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Brian Leeds(Huerco S.)作品とその周辺について整理してみた

Huerco S.改めBrian Leeds・・・・10年代中盤以降のエレクトロニック・ミュージックシーンをカルト的に支えた重要人物であり、様々な名義を使い分け、また自身のレーベルからいくつもの重要作品をリリースし、とある一つのムードを作り上げた重要人物の一人・・・・と自分は認識している。

そして、彼自身の作品もそうだが、その周辺で相当興味深い作品がリリースされまくっているのが実に面白い。多種多様だがある種のムードのようなものを共有しており、一つのムーブメントとして捉えられるレベルである。簡単にその音楽性について言及するならば、Basic Channel / <Chain Reaction>系の不明瞭なダブmeetsアンビエントな音像が中心に据えられ、作品によってハウス/テクノだけでなくAutechreよろしくなIDM的リズムなどが加えられたり加えられなかったりする音楽・・・という感じだろうか。

この辺りのシーンの音楽については散発的に聴いてはいたものの、なんとなく繋がっているということしか分かっていなかった。そこで今回、自分の勉強のためにもBrian Leedsを起点に周辺アーティストを含めて整理してみようかなと思って、その勉強の跡がこのnoteになる(予防線を貼っておきますが、ここ超重要です)。

ちなみに、Brian Leedsはアメリカ合衆国の中西部に位置するカンザス州出身で、のちにニューヨーク・ブルックリン→ベルリン(パンデミック期)→カンザス→フィラデルフィアという感じで移動しているっぽい。その中でもやはり故郷カンザスという地域が重要で、これは想像だけどカンザスというある意味「田舎」で育ったこと、そこで仲間とある意味アウトサイダー的な精神性を育んだことは、常にシーンの中心的な音楽からは距離を取ろうとする彼の音楽性に影響しているのではないかと推察する。

というわけで、まずは、Brian Leeds自身のアルバム、EP、シングルから。複数の名義を使い分けて多くの作品を発表しており、正直網羅できていない部分もあるが、把握している範囲でまとめる。次に、Brian Leedsが主宰する<West Mineral ltd.>作品をいくつか、そして界隈でもう少し言及しておきたいアーティストやレーベルについてピックアップしていこうと思う。



Brian Leedsのアルバム

Huerco S. / Colonial Patterns (2013)

<Software> / US

デビューアルバム。モコモコ、フワフワ、ジリジリといった擬音語/擬態語を使いたくなるローファイな音像が彼のトレードマークとして確立したアルバムで、ローファイハウス/テクノの登竜門としても重要な作品でしょう(他をほとんど知らんけど)。この後のアルバムと比較するとHuerco S.名義では最もダンサブルだが、キックは非常に弱く、ノイズと埃にまみれたような不穏でアブストラクトなウワモノを抑揚をつけながら何度もループすることでリズムを生み出している。FACTDAZEDのインタビューによると、一時ミズーリ(カンザスの隣)に住んでいた際に出会ったコロンブス以前の時代の遺跡からインスピレーションを受けているらしい。以下のインタビューの最後の部分はこのアルバムの音楽性を言い表しているように感じた。

This meticulous – I mean it was slave labour, but – this task over and over again, just to build this mound. Something actually kind of worthless, just dirt, you know? So applying this to sound. Doing something over and over again, listening to the same thing over and over again. Like shoveling. Uncovering things and covering them back up.

この緻密な、つまり奴隷労働のような作業を、何度も何度も繰り返して、塚を作るんです。実際には何の価値もない、ただの土なんだけどね。だから、これを音に応用するんです。何度も何度も何かをする、同じものを何度も何度も聴く。シャベルで掘るようにね。掘り出し物を見つけては、また覆いかぶせる。

FactのInterviewより

ちなみに、Oneohtrix Point Neverの<Software>からリリースされている。SoundcloudのDMからDaniel Lopatinがメッセージを送ってリリースされることになったみたい(ele-kingインタビュー参照)。そういう意味ではOPNの先見の明というか、偉大さもわかるかもしれない。

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Huerco S. / For Those of You Who Have Never (And Also Those Who Have) (2016)

