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アニメを見る目が入れ替わる『ハケンアニメ!』

深く詳細なレビューは他の方がやってくださっているので、まずその筆頭のCDBさんの文春オンラインの記事を貼らせていただきます。

見るのが遅い。どう考えても3週間遅い。よく行く映画館の上映がもう1日一回になってしまっている。観終わる前から焦っていたけど、観終わった後なおその焦りは強くなる…もっと沢山の人に見てもらいたい映画のとき、自分の出足の悪さを呪うのですが、この「ハケンアニメ!」もまさにそれでした。

私が注目したいのはダブルバディものとしての完成度の高さ。

■新人監督・斎藤瞳(吉岡里帆)とプロデューサー・行城理(柄本佑)

■カリスマ監督・王子千春(中村倫也)とプロデューサー・有科香屋子(尾野真千子)

の男女ペアの対比がとても効いています。
女性監督がロボットアニメの「サウンドバック」を、男性監督が魔法少女ものの「運命戦線リデルライト」を製作するというのも意識的に配置されているのでしょう。性差を超えたところに「好き」はあるというのが当然の世界として、指摘されもしません。

四者とも全く違う個性なのに、全く違う方向からアニメを愛していて、お互いを信頼しているのです。足の引っ張り合いや陰謀ではなく(そんな発想すら微塵も出てこない)アニメの完成度のみで戦う!という、100%ガチンコの表現の現場の戦い。

なのにその二つの現場がとてもとても近い〜〜〜〜〜。

作画スタジオがおんなじだったりするんです。なので同時刻に放映のライバルアニメを隣の部屋同士で視聴したりするスタジオの皆さん。

明らかにこれは、「敵なんだけど敵じゃない」「最大のライバルが最大の味方」の構造。最良のスポーツの試合を見ているような苦しさと清々しさがあるのです。でもそれが期間が長い。
例えるならサッカーワールドカップの予選グループが2年続いた後に、決勝戦だけで3ヶ月やるみたいな。

き、きつい〜〜〜〜〜!


でもそれをやっているのがアニメーターなんです。そこんとこ私たちはもうちょっとわからんといかん。

我が家には「アニメ大好きなんです。オタクなんです」という男子大学生の下宿生がいるんですが、その彼と以前ヴァイオレットエヴァーガーデンを見ながら話してる時に
「作画がものすごいね。アニメって地上波だと1秒に8枚も絵がいるんだけど、ヴァオレットは24枚くらいの劇場版のクオリティなんだね」
と言ったら
「え?アニメって、そんなにたくさん絵がいるんですか?そんなに大変なんですか?」とキョトンとされたんです。

え、知らないの?パラパラ漫画の要領で沢山の絵をつないで作られてるの知らないの?なんなら知らないのが普通?

アニメを見ている時の1秒、あのキャラが振り向いて走り出す時の髪の動き、体の動きのその1秒に、どれだけのアニメーターの血と汗と涙と苦悩がつぎ込まれているのか、私たちは知っていてもふと忘れるし、なんなら知らずに見ているし。

いや!見ろ!ハケンアニメを見ろ!見てくれ!そしたらもう、これまでスマホいじってながら見していたアニメ全てに土下座したくなるから!

ごめんなさい〜〜〜〜〜〜〜〜〜

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相変わらず劇場での写真が下手

作品の中でこれまたグッときたのが、サウンドバック側の主演声優・群野葵(高野麻里香)さんとのやりとり。

アイドル声優として抜擢されるも監督・斎藤瞳のイメージと合わず葛藤する役です。客寄せとして起用されたことを自覚しつつ、それでも役に寄り添おう、監督のイメージに近づこうと真摯に向き合う魅力的なキャラクターを演じてて、ここでも作品愛しかない現場なんですが、その監督と話す時の高野麻里香さんの声がもう。声がもう。声がもう。

