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人の第一印象はどこまで信用できるのか?

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就活生の頃、ずっと疑問に思っていたことがありました。

少しえらそうに聞こえるかもしれませんが、

「面接官は本当に学生を見る目があるのか?」

これがずっと疑問でした。


というのも大企業の人事の方にこんなことを言われたことがあったからです。


「デキる学生かどうかだって?そんなの5分もあればわかる。いや、なんだったらドアを開けた瞬間にわかるときもあるね」


ほんとに?
入ってきた瞬間わかるってどういうこと?
たった5分で学生の能力や将来性がわかるの?


もちろん面接官によっては「話を聞かないとわかりません。わからないからこそ何度も面接をするのです」と言う方もいましたが、

「すぐにわかる」と断言する人と、「わからない」と言う人に真っ二つに分かれていました。

それだけに「面接官は本当に学生を見る目があるのか」が疑問で仕方がなかったのです。


なぜ面接官は学生を一瞬で判断できると思っているのか?
本当に見分けることができているのだろうか?
それともただの思い上がりなのか?


本記事はそんな「第一印象」について実際はどうなのか、自分でも実験をし検証しながら、最新の研究をもとに約1万字で考察したものです。

これは就活に限った話ではありません。

全ての人々が心に留めておくべき話になると思ったので書き記しておくことにしました。

なぜなら、知らない人と出会ったとき、誰もがその人に誤った判断を下されてしまう可能性があるからです。


「デキる学生かどうかだって?そんなの5分もあればわかる。いや、なんだったらドアを開けた瞬間にわかるときもあるね」


果たしてこれは真実なのか、はたまた嘘なのでしょうか?

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さぁ、それでは知的冒険を始めましょう。

すべての始まりである渋谷ハチ公前で行った実験のお話から。


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■話し方で見た目は変わる

本選考の面接が数ヶ月後に控えた大学3年のある日、僕はこの疑問を探るべく、ある実験を思い付きました。アルバイトをしながらでも答えが得られる実験です。

僕はその頃、"芸能事務所のスカウトマン"をやっていました。

渋谷のハチ公前で、綺麗な人やかっこいい方に声をかけて、「名前と電話番号」を聞き出せたら、僕に270円が支払われるという完全歩合制の仕事でした。(後日行われる説明会に来てもらえたらさらに+α支給)

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知らない人に話しかけるというだけでもしんどいことなのですが、芸能事務所というなかなかうさんくさい話をしなければならなかったので、

それだけにできない人はほんの数回で辞めていってしまうようなハードな仕事内容でした。

僕は自信があって入ったのですが、それでも最初はなかなか上手くいかず、声をかけた女性から「え、キモいんですけどー!」と叫ばれ、ハチ公前で意気消沈していると、そばを飛んでいた鳩に糞を落とされ、

「これが泣きっ面に蜂ってやつか……」と小学生の頃に覚えたぶりにこの慣用句を使ったくらいでした。

(ここの試行錯誤は本筋から外れるので割愛しますが)、そんな状況を打破すべく、話し方、非言語、心理学を勉強し駆使することで、数ヶ月かかりましたが、時給840円くらいからMAX時給3500円まで成長することができました。


さて、そこで、余裕の出てきた僕は、知らない人に自分の「第一印象」を自然な流れで聞き出す方法を思い付いたのです。


スカウトした相手には必ず年齢を聞く決まりになっていました。

というのも、声をかけた相手がもし未成年だった場合、保護者の同意が必要となるからです。

そこを利用させてもらうことにしました。

まず普段通り、相手に声をかけ、名前と電話番号を聞き出し、年齢を聞く。「いやぁ、25歳には見えないですねぇ。もっと若く見えますよ!」「まだ20歳でしたか。めちゃくちゃ大人っぽいですね」など雑談を交わし、少し打ち解けた後、

「ちなみに、僕っていくつに見えますか?」

と聞いてみることにしたのです。

30人に質問したところ、だいたい実年齢通りの「平均22~23歳」くらいに思われているということがわかりました。


そこで実験内容を少し変えてみることにしました。


【話し方】を変えたのです。


それまでは、普段通り「早口で、高く」話していたのですが、次に「ゆっくり、低く」話すことにしました。

というのもこの話し方が一番「信頼してもらえる話し方」──怪しまれず話を最後まで聞いてもらえる話し方──だということが試行錯誤の末わかってきていたからです。


再び、30人に質問してみました。


結果はどうだったでしょう?

「ゆっくり、低く」に話し方は変わっても、見た目は何も変わっていないので、年齢は先ほどと同じように22~23歳くらいに見られたでしょうか?



答えは否でした。

「ゆっくり、低く」に話し方を変えただけで、驚くべきことに僕は「30歳前後」に見られたのです!

