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シンプルで力強い文章を書くための、単純なルール

1. シンプルな文章のルール

シンプルな文章を書くことは、読者に内容を効果的に伝えるために非常に重要です。

例えば、アップルの創業者である故スティーブ・ジョブズは、シンプルで分かりやすいプレゼンテーションで知られています。彼のプレゼンテーションは、余分な言葉を省き、短くまとめることで、聴衆に強いインパクトを与えました。

ジョブズは機能を絞り込んで整理し、製品を使いやすくする。スライドを作るときも同じ方法が使われる。「何でもスライドに書いてしまうのは、プレゼンターとして怠慢以外のなにものでもない」とナンシー・デュアルテは言う[3]。ほとんどのプレゼンターがスライドに言葉を詰め込むのに対し、ジョブズは削って、削って、削る。

カーマイン ガロ スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン 日経BP社

余分な言葉を削ぎ落とすことで、伝えたいメッセージが際立ち、読者の心に残りやすくなります。例えば、名言や格言は、シンプルな文章で表現されているからこそ、人々の心に深く刻まれるのです。

「I have a dream(私には夢がある)」というマーティン・ルーサー・キング・ジュニアの有名な演説は、シンプルな言葉で人種差別撤廃への強い思いを表現しました。この演説は、多くの人々の心に響き、公民権運動に大きな影響を与えました。

また、企業のキャッチコピーにもシンプルな文章が用いられます。ナイキの「Just Do It」や、ニトリの「お、ねだん以上。」など、短いフレーズで強いメッセージを伝えることで、消費者の記憶に残りやすくなります。

もちろん、常にシンプルであることが良いとは限りませんが、複雑な文章は、はそれがやむを得ない場合だけ採用するというのが原則です。

では、シンプルな文章と言うのはどのような技術によって可能になるのでしょうか。

1.1. 不要な言葉を削ぎ落とす

文章を書く際、なくても意味が通じる言葉を省くことが大切です。例えば、「まず最初に」という表現は、「まず」だけで十分伝わります。余分な言葉を削ることで、文章がよりシンプルになり、読者に与えるインパクトが増します。

実際に、広告業界では、短くインパクトのある文章を作成することが重要視されています。元電通の広告コピーライターである梅田悟司氏は、「一文字でも減らす」ことを心がけていると述べています。

まず第一に削っていくものは、繰り返し出てくる言葉である。例えば「それは」「その」といった指示語、「そして」「しかし」などの接続詞、「私は」といった主語である。

こうした繰り返し出てくる言葉を、必要最小限のものを除いて削除していく。一気に書ききろうとすると、頭の中で言葉を組み合わせながら意味を紡いでいくことになるので、どうしても指示語や接続詞が多くなってしまう。それらをそぎ落とすのだ。

すると、文章全体にキレやリズムが生まれ、読みやすくなるだけでなく、本当に伝えたいことが際立っていく。

梅田悟司. 「言葉にできる」は武器になる。 日本経済新聞出版

接続詞(そして、しかし、また)、主語(私は、彼は)、指示語(その、これ)などは、文章を長くする要因となります。これらの言葉を適切に削除することで、文章がコンパクトになり、読みやすくなります。

例えば、村上春樹は「なくてもいいところ」を省くシーンを、自身の小説の中で表現しています。

次におこなうのは、その膨らんだ原稿から「なくてもいいところ」を省く作業だ。余分な贅肉を片端からふるい落としていく。

削る作業は付け加える作業よりはずっと簡単だ。その作業で文章量はおおよそ七割まで減った。一種の頭脳ゲームだ。増やせるだけ増やすための時間帯が設定され、その次に削れるだけ削るための時間帯が設定される。

そのような作業を交互に執拗に続けているうちに、振幅はだんだん小さくなり、文章量は自然に落ち着くべきところに落ち着く。これ以上は増やせないし、これ以上は削れないという地点に到達する。エゴが削り取られ、余分な修飾が振い落とされ、見え透いた論理が奥の部屋に引き下がる。

村上春樹. 1Q84―BOOK1〈4月-6月〉前編―(新潮文庫)

「はっきり断言する」「間違いなく確実に」など、意味が重複する表現は避けます。同じ意味の言葉を繰り返すことは、文章を冗長にするだけでなく、読者に与えるインパクトも弱めます。

代わりに、一つの強い言葉で表現することを心がけます。「断言する」「確実に」という言葉だけで、強い意志や確信を表現することができます。

1.2. 一文を短くまとめる

一文の長さは、50文字以内を目安にする、とコンサルティング会社の上司は言いました。(ここで45文字)

個人的には、この制約はかなり気にしており、最近書いた記事でも、一つのパラグラフをほぼ、50文字以内に収めています。

様々な会社に訪問していると、それなりの頻度で「言語化が苦手な人」に遭遇する。
例えばこんな具合だ。

「プロジェクトの基本要件を一つにまとめてマネジメントしたいんだけど。 例えば、一部のプロジェクトで必要なリソースを最初に一つの大きな枠組みで決めて、それを全部に使う、そんな感じ。」

