"Bet Technology" にあぐらをかかず、機械学習エンジニアとしての責任を果たす

「すべての経済活動を、デジタル化したい」松村@yu-ya4)です。LayerX ではバクラク事業部の機械学習エンジニアとして、機械学習を活用した顧客価値の最大化を目指し、プロダクト開発に日々取り組んでいます。早いもので入社して2ヶ月が経過しようとしています。

今回の記事は、10月から始まっている LayerX 2022アドベントカレンダー(概念)、17日目の記事です。前日の16日目はエンジニアの高江(@shnjtk)さんが執筆した『LayerXにジョインして3年、変わったことと変わってないこと』という大変素敵な記事が公開されています。

今回のアドベンドカレンダーのテーマは「LayerX羅針盤」です。LayerX羅針盤とはいわゆるカルチャーブックのようなものであり、LayerX の企業文化を形成する行動指針や大切にしている価値観の内容を具体的に補足・可視化するものです。こちらは一部手を加えた上で社外にも公開しておりますので、是非ともLayerX の企業文化に触れてみてください。

そのようなLayerX羅針盤の中から今回は、"Bet Technology" という行動指針にフォーカスを当て、機械学習エンジニアという立場からこの行動指針とどのように付き合っているのかについて述べることとします。

Bet Technology とは

まず、Bet Technology とは LayerX羅針盤によると

技術にBetすることは、より良い未来にBetすることだと私たちは考える。判断に迷ったときは、⻑期的には技術が勝つと信じ、技術に賭ける選択をしよう。

LayerX羅針盤 p11 より引用

とあります。

LayerX は「すべての経済活動を、デジタル化する。」というミッションを掲げています。その壮大なミッションを達成するためには大きなイノベーションを起こす必要があり、そのためには技術の力が必須であると考えています。

もちろん、最新の技術を駆使したからと言ってイノベーションを簡単にすぐに起こすことができるわけではありません。長い間成果の出ない時期が続くかもしれませんし、そもそもその技術が本当にイノベーションを起こせるとも限りません。しかし、これまでの様々な技術によるイノベーションの歴史を振り返ってみると、より良い未来を実現するために長期的な可能性を信じ、大きな不確実性の中で技術に Bet して進む価値は十分にあるのではないでしょうか。

このように、不確実性の高い状況における意思決定に際して、「大きな目的を達成するために技術の可能性を信じる」というのが Bet Technology という行動指針が表現する一つの側面だと自分は理解しています。

また、その他の面として、ミスや属人化を防いで組織や組織が生み出す価値をスケールさせるために、ソフトウェアをはじめとした技術を徹底的に活用して仕組み化を積極的に進めるというスタンスも、Bet Technology の表すところとなります。

Bet Technology という行動指針そのものについては、以下の記事が分かりやすいです。


Bet Technology により推進される機械学習活用

「大きな目的を達成するために技術の可能性を信じる」という Bet Technology に基づく考え方は、機械学習という技術の活用の推進に当たって非常に相性が良いと感じています。その理由を2つ挙げてみます。

機械学習活用は、コストが大きく不確実性も高い

まず、機械学習という技術は活用に際しコストが大きくかかる上に、不確実性も高いという性質が挙げられます。

機械学習を活用したプロジェクトを進めるためには、大量のデータが必要です。そのためには、データを蓄積したり活用するための基盤となるシステムが必要です。さらに、機械学習モデルの学習などには小さくない計算資源が必要となる場合が多いです。また、実際にプロダクトでリリースする前段階におけるデータ分析や作成したモデルの検証期間なども含めると一定以上の期間が必要となり、必要な人的リソースも小さくないでしょう。このように、機械学習プロジェクトでは大きなコストがかかることが知られています。

また、機械学習プロジェクトでは、実際にプロダクトでリリースした後に常に期待していた結果が出るとは限らず、再びモデルの作成や時にはデータの分析からやり直すことになるというのも珍しくありません。モデルを新しいデータに対してうまく汎化させて作成することは技術的に難易度の高いことです。また、リリース後に外部要因によりデータの傾向が大きく変わってしまい、せっかく作成したモデルが使えなくなってしまうというようなことさえあります。このように、機械学習プロジェクトにおいては、リリースをしたとしても成果が得られるかは分からないという、高い不確実性が伴います

以上のように、機械学習を活用したプロジェクトはコストが大きい上に、必ず期待した成果が得られるとは限らないという不確実性の高いものです。そのため、得られる成果が求めるものより小さくなるとしても、より小さいコストで確実に成果が得られるような、リスクの低い手段が取られることが多いように思います(し、それが正しいことも多いです)。