<Proibito> / USA

Anthony Naples主宰の<Proibito>からリリースのセカンドはPitchforkが選ぶアンビエントベスト50にも選出。自分にとってHuerco S.との出会いともなったアルバムで思い入れがかなりある。改めて聴いても他の作品と比較するとかなりキラキラしているような気がする。そう感じるのはジャケットのせい?いやいや、音楽的にも間違いなくそうだろう。

本作は前作のダンスミュージック起点の音楽からアンビエント寄りの音楽へと大きく変化したが、FACTのインタビューによると、これまでやっていたサンプリングをやめたらしく、そんな制作手法変化が間違いなく今作の変化に寄与したであろうことが想像できる。

It feels like this album is completely ‘me’. All the pieces have been taken from extended jams that I recorded. Sometimes pieces were around an hour long and I would edit them down, finding various interesting parts and looping those as well as finding parts I liked to re-sample from myself. This is so focused on myself and sourcing the sounds completely from my own mind rather than using external samples.

このアルバムは完全に「私」なんです。すべての曲は、私が録音したジャムの延長線上にあるものです。時には1時間くらいの曲もあって、それを編集して、いろいろと面白い部分を探してループさせたり、自分の好きな部分を探して再サンプリングしたりしていました。このように、外部からのサンプルを使うのではなく、自分自身に焦点を当て、完全に自分の頭の中から音を引き出しています。

FACT Interviewより

そして、その影響源としてGas「Pop」、Vladislav Delay「Multila」、吉村弘「Pier & Loft」、Brian Eno「Ambient 4: On Land」、Oval「94 Diskont」などが挙げられており、確かによく分かるチョイスのような気もする。そして、自身をローファイプロデューサーと括られたくないという意図の発言は、型にハマりたくないという彼らしさが出ている。

ちなみに、このアルバムの感想は以前にこちらで書いています。

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Huerco S. / Quiet Time (2016)

<Quiet Time Tapes> / USA

ワンソング31分のアンビエントど真ん中作品。後述のPendantで聴けるダブ感は薄く、また「For Those〜」で聴けたゴージャスさとは正反対で、透き通るような、そして凍てつくような一定のサウンドがひたすら持続する。コードは微かに、そしてゆっくりと変化するのみであり、アンビエントに馴染みのなかった頃の自分だったらあまりに乏しい変化に退屈していただろう。だが、多少アンビエントを嗜むようになった今、やっとこの作品の真価が分かるようになってきた気がする。30分という時間を永遠とも一瞬とも感じさせる純度の高いサウンドスケープで、もはやこれさえあれば他のアンビエント作品は要らないのではと思ったり思わなかったり
音量を上げるとカセットテープで聴こえるようなジリジリ感が聴こえるのも良い。

<Quiet Time Tapes>もこの辺の潮流を追う上ではとても重要なレーベル。Huerco S.だけでなく、これまた後述するUlla StrausやBen Bondyも作品をリリースしている。もともと2本組カセット専門レーベルだったみたいだが、今はデジタルでも複数リリースしてて、サブスクにもある作品も多い。ただし、今作はサブスクにないのでbandcampで購入しましょう。

bandcamp

Pendant / Make Me Know You Sweet (2018)

<West Mineral ltd.> / USA

Brian Leeds自身のレーベル、<West Mineral Ltd>の第一弾リリースであり、Pendant名義でのアンビエント作品。これは間違いなくダブアンビエントの基準となる一枚で、不明瞭で霧がかかったレイヤー、ひたすらに深海に潜っていくような重たい空気感、そんな中で時に見せるシューゲイザーのような淡い煌めき、どれをとっても素晴らしいの一言。感触としては「Colonial Patterns」から特に不純物めいた残骸をかき集めてミキサーにかけてドロドロにし、それをドローンサウンドとしてアウトプットしたようなサウンド(伝わるか?)。「For Those〜」は癒しを求めて作成されたアルバムだったようだけど、今作ではよりダークで深い音を求めて作成されたようだ。また、以下の発言なんかはこれまでの彼のインタビューでのスタンスとして一貫していると思うし、Pendantはまさに意図した音楽作品になっていると感じる。