たった一つ話し方を変えるだけで、「7~8歳」も〝見た目〟が変わってしまったのでした。

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■人は共有された第一印象を抱く

このとき僕は家電量販店で接客された時のことを思い出していました。

この経験が無ければ、先ほどの実験結果も信じていなかったかもしれません。


まだ就活が始まる前の頃、長年使っていたパソコンが壊れ、すぐに渋谷のビックカメラへ見に行きました。

そこでとても爽やかなお兄さんに、流暢かつ丁寧にパソコンの説明をされ、また、本人も家電のことがとても好きそうでした。

「接客されて買うならやはりこういう人からだなぁ」と、まだ買うつもりはなかったのですが、そこで即決し、パソコンとモバイルルーターを買いました。

「このルーター、今のお住まいだとかなりスピード出てサクサクですよ!」

自信満々に、かつ意気揚々と接客され、

(なんて頼もしい人なんだ)

そう思いました。

家に帰り、パソコンの設定をし、早速サクサクを堪能しようと思ったら、これがなぜだか思ったより動きが遅かったのです。


これは何かがおかしいと思い、後日、ビックカメラに行って聞いてみることにしました。

そのときは担当してくれた方はおらず、他の店員さんに話しかけてみると、愕然としました。

なんとルーターの説明がそもそも間違っていたのです。


「◯◯君、またやっちゃったのかぁ……」

「2年契約だと途中で解約された場合、違約金が発生してしまいますが……今回はこちらの不手際だったので、もし契約解除したいとのことでしたら、違約金はなしでいけるよう上に取り合ってみますが、どうされますか?」


僕は相手を「自信がある」という第一印象だけで、「この人は仕事のできる信用できる人だ」と勝手に信じて込んでしまっていたのでした。

実際は単に自信過剰で口が達者な人だっただけで、仕事ができるというわけでは一切なかったのです。

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この失敗談と先ほどの実験から僕の中で2つの仮説が生まれました。

それは

「人々は共有された第一印象を抱く」

そして、

「この印象は操作可能である」


です。

〝共有された第一印象〟を抱くとは、

あなたが大多数の「賢そうな人」のコスプレをすれば賢そうに見えるし、大多数の「ヤンチャな人」のコスプレをすれば、あなたは他人から「ヤンチャな性格を持っている」と認識される、ということです。

例えば、眼鏡をかけて本を読んでいる人はインドア派の優等生のように見え、筋肉隆々のラグビー部員は文化系の人達と比べ、頭が悪そうに見えます。

これらはもちろん偏見ですが、顔(第一印象)に関するステレオタイプは、実はランダムなものでも完全に主観的なものでもありません。

人々は共有された第一印象を抱くものなのです。

裏を返すと、表情や話し方によって、意図した通りに印象が操作できる(かもしれない)ということです。



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僕は家電量販店でパソコンを買う際、「自信満々である=仕事ができる」というある種のステレオタイプにまんまと騙されてしまっていたのですが、

ここまで読んだ読者の方なら似たような経験をしたことがある人もいらっしゃるかもしれません。


でも、なぜそんなことが頻繁に起こりうるのでしょうか?


「人々は共有された第一印象を抱く」
「この印象は操作可能である」

僕の中に生まれたこの2つの仮説を検証すべく、次なる実験場である、緊迫した就職活動の面接会場へと皆さんをお連れしましょう。


本当に面白いのはここからです。

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■もしも"面接で必要不可欠なモノ"を失ったら

前回の渋谷ハチ公前での実験で、僕は話し方一つで相手に与える印象がまるで違ってくることを知りました。

これに味をしめた僕は、次にアルバイト先から就活での面接会場へと実験場を移すことにしました。

面接で再び実験を行うことにしたのです。

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就活の一次面接では、どこでもほとんど同じ質問をされ、話す内容もほぼ同じになってくるので、実験にはもってこいだったからです。

面接では「学生時代に頑張ったこと」を聞かれるのですが、もうそのことに関しては寝起きであろうと39度の熱が出ていようとそらで言える状態です。

当時、僕は面接が得意だったみたいで、自分が聞かれたいことを質問されるよう面接官を誘導することも容易くでき、面接にはほぼ落ちることなく就職活動を終えることができました。

ましてや一次面接で落ちることは一度もなかったです。

(えらそうに聞こえてたらすみません…話の流れ上、説得力を出すためにここで権威付けが必要なので……)


そこで今回の印象実験では【自信の有無】で比較してみることに決めました。

そんな絶対に落ちることのない一次面接に、覇気がないように見えるよう寝不足な状態で行き、「話す内容は一字一句変えず」に、「とてもか細く、自信が無さそうに」話してみることにしました。

先ほどの家電量販店での接客の一件からどうやら「自信」というものが人の印象を惑わせるということがおぼろげながらわかっていたからです。



結果はどうだったでしょうか?



ここまで読んできた聡明な読者なら結果はもうおわかりだと思います。


絶対に落ちるはずのない一次面接で落ちたのです。


2回試して、2回ともです。

通ったときの面接と話す内容は一字一句同じだったにも関わらず、です。


つまり、面接官は「デキる学生は自信に満ちている」という先入観で採用してしまっていたということになります。

「人々は共有された第一印象を抱く」という仮説がここで強固なものとなりました。



でも、なぜ、面接官は思い違いをしてしまったのか?

学生の話す内容をちゃんと聞いていなかったのでしょうか?



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その後、僕は第一志望の本選考は順調に進み、株式会社リクルートの最終面接へと駒を進めることができました。


人事部長は言いました。

「あぁ、君、営業に向いてそうだね!」


さて、ここで問題です。

◆最終面接で、僕が人事部長に出会ってから、この発言をされるまでにどれくらいの時間を要したでしょうか?


1分?

5分?

それとも面接が終わった後に言われたということで30分?








いやたったの2秒でした。




■第一印象はどのように形成されるのか?