一方で、「大きな目的を達成するために技術の可能性を信じる」という Bet Technology に基づく考え方が組織に浸透していれば、たとえコストが大きく成果への不確実性が高いという小さくないリスクを抱えていたとしても、ミッション達成には機械学習という先端技術で実現しうるイノベーションが必要であると判断したならば、長期的には大きな成果が出ると信じて機械学習の活用を進めるという意思決定をすることが可能となるのです。

機械学習活用は、仕組みや成果を伝えづらい

次に、機械学習という技術は一般的によく分からないものであり、その仕組みや成果をうまく伝えることが難しいという性質が挙げられます。

機械学習モデルの仕組みはいわゆるブラックボックスで喩えられることが多く、単純なモデルでない限り、入力したどのような特徴がどのように使われて出力結果(予測したい数値や分類の結果)となるのかを解釈することが容易ではありません。そのため、機械学習エンジニア以外の人に、あるいは機械学習エンジニアに説明を求められても、納得してもらえる形で機械学習モデルがどのような仕組みになっているのかを伝えることは難しいです。

また、機械学習活用の成果は直感的な理解が難しい場合が多いという特徴もあります。最近話題の画像生成モデルのように、これまではできなかったことが機械学習/深層学習によって新しくできるようになったというケースでは、そのシステムの動作を目で見ただけでも機械学習という技術による成果を実感することができます。一方で、機械学習以外の技術を使ったとしても一定の性能で実現できている機能の改善といった、既存の目新しくないウェブサービスやアプリの裏側のロジックを改善するケース(たとえばコンテンツの並び替えを行う推薦システムなど)では、使ってみて驚くほどに大きく体験が改善されていない限り、機械学習活用の成果を直感的に理解することが難しいのです。

以上のように、機械学習はその具体的な仕組みや成果を分かりやすく伝えることが難しいです。そして、組織として機械学習の活用を進めるといった大きな意思決定を行う役割の人は、機械学習技術への理解がさほど深くない場合がほとんどです。人はよく分からないものに対して意思決定を行うことが苦手なので、これらの性質も機械学習の活用を進める意思決定を難しくしてしまっていることとなります。

一方で、ここでも「大きな目的を達成するために技術の可能性を信じる」という Bet Technology に基づく考え方が組織に浸透していれば、たとえ機械学習が実際に何をしているのか仕組みが分からなくとも、その成果を機能の見た目などで直感的に理解することが難しくとも、ミッション達成のために必要だと判断すれば、長期的には必ず大きな成果が出ることを信じて機械学習の活用を進めるという意思決定をすることが可能となるのです。

Bet Technology にあぐらをかいてはいけない

ここまで、Bet Technology という行動指針の存在により、機械学習の活用を進める意思決定が行いやすくなるという話をしてきました。一方で、いつなんどきでも機械学習の活用を進めることが是とされるわけではないということには注意すべきです。Bet Technology を言い訳に、その行動指針から形成される文化にあぐらをかいて、ただ(機械学習)技術を使うことが重要で正しいという勘違いをしてはいけないのです。

なぜ文化にあぐらをかいてはいけないのか

あくまで、「大きな目的を達成するために技術の可能性を信じる」という考え、前提のもとで機械学習活用は進められるものとなります。つまり、機械学習の活用は大きな目的を達成するために進められる必要があり、可能性を継続して信じてもらえるような振る舞いをする必要があります

行動指針や文化というのは、もちろん経営層からのトップダウンで決まる部分もあるのですが、大部分は時間をかけて組織や各々のメンバーが様々な経験をし思考していく中で醸成されていくものです。そのようにして築き上げられた文化の上にただ乗りして、前提を無視して都合の良いように利用してしまっては、文化そのものが崩れてしまう恐れがあります。文化に対しては、その恩恵を受けて大きな成果を出すことを目指しつつ、継続して成果を出せる良い組織であり続けるために維持・もしくはさらなる高みを目指して改善するために働きかける必要があります。

文化の誤用の例

Bet Technology のありがちな誤用としては、技術を活用することが先行し過ぎてしまい、先端の技術を利用すること自体が目的となってしまうケースが挙げられます。この場合、技術的に難しいことや面白いことはできるかもしれませんが、ミッションの実現といった大きな目的の達成に近づくことは難しくなるでしょう。

また、たとえ正しく組織の大きな目的の達成のために技術の活用を進めていたとしても、うまく成果を出すことができなければいけません。成果の出ない状態が長く続いてしまうと、その技術は組織の大きな目的を達成するためのイノベーションを起こすことのできるものではないのだと、可能性を信じてもらえなくなってしまいます。

また、仕組みや成果を伝えるのが難しいからといって、伝える努力を全くしなかったり、開示できる情報を開示しないというのは不信感の元となり、技術や技術者への信頼を失うこととなりかねません。

