっかり考えていて、相手の顔色が曇るのだけが心配だ。
でも長く職場にいるとボロが出そうで。
その日は調子が悪い様子を見せすぎないようにして早めに仕事を切り上げた。
こんな日は当然寝つきも悪く、夜中に何度も起きては水を飲んだりトイレに行ったりして……どうにも胸苦しい。
「私、ここまでどうやって生きてきたんだろう。すごいな、私」
不意にそんなことを呟いた。それくらい、今は生きることそものもが辛い。理由を考えてもわからない。
青空がうっとうしくて、夜の星も癒してくれなくて、マシュマロがまずい。
大好きな動画も面白くないし、友達にLINEする気分にもならない。
本格的にやばいんじゃないかと思った、その数日後。
「あ」
トイレで用を足して気づく。その日はちょうど生理の来る日だった。
そして、それが訪れた途端、後頭部からなんとも言えない解放の風が吹いた。
何もかもが「どうにかなる」「自分はそれほど不幸じゃない」「オールオッケー」のような楽観的な気分になる。
今までなんとなくやり過ごしていたことだけれど、今回の境界線はハッキリしていた。
だって自分を取り巻く環境は何一つ変化していないのだ。
なのに、気分は全て昨日までの真逆になっている。
明らかに自分を憂鬱にしていたのは脳内の何かだと思った。
「青空のせいでも星空のせいでも、ましてやマシュマロのせいでもない」
ようやく、生理周期と自分の気分に相関関係があることにも気づいた。
どうやらホルモンバランスが自分の「気分」に多大な影響を与えている。
それはPMDDという名前も付いていて、性格や過去のトラウマやら色んな原因があるのは確からしい。
治療方法はメンタルクリニックによる薬物の対応もあるし、漢方やカウンセリングなども効果的らしい。
ただ、根本的に治癒するには、その人の考え方の矯正や、体質の改善がかなり重要な感じだ。トラウマをどうにかするっていうのは、やらないよりはマシなのかもしれないが正直終わりのない迷路のようだとも思う。
過去は変えられないが、未来はまだ変化する余白を残している。
「すぐには無理だろうけど。原因は分かったし、生理が来た後に感じる爽やかさが続く方法を探そう」
そう決意し、私はひとまず休日は散歩をしてみようと思ったのだった。
台風が来る気配を漂わせる空は雲が早く流れていて、不穏な様子を見せていたけれど、私を不安にさせることはなかった。
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