出会って2秒とは、「とても早く」という意味の比喩ではなく、文字通り、「知り合って2秒」で言われたということです。

当時、営業志望だったので、それはそれでありがたかったのですが、一方で「ほんとに?」とも思いました。


もともと僕が「第一印象」に興味を持つようになったきっかけは、ここにありました。

人によって僕に抱く印象がまるで違うということがよくあったからです。

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大学生の頃、僕はバイトを二つしていまして、お昼から夕方にかけて渋谷で芸能事務所のスカウトマンをし、その後、夜は横浜の本屋さんで働いていました。

芸能事務所では、後輩から

「勉強させてもらいたくて、今日実は森井さんのスカウトしてる現場をこっそり見させてもらってたんです」

「なんでいつも知らない人とすぐに打ち解けて、笑いが起きているんですか?笑顔にさせる秘訣、僕にも教えてください!」

と教えを請われ、

その後、(目が疲れてくるのでコンタクトを外しメガネをかけ)、掛け持ちしていた本屋さんへ行って働いていたら、店長から

「君は暗いからもうちょっと笑顔の練習をしてみよう。はい、笑ってみて!」

と言われたことがありました。


この日のことは今でも本当によく覚えています。

数時間前までは後輩から「なぜそんなに相手を笑顔にすることができるのか」を請われ、そしてすぐ後に店長から君は暗いからと「笑う練習」をさせられました。


相手によって僕の印象がまるで違ったのです。


ただ、こういったことは本当に何度もあり、例えば、就活生の頃、母親から「あんたは人としゃべるのが苦手なんだから、営業だけはやめときや」と言われ、リクルートの人事部長には出会って2秒で「君、営業に向いてる!」と言われました。

他にも「真面目とチャラそう」、「THE関西人」と言われたと思ったら「関西ぽくないねー」と言われたり。


僕には、なぜここまで(第一)印象が変わるのか不思議で仕方がなかったのです。

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第一印象はどのように形成されるのか?

そもそも第一印象とは何なのか?



そろそろ核心に迫りましょう。

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第一印象研究の第一人者であるアレクサンダー・トドロフはこう答えています。

「第一印象とは、外見のような表面的な手がかりに基づいて、他者を瞬時に判断することです。

それらは、モノに気づいたり、大きな音のするほうを見たりするのと同じように、自動的、かつ瞬間的に行われます。印象は自然発生的に浮かんできて、顔を見た時間が0.1秒にも満たなくても、判断するのに十分な「情報」が得られるのです」


人は熟考により印象を形成するわけではなく、物体を知覚したり、メロディーを耳にしたりするのが避けられないのと同じくらい第一印象は防ぎがたいことだったのです!


しかし、それらはとても不正確な知覚でした。


こんな興味深いはっとさせられる実験があります。

経験豊かな人事部の部長と性格の判断に長けているとみなされている人たちに、150枚の学生の写真を見せて、知的水準を判断させました。

その結果、彼らの判断と学生たちの知的水準測定値(および学生の成績)との相関関係は、ほぼゼロでした。

つまり、判断を下した者たちは、学生の知的水準を推測することができなかったのです。
(※面接で受けた印象と採用後の業務遂行能力の相関係数は0.15を下回るそうです)


しかし、正しく推測できなかったとはいえ、その判断において彼らは「合意」をみていました。


〝合意〟とはどういうことでしょう?


この実験を行ったステュアート・クックは、見かけの知的水準ランキングにおける最上位の10人と最下位の10位について、写真を比較しました。

その結果、驚くべきことがわかりました。

それは知的水準が高いとみなされた者たちには、そうでなかった者たちより、より典型的な顔の特徴があったのです。

すなわち、感じの良い表情とよりさっぱりした外見です。
(もう一つのグループの者は困惑した表情を浮かべていました)

これらを知性的な顔の外見として人々が共有していたのです。


つまり、私たちはみな、顔つきのステレオタイプ、頭の中の絵を共有しているということです。

「印象における合意」が存在したのです。


人は印象をあまりにも簡単に抱いてしまう性質がゆえに、この"第一印象の合意"こそが、顔から抱く瞬時の印象をその人の性格だと混同してしまう所以なのです。


例えば、「優秀な学生はスーツが似合い、キリッとした顔つきで、声は低くはっきりとした自信で満ちている」

と。

だから面接官は、凄腕の占い師にでもなったかのように惜しげもなくこう言ってしまうのです。


「デキる学生かどうかだって?そんなの5分もあればわかる。いや、なんだったらドアを開けた瞬間にわかるときもあるね」


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■第一印象よりも大切なこと

ここまで読んできて、「いや、俺はちゃんと相手の顔から性格を読み取ることができているから!」と思った方もいらっしゃるかもしれません。

第一印象を全否定するな、と。


もちろん、顔からほぼ正確に押し測れるものもあります。

それはその人の「今の感情」です。

例えば、誰かがちょっと疲れていたり、怒っていたり、悲しんでいたりするとします。

そういった場面では、人は相手の感情を読み取ることができるので、とても役に立ちます。

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しかし、問題なのは、人は顔から伝わる情報だけで、その人全体を推測する傾向があるということです。

初めて出会った人に対して、何も知らないのにも関わらず、私たちは、わずかな情報を基に、相手がどんな人なのか非常に精巧なイメージを作り上げてしまうのです。

(余談ですが、ちょうど先週の話なのですが、知り合って間もない二十歳そこそこの子に「僕には君がダイヤの原石に見えている。でも、すごく輝いている未来と原石のまま終わる未来、ちょうど二つの未来が見えてせめぎあっている。経営者やフリーになってバリバリやっていける才能があると思うから頑張ってほしい、応援してる!」と熱く語ったら、