Pendant名義のアルバムをBoomkatが「中間の音楽(Mid-ground Music)」と称してくれたけど、それこそがまさに自分の追求したいものなんだ。音楽のヒーリング力は無視できないし、自分も恩恵を受けているけれど、いわゆる「無害」や「和やか」、「静けさ」みたいな言葉で形容できるような、アンビエントのクリシェには陥りたくないのさ。

ele-kingインタビュー

本作はBrian Leedsのディスコグラフィの中で、最近の潮流を追うという意味でも最も重要なアルバムかもしれない。必聴です。

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Loidis / A Parade, In The Place I Sit, The Floating World (& All Its Pleasures) (2018)

anno / USA

クラブ仕様のディープハウス/ディープテクノ。全3曲と収録曲は少ないが32分ある。まず、M1 "A Parade"のロウな質感はそのままにガンガンドライブしていくトラックにまず恋に落ちる。M2 "In the Place I Sit"は得意のダブアンビエント的な静かな流れから徐々にキックを入れてくる展開に恋に落ちる。そしてM3 "The Floating World (& All Its Pleasures)"はミニマルな展開が淡々と続くダブテクノトラックで、控えめな低音とウワモノの見事な関係性によってトリップに誘う感じに恋に落ちる。控えめに言って好みです。

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PDP III / Pilled Up on a Couple of Doves (2021)

<Shelter Press> / France

音響作家であるBritton Powell、イギリスの前衛チェリストであるLucy Railton、そしてBrian Leeds(Huerco S)の共作。アンビエント/ドローン作品なわけだが、ノイズやインダストリアルも含む割と硬い質感。2021年の私的年間ベストアルバムで49位に選出、こちらのnoteでも感想書いてます。M4 "Walls of Kyoto"は本当に圧巻。

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Pendant / To All Sides They Will Stretch Out Their Hands (2021)

<West Mineral ltd.> / USA

2021年私的年間ベストアルバムで19位に選出させていただきました。Pendant名義でのアンビエント作品の2枚目。1枚目と路線は変わらないけど、最高峰のダブアンビエントが鳴り響く。ジャケットの通り混沌としてグチャグチャとしているけど、OPNみたいなエグ味(これはこれで良い意味として言ってます)はそこまで強くないのが面白い。

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Huerco S. / Plonk (2022)

<Incienso> / USA

ダブ・アンビエント作品が飽和してきたかな・・・?と思わせたところで、当の本人は全然異なる方面に向かったのが興味深い。ウォールオブサウンド的ダブアンビエントの世界からクリアなミニマル・IDMの世界へ、テクスチャー重視の音楽からリズム重視の音楽へ。まさかここまで変化してくるとは思っていなかったが、これがまた刺激的で2022年はよく聴いた。ele-kingのインタビューではAutechreをはじめとした90s後半〜00s前半の電子音楽全般とヒップホップ(本作でもM9 "Plonk IX"でラッパーのSir E.Uを起用してたり)からの影響について言及している。また、Ghostride The Driftで一緒だったSpecial Guest DJ/uonをはじめとした仲間達からの影響についても言及していて、その点についてはすごく納得した。あとで簡単に紹介しようと思うが、Special Guest DJやEXAEL、Pontiac StreatorはIDM寄りの音楽を制作しており、仲間達とのコラボレーションや彼らの作品のリリース経験が本作にも活きているんだろう。

この後、どのような作品をリリースしてくれるのか、今後も楽しみで仕方がない。

ちなみに、過去の個人的感想はこちら、そして2022年個人的年間ベスト23位にも選びました。

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Brian LeedsのEP/Single

Hureco S. / HRCS-001 (2011)

Self-released

初期のローファイハウスなEP。「Colonial Patterns」よりもまだ鮮明(それでも独特の不穏でアブストラクトな趣は既にある)で、キックがしっかりと打たれたダンスミュージック集なので、ある意味ライトに聴ける。

bandcamp

Huerco S. / Untiltled (2012)

<Opal Tapes> / UK

「Colonial Patterns」リリースの少し前の作品で、地味に初期の傑作。Burialや最近ではSpace Afrikaのような、ストリートや都会の闇を思わせるダークな雰囲気がたまらないディープハウス中心のEPだけど、ラストM4 "Untitled"の20分近くに及ぶアンビエントトラックも圧巻で素晴らしい。

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Huerco S. / Apheleia's Theme (2013)

