この頑張りを見ているのは自分だけ

ちはやふる全プロット消失

先日、しなくていいのに決行された模様替えがひと段落し、やっとネームを書こうと思ってiPadを開いた。私はクリスタの画面を開きながら、メモも二画面で表示して、書いたプロットを見ながらネームを書き進めていく。

プロットは、各キャラクターの思っていること、これから行うこと、過去からつながる因縁や伏線を緻密に書き残していて、それはもう膨大な文字数になっていた。この先非展開されるエピソードも書いていて、見えている流れは全て文字に起こしている状態。
でも1話1話のストーリーラインはその時に考え進めている。その時も231首の大まかな流れがやっと決まり、「よしこれでなんとかネームに取り掛かれる」と思っていたところだった。

iPadをふと見ると、プロットが消えている。

メモの白い画面が、文字が並んでいるはずの画面が、空っぽになっている。

そんなはずはない、とその画面を閉じて「ちはやふるプロット」で検索するも、望んでいるページが見つからない。

「最近削除したもの」の項目の中にも見当たらない。

え?よくわからないうちに、メモの中身を、全選択→消去した?

どんなアクションでそうなったのかわからないけど、プロットが消去されていることだけは確かだ。

パソコンにもiPhoneにも同じメモが残ってるはず、もしかしたらまだアップロードされてなくて残っているかもしれない。すぐさまiPhoneのメモを見る。律儀に最新の消去されたメモか出てくる。マジか。
パソコンの方は?!メモを開く。「ちはやふるプロット」の文字と、中身に文章が残ってるのが見える。やった!生きてた!そのメモが私が見ている前でパッと消えた。マジか。

(後から考えれば、そんな状況になった時はwifiを切るべきだった。連携したiOSは全て最新の作業状況にしようとしてくれる。してくれすぎる)

私は真っ青になり、検索を始める。「iOS メモ 消去 復旧方法」

→「シェイクすれば、1動作だけ戻れるよ」

知ってますけど〜〜〜〜〜〜もうここまでで〜〜〜15動作くらいしてますし〜〜〜。

バックアップもここ半年ちゃんと取ってなくて、きちんとデータを残してる場所がどこかにあるかもしれないけどわからない。

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おかざき真里先生が書いてくれた応援イラスト(宝)

検索の結果、消去したメモ、画像を復旧してくれるかもしれないアプリの情報をゲットし、それにすがることにして、メモの復旧&分析を開始する。

ここから長い堂々巡りが始まる。

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分析は56%で止まったり76%で止まったりしながら、一向に100%にはならず、6時間かけても終わらず、つまりネームも進まず、焦りと不安と疲れで倒れ込むように寝ることになる。

正確には、子供四人の食事や宿題や寝かしつけがあるので倒れ込むことはできないが、頭の中はもう、たくさん書き込んだたくさんの物語の粒が、絶対忘れるから書き込んだのだ!という細かい宝石が、どんどん思い出されていた。

もしプロットが本当に失われたら、どうしたらいんだろう?いやもうここで走馬灯のように思い出してる場合じゃなくて、一刻も早く覚えている分をタイプするべきなんじゃないのか?と思って真っ青になりながら子供たちをお風呂に入れていた。「スライム作りたい」え?今なの?それ今やるの?「お餅食べたい」え?もう寝るのに?今なの?本気なの?

そこに神が帰って来た

ネームができてない焦りと、プロットが全消去の衝撃と、子供たちの世話で、半ばもう投げやりになりながらお布団に入った頃、夫が帰宅してきた。

Twitterで嘆いているのを知っていたから、夫はなにも言わず「君のスマホを貸して。アップルのID入れてセキュリティ解除して」と言い出した。

スマホの奥の方の、私にはたどり着けないフォルダにするすると到達した夫が、まじまじと確認を始める。

「ある。バックアップがある。10月10日のが残ってる。これをどうしようかな・・・・。この間買ったiPadを空っぽにしよう。そこにこのバックアップを戻そう」

そう言ってテキパキと作業をし始めた。

時々「ここにパスワード入れて」と言われるときだけ呼ばれ、「読み込みに21時間かかるって出た」と言われてますます朦朧とし、お布団で寝ていたら、1時間後に「読み込み終わったよ、メモ残ってるか、見て」とiPadを差し出された。(21時間とか出るの、いつも大ウソだよね)まず全部のデータ通信を切ってから開く。

「ちはやふるプロット」・・・・。

ある!ある!中身がちゃんとある!10月10日のデータだから231話のプロットはないけど、それ以外は全部あるーーーーーーー!

やったーーーーーーーーーーー!

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おかざき真里先生が書いてくれた安堵イラスト(宝)

ホッと胸を撫で下ろす夫。泣くわたし。

そのプロットに「ちはやふるプロット2」と名前をつけ直して保存し、その上メールに全文をコピペして飛ばし、ラインのノート機能の部分にもコピペして、「君のメモデータがまた死んでも、僕のラインに残ってるから大丈夫」と言ってくれた。

私はやっと寝ることができた。

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気づいているか。表現しているか。

どこでもそうだ。どんな家庭でもどんな仕事場でもそうだろう。努力してる人がいる、支えてくれてる人がいる。

気づくかどうかなのだろう。

「この人の、この献身を、この頑張りを見ているのは私だけだ」ということを。

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タオルケットに包んで運ぶ、という遊びが発見されたら四人分これを繰り返し、

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タケコプターをつけて飛ぶ、という遊びが発見されたら四人分これを繰り返す。

誰にも評価されない、この頑張りを見ているのは私だけだ。

プールに行けば子供たちが死なないように目を光らせ、道路を歩けば車がこないように目を光らせ、食器が落ちて割れたら誰にも触らせないように片付け、私が忘れ物をしたとTwitterで呟けば探し出して持ってきてくれる、当たり前のようにやっていることのレベルの高さ、その緊張感を、他の誰も知ることはない。

だから私は手厚く手厚く手厚く、この努力を称えるのだ。

いやもうマジほんとありがとう。遠くの地平に旅をすることができるのは君のおかげ。いつもいつも、助けてくれてありがとう。

・・・・・・

個人的なことを書いたけれど、小さな子供の頑張りや、働く人の誰も見てないところの気配りや、当たり前に受け取っているサービスや笑顔を、称えられるのは実は自分だけかもしれない。
そう思って生きると、ものすごく目が見開かれる気がする。見開かれた目は、脳も開いてくれる。人の頑張りに敏感であろうとする気持ちは、心と体の風通しを良くしてくれる。

「この努力を称えられるのは自分だけ」

気づいた瞬間から、吸う息がおいしくなる。多くをもらったからこそ発動する、贈り物の循環の話。

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