三原もなか

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最近の記事

【SS 歩道橋の願い】

あるところに、古い歩道橋がありました。ペンキがはげて、錆びが浮かんで、みすぼらしい姿でありました。すぐ下に横断歩道があるので、歩道橋を渡るひとは、誰もいません。 「さあみんな、手を上げて横断歩道を渡りましょうね!」 「はぁーい!」 「横断歩道さん、いつもありがとう!」 「ありがとう!」 お揃いの帽子をかぶった保育園の子供たちが去っていきました。 「誰もわたしを使ってくれないなあ。寂しいなあ」 下校時間になって小学生がやってきました。 「渡っちゃおうぜ」 「信号なんか

    • 【SS 助けてください】

       ピンポーン。 「はいはい」 「お荷物のお届けでーす」 「いつもご苦労さま、ありがとう」  箱を受け取ってドアを閉めようとしたら、配達員がガッ、と靴を挟んできた。 「な、何をする! 強盗か?」 「違います違います、助けてください」  なんだなんだ。 「亡命希望です」  亡命? 日本人に見えるけれど、外国の人か。それにしても亡命なら警察や大使館に駆け込まないか。ここは個人のアパートだぞ。 「お願いです、入れてください」  何年も馴染みの配達員のお兄さんだし、ここはとりあえず人道

      • 【SS】カサカサ

        「おとーたん」  機嫌よく遊んでいた息子が、首をかしげてやってきた。 「おお、どうした」 「おとーたん、お耳の中がカサカサいうの」 「え、カサカサ。どっちのお耳だい?」 「こっち」 「右のお耳か。どれ、おとーたんがみてあげよう」 「んん」 「なんにもないよ」 「おとーたん、こっちのお耳がカサカサになったの」 「おや、今度は左かい? どれどれ、いや、こちらも何もないねえ」  息子は、ちょっと私を押しのけるような仕草をした。 「どうしたの」 「おとーたん、頭の中でカサカサ音がする

        • いま沖縄で音楽を学ぶ若者たち

          【日々の記録】 たくさんの方に知っていただきたいことがあります。おそらくほかの地域でも同じことが起きているとは思いますが。 感染拡大の沖縄。県立沖縄芸術大学音楽科の学生も、ほぼオンラインで授業を受けています。が、通信環境はとてもつらい。公立大学ですからそんなに裕福な家庭は多くない。県外から単身移住している学生もたくさんいて、彼らのほとんどはポケットWi-Fiなどをつかっています。プアな通信環境です。 課題発表もオンライン。ピアノの個人対面授業は3回に1回だけ。間を2週間

        【SS 歩道橋の願い】

          『シン・ゴジラ』に剣道部の先輩が出ていた

          【雑記】 『シン・ゴジラ』を観にいったら、高校剣道部の先輩が出演していた。序盤でそこそこセリフもある役だった。おおー、懐かしい。 偏差値の低い都立にやっとひっかかり、さて部活、どうすっかな、体育に良い思い出はひとつもなく、運動部は論外、と敵視していたわたしは、鉄下駄でガラゴロガラゴロと歩く竹刀を担いだ剣道着姿の男を見た。二年生、剣道部の部長であった。その無骨な雰囲気、時代錯誤感に惹かれ、入部を決めた15歳の春。間違った、間違いだ、と後悔しつつ最初の稽古に参加。 運動部な

          『シン・ゴジラ』に剣道部の先輩が出ていた

          不便は名探偵の母【雑記】

          数十年ぶりに英国ドラマにどっぷりつかっている。 自粛期間にAmazon prime videoでひたすら視聴。英国のクライムドラマ、やっぱり好きだ! なぜ? と、視聴をしばらく止めて考えてみたら答えが出た。もしよかったら、この5作をためしていただけないかしら。 『ニュー・トリックス』 『ライフ・オン・マーズ』 『アッシュズ・トゥ・アッシュズ』 『ミステリーinパラダイス』 『ブラウン神父』 登場人物たちのかもしだすウイットやユーモア、皮肉、ファッション、宗教や土地柄など

          不便は名探偵の母【雑記】

          抜本的対策

          【ショートショート】 こんばんは。7時のNHKニュースです。 新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めをかける骨太な対策の第146弾が発表されました。 内閣は、これまで、すべての対策が後手にまわったり穴があったり根拠がなかったり嘘だったりしたことを重くみて、飛沫感染の原因を抜本的に見直し、スピード感を持って、しっかりと実行可能な対策を専門家とともに練りあげたということです。 この案は「パ行自粛のお願い」と題し、会話において特に飛沫の多くなる「パ行」の音を、できるだけ発音し

          抜本的対策

          「あらすじ師の告白」

          【ショートショート】 よしながふみが『きのう何食べた』の夜の生活版『ケンジとシロさん』をコミケに出してすげえ売れたんだけど、買えなかった人が多くて、あらすじでいいから知りたい、とTwitterに懇願する声が流れた。  幸運にも入手できた俺は、無職だし暇もあるし、微に入り細にわたり、しかし決してネタバレにはせず、具体的に文章に綴ってDMした。  ウケたなんてもんじゃないね。号泣しながら感謝される、なんてのは承認欲求満たされて満足だったんだけど、どこから知ったのか、俺を専属

          「あらすじ師の告白」

          スペース路線バス乗り継ぎの旅 THE MOVIE in ケプラー22b

          せーの、 「スペース路線バス乗り継ぎの旅 THE MOVIE!」 「映画になっちゃった!」 「1800円出してくるひといんのかな」 ケプラー22b、スペース路線バスセントラルステーションの前。太川陽介は目をまんまるくして、蛭子能収はいつものいい加減な感じで、いきなり映画は始まった。 「1800円?」 「最初に映画になったときはたしかそうだったんじゃないかな」 「あー。そうだ、映画って昔は映画館っていうところにわざわざいって観てたんだよね」 「そうだよー、太川さ

          スペース路線バス乗り継ぎの旅 THE MOVIE in ケプラー22b