「私、成長したいとかなくて現状維持でいいんですよね。そもそも雇われたくて、OLに憧れてるんです」と真逆なことを言われ、大恥をかいたばかりなのですが)


人間がこういう進化を遂げてきたのには理由があります。

遥か昔、我々は非常に小規模な社会の中で暮らしていて、こうした社会では社会の成員に対して簡単にアクセスできる、信頼ある情報であふれていました。

それゆえ他者の性格の印象を形成するのに、見かけの情報に頼るような淘汰圧は働かなかったのです。

そのため円滑なコミュニケーションのために「感情を読む能力」が特化していったのですが、

人類史から見て近年になって初めて集落を越える交流をし始めたため、他人の性格を推し量る必要が出てきました。


人は確かに高度な顔認識の機能をもっています。

ですが、それはあくまで社会的シグナル──「感情や意図」──を読みとるためのものであって、「性格や知性」を読みとるためのものではなかったのです。


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印象を抱くとは「他者を知り理解したい」という私たちの希求の一部かもしれませんですが、

面接官の方々はどや顔で「デキる学生はすぐにわかる」などとは言わず、わからないからこそ相手を理解しようとする「謙虚さ」が求められているのではないでしょうか。

……

…………

……………いや、正直言うと、僕はこんな説教めいた提言をしたくてこの記事を書いたわけではありません。


ではなぜか?


それはこんな哀しい研究と、そして驚くべきエピソードを知ってしまったからでした。

いや、物書きとして書かずにはいられませんでした。

長くなりましたが、最後にその2つの話をして終えたいと思います。


ここからがこの記事で僕が本当に伝えたかったことです。

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(現在、再現性の観点で批判されてはいるのですが)
「ステレオタイプ脅威」の話です。

少しだけ専門的な話をします。


まず「ステレオタイプ」とは、

・男性より女性の方が看護師や育児に向いている
・理系の人はコミュ力が低い
・年寄りは記憶力が悪い
・黒人は白人より学力が低く、暴力的である

こういったある種の偏った固定観念で人を見ることを指します。

いわゆる"レッテル貼り"ですね。

そして、周囲からステレオタイプに基づく目で見られることを恐れ、その恐れに気をとられるうちに、実際にパフォーマンスが低下し、恐れていた通りの結果になってしまう現象を「ステレオタイプ脅威」と言います。


例えば、こんな話です。

難しい数学の問題を成績優秀な理系女子たちに解いてもらいます。

その直前に、「女子は数学が苦手」というステレオタイプを彼女たちにさりげなく刷り込むとしましょう。

すると、彼女たちはこのステレオタイプを実証してしまったらどうしようという不安に駆られます。

それゆえに、〝ステレオタイプ脅威〟にさらされたグループは、「女子は数学が苦手」を刷り込まれていないグループと比べて、解ける問題も解けなくなってしまったのです。


この「ステレオタイプ脅威」の話を初めて知ったとき、僕はこういうことってけっこうあるな、と思いました。

実際に、学生時代にバイト先で「ミスをするな、絶対にミスをするなよ」と何度も言われることで、本当になんでもないようなことでもミスしてしまったことがあったからです。

「ミスするなよ」が体中に突き刺さり、呪縛の如く、体をこわばらせていたのです。

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直接的な言い方ではないにしても「お前はできない」と言われて育った子どもは自己肯定感が低い場合が多いと聞きます。

それは自分は何をやってもできないと思い込み、その思い込みゆえに実際にできなくなってしまうからです。


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そして、次に思い浮かんだのは、ある伝説のプロ野球選手の話でした。

たまたま何年か前に知って、僕は衝撃を受け、心を大きく揺さぶられました。

ピッチャーの最高球速の話です。

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僕(1990年生まれ)の子ども頃は、今では想像もできないくらい野球が流行っていまして、サッカーよりも野球が大人気で、僕の通っていた小学校ではサッカー部に入っていた友達は学年にたった一人だけで、ほとんどが野球部だったくらいでした。
(僕は中学ではサッカー部に入りたかったのですが、廃部になっていました)

それぐらい野球界全体が盛り上がっていまして、

イチロー、松井秀喜、清原和博、新庄剛志など、国民的なスター選手が本当にたくさんいました。


そんな中、野手ではなく投手でスターだったのは1998年に高校野球でノーヒットノーランで春夏連覇という偉業を成し遂げた松坂大輔でした。

野球を知らない人でも僕ら世代なら「平成の怪物」という異名を聞いたことがあるかもしれません。

「10年に1人の逸材、平成の怪物」として鳴り物入りでプロ入りし、高卒ルーキーながら16勝をあげ、1年目で10勝以上した投手は実に32年ぶりでした。

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前振りが長くなりましたがここからがやっと本題なのですが、

このプロ野球デビュー戦では155キロをマークし、松坂大輔はその後、最高球速156キロまで伸ばしました。

「平成の怪物ここにあり」と言わんばかりの大活躍で世間を賑わせ、僕は子どもながらに、SMAPよりも松坂大輔こそが最高のエースでありスターだなと思っていました。


それからしばらくして僕は思春期がきて、髪を伸ばしたくなったので中学いっぱいで野球は辞め、大好きだった高校野球も選手が自分よりも年下になったタイミングで見なくなりました。

それ(2008年)以降、野球を一切見なくなり、10年以上が経っていたと思います。

そのタイミングでたまたまニュースで目に入ったのが、大谷翔平選手でした。


「大谷翔平が165キロというプロ野球最速記録を出した!」


というニュースでした。


野球からすっかり興味を失っていた僕でもこの数字にはさすがに驚きました。


あの平成の怪物よりも10キロも早いではないか!!!!!