「言葉にできてるじゃない」と思う方もいるかも知れない。
だが、本当に言語化の苦手な人とは、「言葉にはできているのに、その内容が、他の人にとって難解過ぎる人」なのだ。

「言葉が出てこない」
「説明しにくい」
「なんと言えばいいのか迷う」
というのは、実は「言語の苦手な人」よりもかなりマシである。

なぜならば、「言語化できていない」という認識を自分自身で持てるからだ。

それに対して、真に言語化の苦手な人は、自分自身で「言語化が苦手」と気づいていない可能性が高い。

前職にもこんな人がいたが、
「あの人、あたまが良すぎて、言ってることがわからないよね」
と皆から言われていた。

実は、こういう人がもっとも言語化能力が低いのだ。

これをやると「言語化が苦手な人」と、意思の疎通がしやすいかもしれない。 https://blog.tinect.jp/?p=86501

実際、50文字はかなり短く、言いたいことを表現するときに十分ではない場面も多いのです。

しかしそれであっても、「短くしなければならない」という強制力は大事です。

実際、長すぎる文章は、読者の集中力を維持するのが難しくなります。
短い文章を心がけることで、読者は内容を素早く理解することができます。例えば、新聞記事の見出しは、通常20〜30文字以内に収められています。

国内最大のニュースサイトである、ヤフーニュースの見出しは13文字です。「ヤフー・トピックスの作り方」によれば、その短さは必然なのです。

ひと月の閲覧数が45億ページ、ひと月の訪問者数が6970万人―今や日本最大級のニュースサイトと言っても過言ではないヤフー・ニュース。なかでも13文字×8本のニュース見出しを中心とした「トピックス」は、絶大な影響力を誇る。

奥村倫弘 ヤフー・トピックスの作り方 光文社


1.3.一文一義でリズム感を出す

文の中では、主張を明確にすることが重要です。
複数の主張を一文に詰め込むのではなく、一文一主張を意識しましょう。これにより、読者は文章の要点を捉えやすくなります。

唐木元氏は、著書「新しい文章力の教室」の中で、一文一義を推奨しています。

基本のスタイルは一文一義の原則。情報を小分けに運ぶと、混乱も負荷も減らすことができます。

唐木元 新しい文章力の教室 インプレス

シンプルな文章は、読みやすいリズムを生み出します。短い文章を連ねることで、テンポの良い文章になり、読者は自然と文章に引き込まれていきます。これは、読者の集中力を維持するためにも重要な要素です。

ノーベル文学賞を受賞した、アーネスト・ヘミングウェイは、シンプルで短い文章を用いることで知られる作家です。次は、彼の代表作「老人と海」の冒頭です。

He was an old man who fished alone in a skiff in the Gulf Stream and he had gone eighty-four days now without taking a fish.
(彼は老いていた。小さな船でメキシコ湾流に漕ぎ出し、独りで漁をしていた。一匹も釣れない日が、既に八四日も続いていた。)

In the first forty days a boy had been with him.
(最初の四〇日は少年と一緒だった。)

But after forty days without a fish the boy’s parents had told him that the old man was now definitely and finally salao, which is the worst form of unlucky, and the boy had gone at their orders in another boat which caught three good fish the first week.
(しかし、獲物の無いままに四〇日が過ぎると、少年に両親が告げた。あの老人はもう完全に「サラオ」なんだよ、と。サラオとは、すっかり運に見放されたということだ。少年は両親の言いつけ通りに別のボートに乗り換え、一週間で三匹も立派な魚を釣り上げた。)

It made the boy sad to see the old man come in each day with his skiff empty and he always went down to help him carry either the coiled lines or the gaff and harpoon and the sail that was furled around the mast.
(老人が毎日空っぽの船で帰ってくるのを見るたびに、少年の心は痛んだ。彼はいつも老人を迎えに行って、巻いたロープ、手鉤、銛、帆を巻きつけたマストなどを運ぶ手伝いをするのだった。)

The sail was patched with flour sacks and, furled, it looked like the flag of permanent defeat.
(粉袋で継ぎあてされた帆は、巻き上げられて、永遠の敗北を示す旗印のように見えた。)

The old man was thin and gaunt with deep wrinkles in the back of his neck.
( 老人は細くやつれ、首筋には深い皺が刻まれていた。)

青空文庫 https://voaeveryday.net/07aozora/the-old-man-and-the-sea-01.html

一文一義の短文で区切ることで、読者は物語に没頭しやすくなり、主人公の心情に感情移入することができます。

Web記事においても、短いパラグラフを用いることが推奨されています。1つのパラグラフを3〜4文で構成することで、読者は内容を理解しやすくなります。

また、改行を適切に使うことで、文章に適度な「間」が生まれ、読者の目が休まります。これにより、読者は最後まで記事を読み進めやすくなります。

2. シンプルな文章の書き方

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