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【リリース楽しみ】Black Country, New Roadについて調べたり思ったりしたことの現時点でのまとめ。

年明けから楽しみなリリースが多い2021年。

shame(何故か小文字のクレジットになった。)が1/15に"Drunk Tank Pink"を、Goat Girlも1/29に"On All Fours"を、2010年代中期〜後期のサウスロンドン周辺の活況の地盤を作ったとも言える象徴的な2つのバンドが2ndアルバムをリリース予定。

他にもIdlesの弟分的バンドなブリストルのLiceが1/8にデビューアルバム"WASTELAND"をリリース予定で、おそらく2019年から活動したばかりのTV PriestもSub Popと契約しての1stアルバム"Uppers"が話題になっている。いきなり余談だが、TV PriestのボーカルのCharlie Drinkwaterはデザイナーとしても(SigridやFontaines D.C.などのジャケットも手掛けていたしい)活動しているらしい。

コロナ禍によるライブ活動などの制限はまだあるものの、近年のUKロックの活況は一段と盛り上がる様相を呈している。その中でも一際の異彩を放ち、最も注目すべきバンドとして挙げたいのがBlack Country, New Roadというバンドである。

2/5にデビューアルバム"For the first time"をNinja Tuneよりリリース予定。

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先ず聴いてもらいたいのは「Sunglasses」。

ポストパンク的な鋭利性をむき出しにしながらもフリージャズのよう自由な曲展開。静と動が目まぐるしく往来するスリリングな音の変化や緊張感から次第に何か別世界にトリップしていくような感触を覚える。
"Welcome to the best new six-part Danish crime drama(最高の新作6部作のデンマーク犯罪ドラマへようこそ)"という不穏な唄い出しで始まり、強烈な文学への傾倒が滲み出たその詩を苛つきながら唱えるように唄う。1曲を聴き終える頃にはまるで1本のホラームービーを鑑賞した時のようなゾクゾクする感覚が残る。


結成の経緯は決して穏やかなものではない。メンバーの多くはNervous Conditionsというケンブリッジのバンドのメンバーだった。しかしながら、当時のフロントマンの不祥事によりデビューEPのリリース直前に解散。その後、残ったメンバーを中心に突如として静かに結成されたのがBlack Country, New Roadである。

失意の中の結成だったかもしれないが、Nervous Conditionsで培ったものを継承しつつもメンバーそれぞれの音楽的バックグラウンドを正しくぶつけ合いその刃を研ぎ澄ますように発展させた。

Fontaines D.C.などもプロデューサーとして手掛けているDan Careyが2013年に創設したロンドンの新興レーベルでもあるSpeedy Wundergroundから「Athen's, France」がリリースされ、続いて先ほど紹介した約9分に及ぶ大作「Sunglasses」がリリースされた。

衝撃を与えるには2曲で充分と言わんばかりに、その2つのリリースは大きな注目を集め、どちらの7inchも即座にレア化した。そして下記の出来事が続いた。

・The Quietusに"the best band in the world"と評される。
・Loud & Quietの表紙を飾る。
・BBC 6 Musicのライブセッション主催の全ライブを完売。ロンドンでは3公演で計1700枚のチケットをソールド。
・PrimaveraやGlastonburyのフェスティバルに出演。
・SavagesのJehnny Bethが司会を務めるフランスの『Echoes』というテレビ番組でKim GordonとRadioheadのEd O’Brienと共演。 
・スロベニアやリトアニアなどの離れた場所でのフェスティバルにも出演。

(※参考:Ninja TuneのHP内のBlack Country, New RoadのBiography)

2010年代前半に死んだと音楽メディアの常套句のように言われ続けたロックンロールはデンマークのコペンハーゲンでIceageがその美学を究極に鋭く研ぎ澄ますことでその価値を再定義した。Palma Violetsが残した荒削りで高尚なスピリッツはFat White Familyなどのバンドによってゾンビの如く燃やされ続け、shameやGoat Girlがそれをシーンと呼べるところまで突き上げた。サウスロンドンで何かが起きていることは次第に知れ渡り、それはロンドン以外の各地にも飛び火し、アイルランド、オランダ、スウェーデン、カナダ、オーストラリアなどにもその空気は流れていった。(※個人の見解です。)

Mura Masaの昨年リリースされた"R.Y.C"のライナーノーツにMura Masaの発言として「ブラック・ミディは素晴らしいし、まだ有名じゃないけど、ブラック・カントリー・ニュー・ロードっていうバンドも本当にすごいんだ。」という記載があった。(Mura MasaはPVAのRemixもやったりとこの周辺のバンドに対して年々接近してる気がしていて面白い動きだと思っている。)

Black Country, New Roadのメンバー構成はIsaac Wood (vocals/guitar)、Lewis Evans (sax)、May Kershaw (keys)、Charlie Wayne (drums)、Luke Mark (guitar)、Tyler Hyde (bass)、Georgia Ellery (violin)の7人構成。

このバンドからヴォーカルを務めるようになった鬼才な語り手のIsaac Woodがいて、クレズマー音楽(※中東からヨーロッパにかけてのあらゆる民族音楽とジャズが混合させた中東欧のユダヤ系発祥の音楽)の演奏に関して経験豊富なサックスのLewis EvansとバイオリンのGeorgia Ellery。Georgia ElleryはJockstrapにも所属している。ドラムのCharlie WayneはUglyというバンド(私が大好きなケンブリッジのバンドだ。)にも2020年の1月まで所属していた。キーボードのMay Kershawはこれまでの音楽人生の多くをクラシック音楽に捧げた。ベースのTyler HydeはUnderworldのKarl Hydeの娘でもあり、それが縁となってか(?)Lewis EvansとGeorgia Ellery、Karl Hydeの3人でUnderworldのAppleshineという曲にも参加している。

カナダの大所帯バンドCrack CloudへのUKからの回答という訳ではないが、7人のバンドメンバー全員のそれぞれの音楽的バックグラウンドを持ち込んでは独自の音楽へと昇華させる。アンダーグラウンドで起きているインディペンデントなカルチャーが以前よりもコレクティブ性を増していく近年で先駆的に登場したBlack Country, New Road。不協和音が轟かす彼らの音楽は、テラスハウスで流れるようなマス的なそれや旧来のUKロックとイメージされるそれとは一線を画すが、それは一つの到達点として興奮を覚えずにはいられない。

動画の21:03~。不敵な笑みを零しながら奏でられるWeezerの「Say It Ain't So」。このカバーがBlack Country, New Roadの曲としてこんなにハマるなんてビックリした。





2月5日のデビューアルバム"For the first time"が本当に楽しみ。






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村田タケル

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