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2022年 新譜お気に入り②

早いものでもう3ヶ月経って新年度(と思ってたら4月も終わりが近い)。自分の生活は相変わらず部屋にこもって仕事するか音楽聴いてるかの二択と、ここ2年は本当に代わり映えのしない毎日を送ってますが、そのおかげでかつてないほどの量の音楽を聴いてるような気がする。
というわけで、2022年の気に入った新譜の感想第2弾を書いていきますよ。2月以降のものです。

Spoon / Lucifer On The Sofa (2022)

米国インディーロックバンドの良心、Spoonの10枚目のアルバム。Spoonは個人的思い入れが強いバンドなので、どんな内容でもベタ褒めしてしまうことを事前に断っておくけど、本作は前作のシンセファンク路線から原点回帰したようにギター、ベース、ドラム、ピアノのシンプル構成によるロックンロールアルバムで、まあ言ってしまえば最高&最高&最高のレコードであった。

まず、先行曲であるM2 "The Hardest Cut"を聴いてみてほしい。これぞ2020年代で最もロックンロールしてるロックンロールソングでしょう。ミニマルなのに切れ味が鋭くて超最高(悶絶)。こういうのが聴きたかったんだよ。Spoonといえばギターの鳴りがたまらないバンドNo.1として自分の中での地位を確立しているんだけど("Sister Jack"は自分にとっての理想)、このアルバムでもM1、M2、M3、M6、M7とその素晴らしいギターサウンドを至るところで楽しむことができる。

また、最初は少し物足りなく思ったんだけど、聴けば聴くほど染み渡るように良さが分かってきたのが、中盤以降のミドル〜バラードソングの数々。Britt Danielのブルージーで嗄れた声と、John LennonやDavid Bowieを彷彿とさせる素晴らしきソングライティング、無駄な音が何一つ鳴ってないバンドサウンド・・・円熟味増し増しで言うことない

もちろん音響面で様々な実験をしてきたバンドとしての特徴も健在で、今作は実験的なスタンスのアルバムではないがそのサウンドは立体的で奥行きがあり、イヤホンで聴くと改めて様々な発見ができる。また、アルバムトータルが39分というのも、本当に分かってるな〜という感じ。
21世紀で最もモダンなロックンロールバンドとして、Spoonにはまだまだ期待できることを再確認した。

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Big Thief / Dragon New Warm Mountain I Believe In You (2022)

10年代後半あたりからの快進撃が凄まじいインディーバンド、Big Thiefの5枚目のスタジオアルバム。当然のように各メディアから大絶賛され、自分の観測範囲でも褒める言葉はあれど貶す言葉は全然見受けられなかった。まぁでも確かにこれは良い。聴く前は、2枚組ということで少し構えてしまったこともあったけど、いざ聴いてみたら全くそんな心配はいらなかった。2枚組で、かつ疲れずに聴き切れるアルバムは傑作と相場は決まっている

本アルバムについてググってみると「ニューヨーク州北部、カリフォルニアのトパンガ・キャニオン、コロラドのロッキー山脈、そしてアリゾナ州ツーソンで行われた4回のレコーディング・セッションの中から厳選された20曲を収録」とある。なるほど、アメリカ各地の雄大な自然や多様な環境の影響というのがこのバラエティ豊かな20曲に繋がってるのか。音響的に素晴らしいというのもあるし、オルタナっぽい曲、シンプルなフォークソング、そしてルーツ回帰したカントリー/ジプシーっぽい楽曲とバラエティに富んでいる(個人的にはルーツ路線が地味に一番気に入っている)。Adrianne Lenkerの精霊のような雰囲気の研ぎ澄まされたソングライティングと、それをしっかりサポートし、より高尚なものに昇華するバンドアンサンブルがとにかく素晴らしいと感じる。本当に無駄な音が一音も鳴っていない。

一曲ずつ書いてたら切りがないので中でも特にお気に入りの曲を挙げておく。アルバムの空気感を定義するようなシンプルなアコースティックソングのM1"Change"、カントリー/ルーツ回帰のM3"Squid Infinity"、M11"Red Moon"、M20"Blue Lightning"、Kurt Vile的なオルタナサイケを聴かせるM7"Little Things"、音響面で特に素晴らしいと感じたM5 "Dragon New Warm Mountain I Believe In You"やM10"Blurred View"、マイナー調でピリッと締まるM17"Simulation Swarm"・・・あたりです。