さらに悪い状態として、こんなことを実際に経験したことはないのですが、技術が/エンジニアが"エライ"という勘違いをして、エンジニアでないメンバーに対して横柄な態度を取るなんていうことは、決して起こってはいけないことです。あなたの作った機能・プロダクトは、ユーザーに届かなければ価値を提供できないし、お客様にお金を払ってもらえなければ開発を続けることはできません。これは技術への信頼、以前の問題ですが。

Bet Technology されるために果たすべき責任

では、正しく Bet Technology されて機械学習の活用を進めつつ、築き上げられてきた文化を維持・改善していくためには何を行えばいいのでしょう。機械学習エンジニアである自分が果たすべき責任はなんなのでしょう。繰り返しになりますが、「大きな目的を達成するために技術の可能性を信じる」という考え、前提のもとで技術の活用は進められるものとなります。よって、組織の大きな目的を果たし、信頼を得られるような振る舞いを行うことが求められることとなります。

技術への理解


様々なライブラリやツール、クラウドサービスの充実により、機械学習を使うハードルは近年大きく低下しています。さらには AutoML まで登場し、機械学習を知らなくても"精度の高い"モデルを作ることができるので問題ないのではないか、とまで言われることさえあります。

一方で自分は、機械学習活用によって組織の大きな目的を果たすためには、機械学習という技術への理解は変わらず必要だと考えます。後述しますが、機械学習はその使い所や使い方が非常に難しい技術です。正しく技術を使うためには、技術そのものへの理解も必要であると考えています。特に、最近の機械学習は他の技術領域と比べても、技術自体の進歩や応用事例が世に出るスピードが速いです。そのため、日々アンテナを伸ばし効率よく継続的に理解を深める営みが必要であると考えます。

技術を正しく使って成果を出す

また、機械学習という技術を理解した上で、適切に価値を提供できる機能やプロダクトを作ることに利用し、適切に技術を適用して機能を作り上げて成果を出す必要があります。不適切な機能を作ったとしてもユーザーには使われず価値は生み出されないし、価値を生み出しうる適切な機能を作ろうとしてもうまく実現する力がなければその価値を提供することはできません。

この辺りの考え方について以前発表した資料がありますので、興味のある方はご覧ください。


技術の仕組みや成果の伝達

前提として特定の技術領域について詳細な理解をすべての人に求めることは難しいですし、不可能です。一方で、可能な限り伝える努力をする、情報を開示することは、技術や技術者への信頼につながりますし、その技術によって生み出される成果を理解してもらうことにも繋がるでしょう。

また、特に成果を伝える努力はすべきです。先ほど、機械学習活用の成果を直感的に理解してもらうことは難しいと述べましたが、あくまで目で見るなどして直感的に理解することが難しいに過ぎません。機械学習活用によってどれだけ性能が良くなったか、顧客体験が上がったか、売上が上がったかをファクトを集めて定量的に説明したり、言語化して伝えることは非常に重要な意味を持ちます。

技術・成果の社外へのアウトプット

すこし飛び道具的な印象を与えてしまうかもしれませんが、重要だと考えています。まず、前項の「技術の仕組みや成果の伝達」の延長と考えられるため、同様の効果が見込めるでしょう。また、社外の専門家からもアウトプットが評価されるということは、自分自身で詳細に内容を理解することが難しい社内の方にとって、きっとその技術を信頼するひとつのエビデンスになることでしょう。

また、技術や技術による成果を世の中に共有することは、世の中全体の技術レベルの向上や成果、技術への信頼に繋がります。つまり、世の中全体に Bet Technology の文化を広げることに繋がるかもしれません。特に、機械学習技術がプロダクトに利用されて成果を出しているという事例はまだまだ世の中に出回っているものが少ない状態です。自身の組織だけではなく、広く世の中に目を向けることは、長期的には結果として自身に返ってくるものも大きいはずですし、何より単純に Bet Technology な世の中ってワクワクして素敵だなって思います。

専門領域外の技術や技術者以外へのリスペクト

自分にないものを持っている人をリスペクトしよう。組織で、チームでお互いに補完しあって成果を出しているということを認識しよう。どれだけ特定領域のエンジニアとして優れていても、自分だけでは大きな成果を出すことはできない。自分の技術や自分自身に敬意を払ってほしければ、まずは敬意を払おう。

終わりに

本記事では、LayerX羅針盤の中から行動指針の一つである"Bet Technology"に焦点を当て、機械学習エンジニアとして考えていることを整理して紹介しました。手前味噌にはなりますが、LayerX の他の行動指針や価値観、文化も大変魅力的なものが多いです。かつ、それらが高いレベルで具体的な行動に反映されている組織であるという自負があります。

LayerX では全方面で絶賛採用中です!そのような環境を魅力に思っていただけた方、興味を持っていただけた方、一緒に働けることを心待ちにしております。まずはぜひカジュアルにお話ししましょう。


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