と。

バッティングセンターで球速を10キロ早くするだけで全然打てなくなることを知っていたので、これには恐れおののきました。


165キロ!?
日本人が出せる速度ではないだろう!?


僕の少年時代の最強のメジャーリーガーはランディ・ジョンソンでした。

余談ですが、試合中、マウンドから投げたボールが白い鳩にぶつかり、羽が舞い上がり、一瞬ボールが爆発したように見えたという逸話を持つ投手で、
(YouTubeに動画があがっていると思うので知らない方は見てみてください。当時すごいニュースになっていました)

2m8cmという長身から投げ下ろされる球速でMAX164キロ。

大谷翔平はそんな最強のメジャーリーガーよりも早かったのです。

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すぐに日本人の最高球速ランキングを調べました。

そして僕は、ここで再び、驚くこととなりました。


松坂大輔の名前がなかったのですーー


日本人の最高球速ランキングトップ30にも入っていなかったのです。


野球少年のヒーロー・松坂大輔だぞ!?
32年ぶりの偉業を成し遂げた男だぞ!?


当時、松坂大輔は「156キロ」というぶっちぎりで早い球を投げていました。

僕は大谷翔平のニュースを知るまで、10年以上プロ野球を見ていなかったですが、それでも10年に1人の逸材と言われていました。

仮に年に1人そういうスーパースターが生まれていたとしても10人。

当然上位に食い込んできていると思っていたのに、松坂大輔がトップ30にも入っていなかったのです。


しかも、それだけではなく日本人には無理だとされていた160キロ台を投げる投手がゴロゴロいたのです!!!!!


うそだろ!?
なんで日本人なのに160キロを投げる選手がこんなにいるんだ!?


僕だけ違う世界に紛れ込んでしまったかのようで、再び、慌てて調べました。


僕が野球から離れていたこの10年間でプロ野球界にいったい何が起こったのか?

そして、なぜそんなことが起きえたのか?



すぐにスポーツライターの西尾典文さんの記事にぶちあたりました。

160キロ台が投げられるようになったのはトレーニング方法の進化などが挙げられますが、

一番の要因は


「意識の変化」


だと書かれていました。



意識の変化?


「以前は「夢の160キロ」と言われ、日本人選手が到達することは不可能ではないかとすら言われていた。

しかし2010年に由規(当時ヤクルト)が161キロをマークすると、2012年には大谷が高校生でありながら夏の岩手大会で160キロを記録し、そして今年は佐々木がそれを上回っている。

今までは無理と思われていたものでも、一人がその壁を破るとその数字を目指すようになり、気持ちの部分での壁が取り払われたのだ」

僕の少年時代は150キロを出せたら超すごい投手として扱われていたのですが、"意識の変化"という、抽象的で漠然とした曖昧模糊たる極まりないものにより、今では160キロを出せるようになっていたのです。


「160キロ以上を出せるのはメジャーリーガーの外国人だけで、体が小さくフィジカルの弱い日本人には無理」


150キロ台が限界だったのは僕たちが勝手に作り上げた「ステレオタイプ」のせいだったのです!

偏見に惑わされたレッテル貼りが、人の可能性を奪っていたということです。

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しかし、本当にこんなことが起きうるのか?

たまたまプロ野球界で起きただけ?

他に事例はないのか?



再び、リサーチし文献にあたるとすぐにこんな驚くべきエピソードが見つかりました。

英国の中距離ランナー、ロジャー・バニスター選手の話です。

1950年代、学者たちは厳しいテストと人体構造の数学的な計算により、「人間は1マイル」(1609メートル)を4分以下で走ることはできない。物理的に不可能」と結論づけました。

しかし、ロジャー・バニスターという走者が現れ、1954年に、ついに1600メートルを3分59秒04で走れることをあっさり証明してしまったのです。


バニスター選手が、想像上の先入観を破ると、せきを切ったように、その翌月、オーストラリアのジョン・ランディ氏は3分57分09を記録し、約3年間で15人のランナーたちが3分台のタイムを残しました。

それ以降、毎年次々と多くのランナーが4分の壁を破り、しかもその度に記録は縮んでいったのです。

バニスター選手の記録は、陸上ランナーの、そして人間の可能性を大きく広げたのでした。

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これはスポーツに限った話ではありません。

東大合格者が1人の高校と10人の高校の間には大きな壁があり、10人を超えると東大合格者は突然増えると聞きます。

なぜかというと、ちゃんと勉強すれば東大に合格できるとみんな気付くからです。


つまり、意識の差、たったこれだけなのです。


今までは無理だと思われていたものでも、一人がその壁を破るとその数字を目指すようになり、気持ちの部分での壁が取り払われる。

持って生まれた才能、適性、興味、気質は一人一人異なりますが、努力と経験を積み重ねることで、だれでもみな大きく伸びていけるのです!

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僕には野球のことはよくわかりません。

でも確かに聞こえました。

"野球の神様"という異名を持つベーブ・ルース以来、実に104年ぶりとなる大谷翔平の二刀流。その才能があまりに突出したものなので、"平成の怪物"・松坂大輔はおろか、今後超えられる選手はもう出てこないかもしれない。仮に出てきたとしても何十年何百年とずっと先……


のはずでした。


僕が聞いたのは命の音

ーー先入観がぶち破られ、新たな可能性に命が吹き込まれる音

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20年後、プロ野球選手は180キロを投げられるようになっている、と言ったらどう思うでしょう?