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Huerco S. / Plonk (2022)

これはまた新しい形のHuerco S.のニューアルバム。Huerco S.といえば最近のダブアンビエントの中心人物といっても過言ではないが、今作はそのシグネチャー的なダブアンビエントなサウンドスケープが主役となっているわけではないため、未だにどう形容したらいいのか逡巡してしまう感覚がある。一方で、何か新しいような、心を掴まれる魅力があるのも確かだ。

彼のこれまでのダブアンビエントのイメージとしては、一種のウォールオブサウンドというか、マイブラとは言わないまでも基本的には音と音の隙間を不明瞭なノイズや揺らぎのようなもので埋め尽くすことで得体の知れない陶酔感を生み出していたように思うけど、今作は一転、とにかくミニマルで立体的なリズム音楽になっている。

M1 "Plonk I"からその点は明白で、テクスチャーではなく空間とリズムを意識したミニマルなエレクトロニカが披露され、その傾向はM2〜M4まで続く。M5で持ち前のモコモコサウンドが聴けるなど、後半は多少得意の不明瞭なサウンドが戻ってくるが(それでも控えめだけど)、前半は完全にクリアな音なので、正直最初は驚いた。さらに、M9なんてSir E.U.(ワシントンDCのラッパーみたい)をフィーチャーしたラップトラックだ。M10はこれまでのイメージ通りの完全ダブアンビエントトラックなので多少安心するけど、これはもう完全に新しい領域の音楽を目指したものと感じた。
強いて言うなら90年代のIDMっぽさが戻ってきているような気もするが、音の質感は確実に00年代、10年代を通過した音だと思うので、飽きずに聴ける。やっぱりHuerco S.は一筋縄ではいかない。

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Carmen Villain / Only Love From Now On (2022)

ノルウェーのCarmen Villainは元スーパーモデルというだけあってとても美しく、そしてやってる音楽はなかなか実験的でこれまた美しい。自分は去年のEPで知ったんだけど、それが優雅で実に美しいアンビエントミュージックだった(過去の感想記事)。2017年リリースの「Infinite Avenue」も聴いたけど、フォーキーさとエレクトロニクスを上品に融合させたような、どこか新鮮なベッドルームポップのような音楽で良かった。また、これまで同じノルウェー出身の歌姫であるJenny Hvalをフィーチャーしたり、Gi Gi Mashin、DJ Python、Yu Su、D.K.、Biosphere、Parrisといった、少し「ムムッ!」となるようなメンツから彼女の楽曲がRemixされていたりと、そんな周辺情報からも彼女がハイプなんかではなくなかなかの実力者であることを伺わせる。

そんな彼女のニューアルバムはやっぱり素晴らしい出来だった。いきなり呪術的な雰囲気のパーカッションにゾクゾクするようなトランペット(by Arve Henriksen)が乗っかるM1 "Gestures"から堪らない。M5 "Subtle Bodies"は抑制的なリズムと霞のようなノイズを組み合わた最もビートの効いた曲で、上述のHuerco S.のアルバムの曲の雰囲気と似たミニマルさを感じる(実際にこの曲はHuerco S.にRemixされている)。
ダブ、アンビエント、ミュージックコンクレートといったジャンルだけでなく、元々ギターを弾いてたりインディーロックからの影響を受けていたりと実は幅広い音楽的バックグラウンドを持っている影響からか、全体的に管楽器等の生音とエレクトロニクスの使い分けが抜群に上手いような印象を受ける。そして余白と優雅なサウンドテクスチャーの濃淡の付け方が素晴らしく、背景に溶け込む瞬間としっかりと音が主張してくる瞬間のバランスがとても整っている。だからか、いつ聴いても意外としっくり馴染むというか、聴き流したい時でもいけるし、しっかり聴こうとしてもいけるという、自分のここ1ヶ月半くらいの期間に非常にお世話になったアルバムだった。

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Innis Chonnel & Loris S. Sarid / Where the Round Things Live (2022)