武器は声だ!というのが聞いてるだけで伝わるんです。

どんなに可愛くてもイケメンでも、そんなことは二の次で、声優さんのロンギヌスの槍は声なんだ!というのが、監督(声で言ったら普通よりもかわいいのに)と話している声優、という場面で目を見張るほどに伝わる。声が刺してくる。そこに磨かれたダイヤがある。
真野麻里香さんのその声に惹きつけられて、アニメの肝は声の演技であり、作画と声との二本柱なんだというのをありありと感じました。中盤の展開でもそのパワーの大事さが示されていました。

作画スタジオで神作画として名を響かせる並澤和奈(小野花梨)の存在もとてもよかった・・・・。アニメを愛するがゆえに手を抜けないし心も抜けない、絵を描くときにキャラクターの心情から監督に説明してもらう真摯さと、実生活の不器用さ・・・。
アニメ表現の土台を支える見えない神がたくさんいることを、私たちに教えてくれます。

映画のカメラワークとして印象的だったのは、真上からのアングルの多さです。東京の街を映す時も、アニメの作画チームの作業を移す時も、何台もある机の上からのアングルが多かった。「みんなで作ってる」「みんなに届けてる」のが良くわかる。
というか浴びせてる。愛と狂気を。

そして監督のチームビルディングの推移。成長していく新人監督に「いっぱい寝かせてあげたい」といつも思いつつも、燃え尽きるまで粘れ!と思う。成長にグッとくる。

天才かと思いきや、苦悩するオタクである王子千春(中村倫也)がまた本当に魅力的で、ライバル監督・斎藤瞳へのリスペクトも厚い。1から10までアニメを愛する同志の話なのです。
歯を食いしばって机にしがみつき、「描くことの壁は、描くことでしか超えられない」と鉛筆を握る彼が「気分転換なんて死んでもできない」と吐き捨てるように言います。
その気持ちがとてもよくわかる。

同じ地平にいない人は「少し休んで気分転換したほうが」と簡単に言うのです。でもそんなのなんの足しにもならない、気分転換していいことなんてなんにもない。この戦いから降りる日まで気分転換できる日なんて来ないことを、王子千春は前のアニメが終わってから七年間ずっと抱えてきたのでしょう。7年の間もきっと心はプレッシャーの中で、休んでいなかった。だってアニメーターだから。

「ハケンアニメ!」を金曜日に見てから、日曜日に「ドラゴンボール超」を見に行ったんですが・・・・・

もう、私のアニメへの解像度がぜんぜん違っているのを感じました。ドラゴンボールの戦闘シーンなんて「わあ、たいへんことが起こってるな〜」くらいでホワッと見ていたのが、

ものすごい位置変化、カメラ変化、動きの緩急と強弱すげえ!!これを人間が作るのか!国民的ドル箱スターのキャラクターを動かすプレッシャーとやりがいはどれほどだろうか!パンちゃんの走り方は伝説のあれ!可愛さ担当の人わかってる〜〜〜!爆発のシーンの色味の出方のバリエーションすごい〜〜〜〜〜!Dr.ヘドの細かい動きにもこれ決めた人がいるんですよね〜〜〜狂ってる〜〜〜愛だ〜〜〜〜!入野自由さんじゃんか!!!ピッコロが幼稚園のお迎え行くとか決めた人〜〜〜握手したい〜〜〜〜!人造人間2号宮野真守さんだあああああああああ!エンドロールの協力スタジオの多さとんでもない規模〜〜〜〜〜!何人か生贄にしないとこの映画は作れないよオオオオオオォォドラゴンボールサイコーーーーーー!!!!!」

うるさい。感想がうるさい。

アニメを愛する皆さん、アニメの良さがよくわからないみなさんも、是非一度劇場で「ハケンアニメ!」をご覧になってみてください。そしてそのあとドラゴンボールを見てみてください。(ドラゴンボールは特に、今回のは子供の頃ドラゴンボール見てた世代だったら絶対楽しいです。)
あらゆるアニメの前に「ハケンアニメ!」を。力いっぱいお勧めです。まだ公開中の劇場たくさんあるので、ぜひ。


定額メンバーさんに向けては、「ハケンアニメ!」で一番グッときたセリフの話と、最近見た他の映画のお話も。今月はたくさん映画館に行けて幸せでした。

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