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#196 福井の路線バス減便、ライドシェア実証実験の懸念

いかがお過ごしでしょうか。林でございます。

昨日、スタエフでも配信した話を文章でもまとめておきます。

金曜から実家のある福井県に家族4人で帰ってきています。
実家に帰ってきて面白いのは、ローカルの新聞が読めることです。

東京で生活していると、なかなか地方紙を読む機会がありませんから、地域でメディアが何を報道し、そこに住む人がどのような情報に触れながら生活しているのかを知ることができます。

東京でも最近は新聞を読まなくなりましたし、ましてや紙の新聞なんて10年以上読んでいないので、実家にある紙の新聞紙は「実家にしかないもの」になっています。
3歳の息子も新聞紙を見て「これなに?」と言っていました。

さて、今日トピックにしたいのは、福井新聞が先日取り上げていた2つの記事です。1つは、福井県福井市に本社を構えて路線バスを提供する京福バスが10月に大幅減便を検討しているという話、もう1つは「日本版ライドシェア」の実証実験を福井県でも早ければ7月から開始予定という記事でした。

地域交通のテーマで個人的に関心を持っているのは、ライドシェアのような仕組みを有効活用してまちの利便性を上げる地域と、うまく仕組みを活用できない地域が分かれるか否か、ということ。
同じように交通の課題を持っている地域が多いと考えられる中で、その差を埋めるものは何なのか?という点です。(今は地域交通を担う民間事業者の手腕により、今後地域差がより開いていくのでは?という仮説を持っています)

このあたりのテーマについて、今後も定点観測していきたいので、今日はこれらの記事を見て、率直に感じたことを記してみたいと思います。

地域交通に関するテーマは、以前にも取り上げたことがありますので、こちらもぜひご覧ください!

京福バスの大幅減便

京福バスは、福井県北部の嶺北エリア7市町で約60路線でバス運行を提供している事業者です。10月に大幅な減便を検討しているということですが、理由は「運転士不足に対応するため」と公表しています。

いよいよ供給制約がここにも表れてきたか、と感じです。2024年4月1日時点で同社の運転士の数は約150名ですが、これは適正人員に対して約40人不足しているとのこと。減便の方向性としては、1時間に複数便提供している路線の数の減少、広域路線の減少、夜間帯の最終便ダイヤ繰り上げを行うということでした。

この記事を見て率直に感じたのは、「この感じでは運転士不足は今後も止まらないだろうし、今後さらに減便の方向性に向かうだろう」ということです。事業者には厳しいかもしれませんが、このスタンスでは今後更なる事業縮小は避けられないだろうなと感じました。

なぜなら、この記事の報じ方によるところもあると思いますが、「運転士不足」に対する根本的な対策が全く論じられていません。
気になったので別の記事もいくつか読んでみたところ、運転士不足の理由は、やはり収入面といった処遇がよくないことと、労働時間が長いことが大きいようです。

バス運転手の年間労働時間(厚生労働省「賃金構造基本統計調査」)
https://driver-roudou-jikan.mhlw.go.jp/bus/work
バス運転手の年間収入額の推移(出典:同上)

厚労省の2021年「賃金構造基本統計調査」のデータを見ると、バス運転士は年間平均収入404万円・労働時間2232時間となっています。

全産業平均489万円・2112時間であるため、バス運転士は平均より年間120時間も働いても賃金は85万円も低く、それでは若い人がバス運転士を目指さないのも当然でしょう。

一部では「バスが好きだから運転士になりたい」という若者もいるとは思いますが、今後供給制約下で、地元の他の優良企業がさらに賃金を上げる方向に動いていくはずですから、より運転士は減少の一途を辿りそうです。2030年には現状よりも3万6000人不足する見込みもあるとのことですが、まぁそうなるだろうなと。

運転士不足に拍車をかける話として、今年の4月から運転士の労働時間上限を引き下げることを「2024年問題」と呼ぶらしいですが、これ自体が問題とは全く思えず(むしろ労働環境改善のため適切)、これまで運転士に長労働を課して事業をここまで無理やり続けてきたこと自体が問題と考えます。

「運転士不足」に対する本来の対応は、減便ではなく「運転士の処遇向上」になるはずで、そのためには「バス運賃を適正に上げる」ことが必須と思います。そのような方向性の打ち手があまり議論されていない時点で、路線バス減便は仕方ないのだろうと思います。本当に住民がそれで困るのであれば、しっかりバスを使って、事業者が経営を継続できるように動くべし。

先行き不安な日本版ライドシェアの実証実験

そもそも路線バスがこれまで提供してきたような、地方部の広域エリアを低運賃で多くの人を一度に運ぶ、というモデル自体が、人口減少局面では合わなくなっていると考えるのが自然です。
それよりも個別最適な移動手段を提供するのがライドシェアの仕組みです。

海外(東南アジアメイン)で仕事をしていた時には、ほぼ毎日GrabやUberのようなライドシェアを使っていましたが、こんなに便利で安全な移動手段はないと思っています。

ただ、日本版ライドシェアは、既得権益が大きいこともあり、現状は何かと中途半端な取り組みです。現状のおかしなところは過去記事でまとめています。

福井県では、県と県内9タクシー事業者が7月からの実証実験開始に向けて準備を進めているようで、そのための経費として1500万円の今年度予算を計上しているとのこと。各事業者が一般ドライバーを確保できた状態で国に許可申請を提出し、本格導入に繋げたい考えらしいのですが、福井新聞では「本当にドライバーが集まるか不安、県内でライドシェアが広まるか不安」とのコメントで締めくくられていました。

今のやり方だとそれはなかなか集まらないだろう、と思ったのは2点です。

1点目は、「一般ドライバーは各事業者に雇用され、勤務時間に応じた賃金を受け取る」という点。いやいや、それではタクシー事業者でバイトしているのと変わらないです。Grabの良さは、運転士の成果報酬制であり、サービスの質を上げれば上げるほど運転士個人の評価が上がり、評価が高い車両には当然需要も集まるので、より大きな稼ぎが得られるということです。

本来、ドライバーが配車効率を上げることで、時間当たりに運べる人の量を増やすなどの工夫が出てきますが、「勤務時間に応じた賃金」なんてやっていては、運転士のそのインセンティブが生まれません。

2点目は、事業者によっては「平日午前6時~9時、午後6時~11時」のみの提供時間となっていることです。
昼間の路線バスに代わる交通需要を取り込むのであれば、高齢者の日中の病院への移動時間帯を考慮するはずですし、県外からの観光客をターゲティングするのであれば、車でしか行けないけど評判の良い飲食店でアルコールを飲んだ人の足を想定した「休日夜間時間帯」の需要を取り込もうとするはずです。

そもそもライドシェアは空き時間でサクッと稼ぐ、みたいなドライバーに適したサービスなのに、ドライバー自体も本業の移動時間となるであろう時間帯でライドシェアを開放したところで、それは運転士は集まらないだろうなと。

こんなやり方をして実証実験が終わったあとに、「実証実験してみたけど、思うように運転士も利用者も集まらなかったので、この地域にはライドシェアは不要との見解」みたいなことを言い出すのではないかと、かなり不安になっているところです。

どうか、生まれた場所の発展のために、誰かがそれはおかしいと言い出して、地域交通に健全に市場原理が働くのを期待したいです。

それでは、今日もよい1日をお過しください。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

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