<Future Times> / USA

Huerco S.名義では最もダンスフロア寄りでキックが強く、マシーンファンク感があるかも。ただ、ウワモノは不明瞭で違和感が残るズブズブサウンドでHurco S.のシグネチャーはしっかりと刻印されている。

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Royal Crown of Sweden / R.E.G.A.L.I.E.R. (2013)

<Proibito> / USA

ハウス志向のプロジェクトでロウな質感のトラックが超気持ちいい。これはクラブ映え間違いなし。

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Huerco S. / A Verdigris Reader (2014)

<Proibito> / USA

これもロウなハウストラックが中心。どこか潰れたドープなキックとダークに煌めくサイケデリアはもはやお家芸とも言える。素晴らしいね。

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Huerco S. / Railroad Blues (2015)

<Proibito> / USA

M1 "Rushing to Paradise"が個人的に希代の名曲。キックではなくテクスチャのループで踊らせる系の曲の中でも最良。10分弱、そのダブサイケデリックなサウンドスケープに意識を埋没させつつ、ユラユラと身体を揺らすことができるという、至福の時を過ごせる。M2 "Marais des cygnes"は一転キック主体のダブテクノ的トラック。M3 "Transit V (See See Rider)"はミニマルな展開から徐々に盛り上がる、12分にも及ぶ気持ちのいいサイケデリックテクノ。いやぁ、名EPです。

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Mio Mio / Mio Mio Single (2015)

<Proibito> / USA

Mio Mio名義での2曲入りシングル。Royal Crown of Swedenと並んで、超フロア仕様のブチ上げトラック。ヴィラロボスを意識したテクノプロジェクトらしい。



<West Mineral Ltd.>

Brian Leedsは自身のレーベルとして<West Mineral ltd.>を主宰しており、その第一弾リリースが2018年の自身のPendant名義の作品。ここでは、Brian Leeds以外の音楽家の作品をいくつか取り上げてみる。

Pontiac StreatorMister Water WetExaelUllaら盟友とは、2009〜2010年あたり(おそらく大学〜大学卒業くらい?)で出会っているっぽい(こちらの記事参照)?Pontiac Streatorは多分もっと前っぽい。

ちなみに、カタログナンバーが最初のPendantのアルバムが099で、そこからリリースのたびに数字が小さくなっていっているので、もしかしたら99枚リリースしたら解散でもするのかもしれない。知らんけど。

uon / uon (OUEST098) (2018)

<West Mineral ltd.> / USA

uonの本名はshyで(Discogsではそうなってる)、他にSpecial Guest DJ、DJ Paradise等の別名義に加え、Brian Leeds、ulla、Exael、Ben Bondy等々と多種多様なコラボレーション作をリリース、さらに<West Mineral >と並んで超重要な<3XL/Experiences ltd.>レーベルを主宰しており、Brian Leedsとともにこの辺界隈(雑な括りである)の最重要人物の一人である。

そんなuonによるダブ・アンビエントアルバムがこれ。まるで深海に向かって「もっと深く、もっと深く・・」と言わんばかりに潜っていく音像には脱帽であり、そして、常に何か得体の知れないものが側で蠢いているような不気味さも放っている。このアルバムは全3曲で、M1 "Solaris"は17分に及ぶディープアンビエント、M2 "J"はダブ加工された強烈な低音が独特のリズムを型取るアンビエントテクノ、そして再びM3 "Bus"のダブアンビエントで引き摺り込まれるように深海に沈んでいく・・・という構成。<Chain Reaction>系列のダブテクノや初期Huerco S.のようなローファイハウスの流れを汲む音楽で、ダークでオブスキュアな音像は改めて変化が激しく先の見えない時代と共振するような感覚があって、とても今っぽいなと思う。

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Ben Bondy / Glans Intercum (OUEST090) (2021)

<West Mineral ltd.> / USA

ニューヨーク拠点のアーティストBen Bondyも多作、かつ種々のコラボレーション作品をリリースしており、かなりよく名前を見かけるアーティストである。

過去のアルバム(「Sibling」とか)では良質なアンビエントが聴けたが、今作ではその要素は後退し、代わりに奇天烈な金属音や電子音が飛び交う、ごった煮IDMのような様相を呈している。特にM2 "Ash in Emerald Casing"、M4 "Drip on Nape"、M7 "Skizz"はリズミックなトラックで、Aphex Twinような狂った感覚を思い出した。また、M1 "Rest"のバキバキなエレクトロ要素や、M6 "2404 (with Stella)"の電子加工されたボーカル使い等からはサイバーな雰囲気も感じられる。一方で、M5 "Ven"のような落ち着いた美しきダブアンビエント的トラックもあるし、ごった煮のようで抑えるべきところを抑えたバランスの取れた好盤という印象を持っている。

