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ドラマでターゲティングされたらフライドチキンどころでは済まない 進化するプロダクト・プレイスメント


インターネットやSNSにおいて、ユーザーの登録情報やフォローするアカウントなどの行動履歴に合わせて関連性の高い広告を表示させる「ターゲティング広告」や、ECサイトなどで購入を検討している商品の広告が表示される「リターゲティング広告」などの手法はデジタル広告ではお馴染みとなった。思わずそのまま購入に進んだ経験も一度や二度ではない。こうしたターゲティング、リターゲティングからの購入体験がドラマの視聴中に起こる日が近付いている。

■視聴者の属性に合わせて商品が変わる?

同じドラマを観ていても、視聴者が中年の男性であれば高級セダン、若い女性であれば小回りの効く小型車という具合に同じシーンであっても視聴者の属性によって作中に登場する自動車の車種が変化する。そんなにわかには信じ難い技術が中国の新興企業情報メディア「36Kr」で紹介された。サービスの提供元については明らかにされてないものの、早ければ8月中にこの技術を採用したドラマが中国の動画配信サイトで配信される予定だという。

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自動で挿入される車のイメージ(36Krサイトより)

■市場規模205億ドルのPP

ドラマや映画の作中にスポンサーの企業名や商品を登場させる広告手法は「プロダクト・プレイスメント(PP)」と呼ばれ、ハリウッド映画ではよく用いられている。米ディズニー傘下のマーベルスタジオが手がけるヒーロー映画「アベンジャーズ」シリーズの主要キャラクターでロバート・ダウニー・Jrが演じるトニー・スタークの愛車は、シリーズを通してドイツの高級車アウディだ。

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映画「アイアンマン」でトニー・スタークが運転するアウディ・R8=画面キャプチャー

米調査会社のPQメディアのレポートによると、昨年のグローバルPP市場は前年比14.5%増の205億ドルで国別のトップ5は米、ブラジル、メキシコ、豪州、インドと続く。

■韓国ではお馴染み

日本では新海誠監督のアニメーション映画「天気の子」で日清のカップヌードルなど実在する商品が登場し話題になったが、プロダクト・プレイスメントを目にする機会はまだ少なく、実物とよく似たリアルな小道具が使われることが多い。

一方、同じアジア圏でもお隣の韓国では事情が異なり、ドラマを通じてプロダクト・プレイスメントによる商品のすり込み体験を味わうことができる。Netflixで配信され日本でも話題になった「愛の不時着」では、韓国最大手のフライドチキンチェーン「bb.qオリーブチキン」や「SUBWAY」のサンドイッチが登場し、主人公のユン・セリを含む主要な登場人物は英ランドローバーに乗っている。

車好きの私にとっては、どこの自動車メーカーがスポンサーになっていてどんな車種が登場するかも韓国ドラマを見る際の楽しみの一つだ。

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愛の不時着・エピソード11に登場する「bb.qオリーブチキン」=画面キャプチャー

ちなみに韓国の現代(ヒュンダイ)自動車は、5月にソニー・ピクチャーズと戦略的パートナーシップを締結し、人気シリーズの「スパイダーマン」の実写、アニメの両続編映画などに同社の未来戦略車を登場させる計画を発表した。

■ターゲティング×PP

こうしたプロダクト・プレイスメントにネット広告の「ターゲティング」の技術を応用したのが、視聴者属性に合わせて商品を差し替える中国の新たなPP手法だ。前述の36Krの記事によれば、手動による作品中の商品の差し替えは3年ほど前から実現していたが、編集、審査、修正などの工程に時間がかかってしまうことが、事業化においてネックとなっていたという。今回、動画編集から配信までの自動化に成功したことで、2ヶ月ほどかかることもあった商品の差し替え作業を1分以内まで短縮した。

編集・配信工程がリアルタイム化したことで、ネット広告で用いられるような動画配信サイトに登録されたユーザーの会員情報に合わせたターゲティングが可能になるというわけだ。冒頭紹介した年齢・性別による商品の出し別けに加え、視聴エリアによって商品を変えるなど応用の可能性は広がる。

韓国ドラマは世界で人気のコンテンツであるが「bb.qオリーブチキン」は食べたくなっても食べられないという海外の視聴者も多いだろう(幸いなことに東京にはチェーン店があるので私は大鳥居店で2度ほどテイクアウトしました)。

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ほんのり辛いザックザクのオリーブチキン(左)と甘辛の特製ソースが病みつきになるヤンニョムチキン(筆者撮影)個人的にはヤンニョムがたまりません。

ECプラットフォームとの連携で買い物や閲覧履歴と連動すれば、Amazonで探していた商品がドラマの作中に登場する日が来るかもしれない。ウェブサイトのバナーで表示されただけでも思わず見てしまうのに、好きな作品の登場人物が購入を検討している靴や時計を身に着けていたらどうだろうか。

フライドチキンすら我慢できない私はもうドラマは観ない方が良いかもしれない。

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