ありえない
何をバカなことを
不可能だ


野球をやったことのある人なら、おそらく全員がそんなことを思うでしょう。


しかし、それを不可能だと思わなかった挑戦者──大谷翔平──が165キロという壁を、いや目の前に立ち塞がる偏見や先入観という名の壁をぶち破ったのです!

レッテルを貼り、自分で自分の限界を決めることさえしなければ、

使いふるされた言葉ではありますが、

人間の可能性は無限大なのですーー

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今回、「第一印象は役に立たない」という方向性で記事を書かせていただきましたが、

どっちなんだと思われるかもしれませんが、熟練者の場合、一瞬の判断が役に立つケースも多々あります。

白状します。

第一印象は役に立つのかについてを伝えたくて、この記事を書いたわけではありません。もはやどっちでもいいです。

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30年以上生きていると、今までいろんな人を見てきました。

ファーストインプレッションや最初の評価が悪くて、それだけで切られた人をたくさん見てきました。

そんな人たちがいるということを皆さんに知っておいてほしいと思い、今回執筆に至りました。

落第のレッテルを貼られ、ダメの烙印を押されたはずの人たちが数年後、化けるのを何度も見てきたからです。


「最初こいつだめだなぁと思ったやつは、しばらくしてからも結局だめなんだよ」


こんなことをよく聞きます。

それに対して、僕はここで断言します。


そんなわけあるか!!!!!


その人の適性と環境とがマッチしさえすれば誰でもどんな人でも輝くことはできる。

そして、心の持ちようが物事の感じ方を変えるだけでなく、その経験の"客観的な結果"さえも変えてしまえる。

才能は成功のための必要条件ではなく、「信じぬく」ことこそが最も大切なことだったのです。

つまり、優れた教育者の条件はたった一つだけ。

「生徒の成長を信じていること」

これだけです。

生徒は期待されることで、自分に期待し、良い意味で勘違いします。

それが先入観やレッテルをぶち破り、成功を呼ぶのです。

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僕が敬愛するショーン・エイカー教授は言います。

「もちろん、人は単に飛べると信じるだけでは飛べない。しかし、信じることなしに、人間が地上を離れることは決してなかっただろう。科学の歴史が示しているように、もっとできると信じたから、あるいは他の人が信じてくれたからもっとできたのであり、それこそが、人類が多くのことを達成してきた理由にほかならない」



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話を冒頭に書いた就活の面接に戻しましょう。

我々は、百発百中の占い師ではない。目の前の学生の将来なんてわかるわけがない。


だからこそ、人事に最も求められることは、

そして、僕たちが若者にできることは、


「偏見やレッテルに惑わされず、相手を理解し、信じること」


これだけなのかもしれません。


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◆参考文献/参考記事
『第一印象の科学』(アレクサンダー・トドロフ)

『ステレオタイプの科学』(クロード・スティール)

『マインドセット 「やればできるの!」の研究』(キャロル・S・ドゥエック)

『私たちは子どもに何ができるのか』(ポール・タフ)

『トーキング・トゥ・ストレンジャーズ』(マルコム・グラッドウェル)

『第1感』(マルコム・グラッドウェル)

『幸福優位 7つの法則』(ショーン・エイカー)

「160キロが当たり前の時代到来? 投手の球速アップが止まらない理由」



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📖ここからは〝森井書店〟のお時間です📖

✏記事の内容に合った「10年後もあなたの本棚に残る名著」を愛情たっぷり込めて紹介するコーナーです✏(vol.5)

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今回のテーマは「第一印象」

紹介する名著はこちら!

『トーキング・トゥ・ストレンジャーズ 「よく知らない人」について私たちが知っておくべきこと』です!

この分野の第一人者であるアレクサンダー・トドロフの『第一印象の科学』を紹介するか迷ったのですが(かなり良書です)、論文をちょっとだけわかりやすくしたテイストの定価4000円くらいする本なので一般人が読むには少し重たいかもということで、

今回は僕が最も尊敬し、最も影響を受けている海外のノンフィクション作家さんである、マルコム・グラッドウェルの本をご紹介させていただきます。


今これを読んでいる大半の人が「マルコム?誰それ?」となっているかもしれませんので、まずはマルコム・グラッドウェルがどのくらいすごい人なのかを語らさせてください。


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グラッドウェルは2000年に『急に売れ始めるにはワケがある ネットワーク理論が明らかにする口コミの法則』でデビューして以来、全5作、出版しているのですが、

これら全てがアメリカ国内でミリオンセラーとなっています。

なんだったらダブルミリオンとか余裕でいっちゃってます。

さて、この「ミリオンセラー」(100万部)がどれくらいすごいかと言いますと……


ここで問題です。

日本では年に約8万冊、本が出版されるのですが、

100万部を超える本というのはだいたい年に何冊出るものでしょうか?