2022年の<Quiet Time Tapes>からリリースされたセルフタイトル作もおすすめ。

bandcamp

Mister Water Wet / Significant Soil  (OUEST087) (2022)

<West Mineral ltd.> / USA

2022年<Soda Gong>からの「Top Natural Drum」(2022年の個人的年間ベストでも選出)で初めて知ったMister Water Wet。Twitter上でも一部盛り上がっており、確かに面白い存在だなと思う。他のWest Mineral ltd.周辺作品と比較しても、土着的でトロピカルな雰囲気を漂わせる音楽を作る。無機質ではなく、有機質な音楽と言ったらよいだろうか。都市やインダストリアルな印象は皆無で、森、山、川、土、虫、水、植物・・・そういったワードとの相性が良いと思う。本作について、映写機が回るようなジリジリとした音にキーの外れた人懐っこい効果音が印象的なM1 "Bory"から奇妙で、古びたピアノループと粗野なドラムパターンが印象的なM3 "Good Apple"、壊れたホーンとガラクタような電子音の組み合わせがクセになるM4 "When Kennybrook Burned To The Ground"、ラストM7 "Losing Blood"のグリッチマナーに従った11分にも及ぶ美しきアンビエントトラックなど、どれもこれも一筋縄ではいかない曲ばかり。
Mister Water Wet自身はHuerco S.と同じカンザス州拠点のようだが、ルーツはプエルトリコにありその辺りが音楽性にも影響していそう。また、Huerco S.の師匠的な記述がPitchforkのレビューにも出てくるので、この界隈の重要人物であることは間違いなさそうだ。

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Pontiac Streator / Sone Glo  (OUEST088) (2022)

<West Mineral ltd.> / USA

フィラデルフィア拠点のPontiac Streatorは<West Mineral>周辺の中でもBrian Leedsにとって一番の古株っぽく、Brian Leedsがエレクトロニックミュージックに向かう前は、Pontiac Streatorがドラムを担当するグラインドコアバンドを組んでいたらしく、また、ドラムンベースを紹介してBrian Leedsを電子音楽の世界に誘ったとかなんとか(RA参照)。Ulla Strausとの共作として、「Chat」(2018年)及び「11 Items」(2019年)をリリースしており、<West Mineral>からのソロ名義としては本作が初めて。

本作は水属性系統のダブ感のあるディープなサウンドスケープはもちろんあるが、IDMやグリッチ的アプローチが際立つダウンテンポ・エレクトロニックアルバムで、Autechreの無機質さと変態性をいくらか柔和にして、馴染みやすくしたような印象。今回取り上げた4作品の中ではある意味一番真っ当なエレクトロニック作品とも言える気がする。

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関連アーティスト

Brian Leeds周辺で片付けてしまうと失礼なほど、面白いアーティストがわんさかいて、かつそれぞれが多作でその音楽性もある一定の趣向は共有しながらも多種多様。とても追いきれないけど、自分の追えている範囲で整理する。

uon / Special Guest DJ / shy

上述の通り、<West Mineral Ltd.>と並んで重要レーベルである<3XL>を運営し、自身も次から次へと作品をリリースする、この界隈でも重要人物の一人。uon起点で周辺の動向を追ってみても相当面白そうである。

uonはアンビエント寄りだが、その他の名義やコラボは概ねエクスペリメンタルな作品がほとんど。uonの他、Pontiac Streatorとのcrimeboys / very dark past (2023)、Exael、Arad Acid、mu tateとのCypher / Glasgow (2022)、Ben Bondyとのxphresh / xphone (2022)など、挙げるとキリがない。Brian Leeds、ExaelとのGhostride the Drift / ST (2019)は特に好きだった。

