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それは銃なのか、メガネなのか。生理から始まる描き方のはなし。

漫画を描くときはいつも、チェーホフの銃という考え方にとらわれます。

https://ja.wikipedia.org/wiki/チェーホフの銃

「銃」が場面に出てきたならば、物語の中で必ず使われないといけない、という考え方です。使わないのなら置かない。「ストーリーには無用の要素を盛り込んではいけない」という概念。

もちろんそれはストレスのない読書体験のために大事な考え方なのですが、最近それはそれで大まちがいだったと感じています。

8月の終わりにその事について書いてみたいと思います。

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きっかけはこの記事でした。

https://note.com/yuyu2000_0908/n/n6f584cbe8049

そうです。女性である自分でさえも、「本筋に関係ない」と排除していたんです。「試合に影響しない」と切り捨てていたんです。生理痛のない、生理もまるでないかのような女性キャラばかりを描いていたんです。スムーズに進む物語のために。

シンクロフィットとのコラボの反響として「千早に生理があるなんて考えたくない」というご意見もあったのですが、そういうふうに描いてしまったのは私だな、と思いつつ「いや、女性だったら大概あるし」と思ってる矛盾する自分がいました。(生理がない女性もいるということも思いつつ、ひとくくりにしてしまって申し訳ないです)

生理痛がひどくて出番3回に1回くらい「う…生理痛で辛い…」と言ってるキャラクターがいてもよかったのに、そう描かなかったのは自分です。
「生理痛で辛い」というキャラクターを描いたらそれを主軸に1話描かなきゃいけないのではないか。物語にちゃんと絡めないのならその特性は描いちゃいけないのではないか、という判断をしていました。

でもこれほんとにそう?????

こういう話をしていた時、ひうらさとる先生が「ああわかる。私もモブの中に車椅子の人とか描かないで来た。車椅子の人が街にいてもあたりまえなのに、なんとなく描かなかったの。それに気がついた」と発言されました。

私たちが思っている普通はあまりに幅が狭く、その幅を狭いままにしていることに自覚のないまま加担していたと。

生理のある女性も、車椅子の人も、目が見えない人も、耳が聞こえない人も、病気の人も、義足の人も、その存在が「銃」であると勝手に思っていたんです。物語に登場したら、無視できない特別なテーマとして見えてしまうと。

「銃」じゃなくて、「メガネ」くらいの存在になるといいな、と思いました。今更メガネかけてるキャラクターに対し「今回の大きなテーマはこのメガネを巡るグループ内の意見の対立だな」とは思いません。そのくらいの身近さで「生理」があったらいい。

女性の生理についての意見で、「人にそんな心配かけて配慮してもらいたいわけじゃない。でも、だれでもいろんな不調を抱えることがあるってことを、わかっていてほしい」というのがありました。

この思いは「生理」に限りません。

でも【困った状況になった人を近くにいる人が助ける】ということが、「心の準備ができてない・忘れている・見えないでいる」とできません。

その「わかっていてほしい」を見えるように置いておく。漫画においては「ありようを描いた上で特別視しない」こと。「チェーホフの銃」が染み付いた思考回路に、「それは銃じゃない」という指令も出していかなければ変わりません。

一生懸命想像してるつもりでも、思い込んでしまうことが違う差別を生む世界です。ふわふわしてありようがよく動く断絶。人類が根絶できたためしのない見えない敵に今も毎日囲まれています。

でも・・・
「生理」を始め排除されがちな、無視されがちな特性や状況も、まず「ある」って、そして「それは銃じゃない」って、まず自分自身の価値観を揺らすことから始めたいと思います。


P.s. ソフィさんのシンクロフィットとのコラボレーションが皆さんのおかげで好評で、ソフィチームの皆さんと対談をさせてもらいました。このnoteで書いたようないつも考えていることを下敷きに、生理について、この社会で生きる事について、難しさや男女とも疲弊していく現実について、どうしたらいいか。次の世代にどう伝えていくかなど、対談してきました。その記事も楽しみにしてもらえたらうれしいです。


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