答えは

だいたい1冊だけ

です。


1/80000です。


そんなミリオンセラーを5冊連続でやってのけたのがこのマルコム・グラッドウェルなのです。

もちろん日本とアメリカとでは人口が違うので、日本でミリオンセラーを出す方が圧倒的に難しいですが、それでもすごいです。超すごいです。


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ところで、大学生の頃、友達から「好きな作家って誰?」と聞かれたことがありました。

「うーん、たぶん知らんと思うけど……」と言うと、

「ええからええから、私も本ちょいちょい読むし、もしかしたら知ってるかもやん」

「あー、まぁそうか。俺が今一番はまってる作家さんはマルコム・グラッドウェル!」と言うと、


「誰やねん!!!!!」


と間髪入れずに言われたことがあるのですが、

それからちょうど1週間後。

ボストンに住んでいる友達が帰国し、久しぶりに会うと、偶然にもまったく同じ質問をされました。


「(どうせ)知らないと思うけど……マルコム・グラッドウェルかなー」

と僕が答えると、

「あー!はいはい、グラッドウェルね!」

と言われました。


なんとそのボストンの大学に通っている友達は知っていたのです!


えええ、なんで知ってるん!?


「いやいや、ハリーポッターくらい有名だから」


と言われて衝撃を受けたのを未だによく覚えています。

世界一有名な小説と同じくらい知られているかはさておき、それぐらいアメリカでは有名らしく、"ノンフィクション版・村上春樹"なんて言われているそうです。

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(「彼の著作は必ず世界的ベストセラーとなる」ってプロフィールに書かれるのめちゃくちゃすごくないですか?)



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もともと僕がグラッドウェルを知ったのは24歳の頃で、初めて僕についた担当編集者さんに

「森井さん、マルコム・グラッドウェルとか(目指したら)いいんじゃないですか」

と言われたときでした。


日本でも業界内で話題となっていた『天才!成功する人々の法則』を読んでみると、なんて面白いんだと思わず唸りました。

当時、最新作だった『逆転!強敵や逆境に勝てる秘密』もすぐに読み、大ファンになりました。


すごく何気ない一言だったので、編集者の方は覚えていないと思いますが、


「こんなすごい書き手がいるのか……」
「これだ」
「俺はここを目指してやっていけばいいのか!」


と、これからライター・作家として、どこを目指してやっていけばいいのかわからなかった僕の人生を導いてくれた一言となりました。

まだ出会ったばかりの頃だったのですが、さすが売れっ子編集者さん。大して何も書けなかった頃にも関わらず、僕の物書きとしての適性や関心をすぐに見抜いたのだと思います。

これは7年も前の話なのですが、31歳になった今もマルコム・グラッドウェルの背中を追いかけ続けています。


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さて、話を戻しますが、グラッドウェルは非常に寡作な作家で、超売れっ子にも関わらず、デビュー以来、22年間でたった5冊しか書いていません。

しかし、それは緻密で綿密なリサーチをしているから。1冊書くのに200~300人に取材するそう。とんでもない数です。それだけ内容が濃いものとなっております。

グラッドウェルが優れているのは、膨大な調査をした上でフレームワークを作り、俯瞰している点です。世の中をより良く見るための眼鏡をくれるのです。


そして、彼の書く文章の一番の魅力は、やはり、社会科学の知見と読み応えのあるストーリーを組み合わせた独特の文体です。

最初に大きな謎を提示し、魅力的なエピソードとエビデンスを織り交ぜながら少しずつ謎が解けていくというサスペンス映画やミステリー小説を読んでるが如くのハラハラドキドキ感、ぞくぞくとする好奇心、そして、謎が解けたときのカタルシス。

グラッドウェルはまず興味が惹かれる話をして、なぜそれが起きたのかを解説していきます。中盤からどんどん伏線を回収していき、その過程が一緒に謎解きをしているようで、最後に理解できたとき感動があるんです。

これがグラッドウェル本の最大の魅力です。

(これだけ読んでも何を言っているのかわからないと思うのでとにかく読んでみて!!!ほしいです!!!!)


しかも、社会科学の学術研究という一見難しそうな内容にも関わらず、平易な文体による文章の巧みさと秀逸なストーリーテリングで、思わず声に出して読みたくなるような箇所がいくつもあるのです。

日本にはあまりグラッドウェルと近い文体の方はいませんが、

(科学的な専門知識だけでなく、ストーリーテラーとしての類い稀なる能力も必要なので、側だけ真似してうまくいっていないことがよくありますが)翻訳書を読んでいると「あぁ、この人グラッドウェルに影響受けているな」と思うことが多々あります。


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ネタばらしをすると、これは今回、僕がこの第一印象の記事で心掛けていたことでもあります。

読んでいて、この先どうなるんだろう?とちょっとハラハラドキドキしませんでしたかね?

マルコム・グラッドウェル本を意識して、ハラハラしたり謎が少しずつ解けていくワクワク感を意識して書いたつもりなので、企みがうまくいっていればとても嬉しいです。
(学術研究と日常の経験に橋を架けられていましたかね?)


いずれは社会科学系から自然科学系まで様々な分野を縦横無尽に駆け回りたい、というのが18歳の頃からの僕の目標なのですが、

このお手本のような作家さんがこのマルコム・グラッドウェルなのです!!!!


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もし読むなら、5冊すべてテーマが違うので一番興味ありそうな本を買うのをオススメします。

発売順↓↓

『急に売れ始めるにはワケがある ネットワーク理論が明らかにする口コミの法則』

『第1感 「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい』

『天才! 成功する人々の法則』

『逆転! 強敵や逆境に勝てる秘密』

『トーキング・トゥ・ストレンジャーズ 「よく知らない人」について私たちが知っておくべきこと』


5冊目の最新作は一番読みやすいですが、ある意味少し癖があるので、1冊目はこれ以外が良いような気がします。グラッドウェルの集大成みたいな本なんですけどね!