Ulla Straus

Huerco S.周辺という意味では自分が一番最初に知ったのが、<Experiences Ltd. (3XL)>からのUllaの「Tumbling Towards a Wall」(2020)だった。これがまた素晴らしいアルバムで、小川のせせらぎのような優しいアンビエントに仄かにテクノエッセンスをまぶしたような内容だった。<West Mineral>や<3XL>と並んで重要なレーベルである<Motion Ward>からの「Limitless Frame」(2021)や、「Hope Sonata - EP」(2021)ではアコースティックでチェンバーなアンビエントという新しい世界を見せてくれ、そして昨年の「Foam」(2022)では、素晴らしきグリッチ・エレクトロニカ作品を届けてくれている。アンビエントには厳しいサウンドと柔和なサウンドがあると思うが、Ullaの諸作は間違いなく後者で、生活に寄り添ってくれる音楽だなといつも思っている。Perilaとの共作、LOG「LOG ET3RNAL」(2020)もお気に入り。

Exael

<West Mineral Ltd.>からリリース作だと「collex」 (2018)やBen Bondyとの共作「Aphelion Lash」(2020)があるわけだけど、すみません、未聴です。一方で、Brial Leeds、uonと組んだGhostride the Drift / ST (2019)や<Soda Gong>からリリースのFlowered Knife Shadows (2021)は愛聴してます。Perilaとのbaby bongではシューゲイザーやってるし、多作で幅も広い。なんとなく、フューチャー、サイバーパンクなエクスペリメンタル作家なイメージ。

picnic

オーストラリアのアーティストで、Pendantで聴けるダブ×アンビエントをまさに引き継いだような素晴らしいサウンドを作る。「Picnic 」(2021)のボートラ及びリミックスアルバムのリミックス陣にHuerco S.、DJ Paradise (uon)、Mister Water Wet、Ben Bondyといった<West Mineral>な面々が並んでおり、欧米と距離のあるオーストラリアともこのムードが繋がっているのを理解できる。

Anthony Naples

本記事で紹介するアーティストとしては一番の大物かな?Huerco S.の諸作は、Anthony Naplesが主宰するレーベル<Proibito>(2013-2017)及び<Incienso>(2017-)からのリリースが多い。Huerco S.だけでなく、DJ Pythonというディープレゲトンの第一人者もフックアップしていることは、Anthony Naplesが素晴らしい審美眼を持っていることの証左でしょう。



その他注目レーベル

<West Mineral Ltd.>と同じベクトルの作品をリリースするレーベルを列挙してみる。(自分の観測範囲のみ、かつ主観です)

<3XL>

上述の通り、uonが主宰するレーベル。<Experiences ltd.>から名前が変わったのかな?ullaのアルバムはもちろん、uonの種々のコラボレーションはどれもハズレがない。

<Motion Ward>

Ulla Straus、Pelira、Eael、Pontiac Streator、uonと行った面々が本レーベルからリリース。The Humble Beeとかもいるのね。

<Soda Gong>

Mister Water Wetから存在を知りました。TURNの素晴らしい記事貼っておきます。

<Sferic>

Space Afrikaが作品をリリースしていたマンチェスターのレーベル。ダブ・コラージュアンビエント的アプローチの作品が多く、聴いたアルバム全部大当たり。Jake MuirEchiumRoméo Poirierあたりなんかはかなり共振するのでは。Ullaとよく共作しているPerilaもアルバムリリースしている。

<Quiet Time Tapes>

Huerco S.、Ulla StrausBen Bondyらがリリース。もともと2本組カセット専門レーベルだったようだが最近の作品はサブスクでも聴ける。今回取り上げたダブアンビエントよりは、透明感あるアンビエント作品が多くリリースされているイメージ。一方で、去年<Modern Love>からダークな良作をリリースしていたDebitもこのレーベルから過去にリリースしていて驚いた。



参考

  • このクオリティの記事が日本語で、かつ無料で読める喜び・・・!多分に影響受けました。いつもめっちゃ勉強になります。

  • この3つはColonial Patternsリリース後の各メディアのインタビュー

  • For Those〜リリース後のインタビュー

  • 2018年来日時のele-kingによるインタビュー

  • 最新作Plonkリリース後のRAの総括とele-kingインタビュー

Resident Advisor: Blazing Unexplored Terrain: The Ambient Innovations of Huerco S.

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