僕は『天才! 成功する人々の法則』でどはまりし、『逆転!強敵や逆境に勝てる秘密』で大ファンになりました。


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……はい、そろそろお時間がきてしまいました。

結局、マルコム・グラッドウェルの話しかできませんでしたが、今日はこのへんで"森井書店"お開きとさせていただきます。

それではまた次回、一緒に人間理解を深めていきましょう。

無知から未知へ、いってらっしゃいませ!

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<本文で書ききれなかったこと>

※少し補足しておきます。「個別のエピソードからさも再現性があるような結論を導きだしているけど、それってほんとに再現性あるの?」と思われた方もいらっしゃるかもしれませんが、エピソード自体は独自のものであり、実験として杜撰なものかもしれませんが、結論部分はすべて第一印象研究におけて現時点で科学的に根拠があるとされているものを採用しています

※アメリカの心理学者ロバート・ローゼンタールが、教師からの期待があるかないかによって生徒の学習成績が上がったり下がったりするという実験結果を報告したのが始まりの「ピグマリオン効果」

これは他者からの期待を受けることで学習や作業などの成果を出すことができるようになる効果のこと。

つまり、人の才能は、教師にかかっているということです。

自分たちの成功を信じてくれる大人、思いやりと敬意をこめて関心を向けてくれる大人から正しいメッセージを受けとれば、彼らはむずかしい作業にも粘り強く取り組み、挑戦に伴う挫折や逆境からすばやく立ち直れるようになるのです。

自分を信じるだけではなく、周囲が信じてあげることが何よりも重要で、誰かの潜在的可能性を信じれば、その可能性は命を吹き込まれるのです

※本文に睡眠不足の状態で面接へ行ったと書きましたが、後に第一印象についての文献を読んで知りましたが、睡眠不足の人々は、睡眠が足りているときより、健康、魅力、知能が劣っているように受け取られるそうです

※犯罪者の顔つきにおいてもステレオタイプが存在します。信頼度が低いと受け取られた不運な人々は、誤って死刑判決を下される傾向にあります。その有害な影響は、現代の司法制度から未だになくなってはいません。

中世の時代には、2人の人間が犯人と疑われた場合、醜い方が罰を受けるという法律が存在しました。今日では、意識的であるかないかにかかわらず、裁判官が見かけに影響を受けているという点において、さほど変わっていません

※第一印象研究の第一人者、アレクサンダー・トドロフは言います。「他者を評価することはとても難しい作業だ。情報があまりなかったり、エビデンスがあいまいだったりすると、ステレオタイプと見かけからの推論は、判断をよいほうにも悪い方にもぐらつかせる」

「例えば、ある人物が凶暴な犯罪者かどうかを判断する場合、その人物の支配的な顔つきは不利に働く。だが、もしその人物が優れた将校になるかどうかを判断するのであれば、その顔つきは有利に働くだろう。人が抱く印象は、常に状況に適合したものになる」

「パーティーで話しかけるならこの人、バスケならあっちの人、と求められる印象は環境によって変わる。そしてその印象というのは顔(表情)を変えることで、変えることができるのである」

※本文の流れ上、使いどころがなく泣く泣くカットした好きなエピソード↓↓
「ステレオタイプ脅威」を広めることとなった『ステレオタイプの科学』(クロード・スティール)には、"サウスウエスト航空ファーストクラス"の話が出てきます。

ここでは座席指定はできず、先着順で座席を選ぶ仕組みになっていて、当然ファーストクラスなんてないのですが、なぜそんな呼び名かというと、

「黒人客の隣の席は、十中八九空いているから」

とのこと。たとえそれが最前列でもお好きな席どうぞと言わんばかりに、その列には誰も座っていないのだとか。

確かにデカイ黒人は怖い。申し訳ないけどそれだけで怖い。日本にいても少し怖い。偏見なんですけどね。黒人に何かされたことなんて一度もないのに。

本書には、そんな黒人男性は「暴力沙汰を起こしやすい」というネガティブなステレオタイプと格闘したステープルズさんという黒人の方の話が出てきます。

ステープルズさんはなんと「口笛でヴィヴァルディを吹く」ことで、「暴力沙汰を起こしがちな黒人男性」というステレオタイプが自分には当てはまらないこと、そして白人文化、とりわけ「高尚な白人文化」を知っていることを示したのです。

そうすることで、色眼鏡を外してもらえるようになり、人間らしく接してもらえるようになったそうです。
(このエピソード好きです)


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「第一印象」と「信じること」は僕にとってとても思い入れの強いテーマで、紹介したい面白い事例・エピソードから自分で行った実験まで、あと数万字は余裕で書けたのですが、そんなに書いたら読んでもらえなくなるので泣く泣く削りました。補足で書いたのも一部の一部です。

それでも、ここまで読んでいただけて、僕はとてもとても嬉しいです。

さいごに、

何かを始めるのに遅いなんてことはありません。遅いと思ったときが一番早いスタートです。さぁ、今から始めましょう。人間の可能性はいくつになっても無限大なのですから。

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大学生の頃、初めて便箋7枚ものブログのファンレターをもらった時のことを今でもよく覚えています。自分の文章が誰かの世界を救ったのかととても嬉しかった。その原体験で今もやらせてもらっています。 "優しくて易しい社会科学"を目指して、感動しながら学べるものを作っていきたいです。