グラスゴーの実験音楽レーベル12th Isleからのリリース。スコットランドの東海岸に位置する木材工房での録音で、即興のシンセサイザーやフィルレコサンプルを組み合わせたアンビエント/ニューエイジとダンスミュージックの間のような音楽。高田みどりで有名な80sジャパニーズニューエイジの代表格であるMkwaju Ensemble(最近よく聴いてます)みたいなミニマルなパーカッションと温かみのあるサウンドがとても繊細で気持ちが良く、30分ちょっとのランニングタイムといい、ふとした時にサラッと聴くことができるのが良い。M3 "Sun Cylinder"なんて久石譲の世界観を彷彿とさせ興味深い。

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Jeremiah Chiu & Marta Sofia Honer / Recordings from the Åland Islands (2022)

Jeremiah ChiuがLAのシンセシスト、Marta Sofia Honerがバイオリニスト。フィーレコ音源とモジュラーシンセ、ヴィオラの音色が見事に合わさったアンビエントジャズ。二人は2017年にスウェーデンとフィンランドの間のバルト海に浮かぶオーランド諸島に行き、夏でも太陽が沈まない(冬は太陽が現れない)その島にインスピレーションを受け、そこでフィーレコ音源を録音したそうな。2019年には14世紀の中世の教会、クムリンゲ・キルカでコンサートを開き、その音源も今作では用いられている(以上、Bamdcampより)。とにかく「美」な音像ですね。聴いてて非常に気持ちがいい。かなりミニマルな作りにもなっているのがまたとても好み。

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Mary Sue / Kisses of Life (2022)

シンガポール拠点のラッパー/プロデューサーらしい。Bandcampの2月のベストヒップホップの一枚に選ばれてたことがきっかけで聴いてみたんだけどこれがかなり好きなやつだった。
全22曲46分という構成からも想像がつくとおり、トラックはブーンバップの系譜に連なるローファイ/アブストラクトヒップホップで、言うならばEarl Sweatshirt周りと親和性がある。なんなら声もEarl Sweatshirtのように低く、ラップの仕方もとても似ている(リスペクトの表れか、もはやモノマネの域である)。で、さらに面白いのがMF DOOMやオルターエゴであるKing Geedorahなんかも彷彿とさせるような良い意味でラフで遊び心のあるトラックが最高で、どこまでもアンダーグラウンドで煤汚れたカッコよさを醸し出している(実際にMF DOOMの逝去をきっかけにこのアルバムの曲を制作し始めたらしい)。
こうやって適当に聴いてみて大当たりだった時の嬉しさって格別だよね。

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Denzel Curry / Melt My Eyez See Your Future (2022)

少し前に「Imperial」、「TA13OO」、「ZUU」を聴いてDenzel Curry童貞を卒業したばかりだった中で、新作がリリースされたので、過去作とあわさってまんまとその勢いに呑まれてしまった。過去作もすごくカッコいいが、最新作は過去作よりも良い意味で丸く、バランスの取れたサウンドになっていて、今のところ一番気に入ってる。

アルバムタイトルからは、近年の悲惨な出来事(戦争、差別などの社会的な出来事だけでなく、弟やXXX Tentacionの喪失、彼女との別れなどのDenzel Curryのプライベートな出来事も含まれているんだろう)と、それでも未来を向こうとする意思のようなものを感じる。アルバム全体を通して、攻撃的になったり、陰鬱になったりと表情をコロコロ変える様からは、躁鬱病のようなDenzel Curryの姿を思い浮かべてしまうが、そんなネガティブな深層心理も、ジャズ、ネオソウル、トラップ、サウスサウンドを飲み込んだ最新形ハイブリッドブーンバップとも呼べるような成熟したトラックと、多彩でスキルフルなラップやメロディアスなフックにより、圧倒的に説得力のある曲へと昇華させている。フェイバリットはフックが強烈で印象的なM5 "The Last"から極上ネオソウルトラックM6 "Mental"への流れと、ドラムンベースを用いた攻撃的でスリリングなslowthaiとのM13 "Zatoichi"から、何か答えを見つけたかのように穏やかになるメローでジャジーな最終曲M14 "The Ills"の流れ。かなりの頻度で聴いてます。

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Awich / Queendom (2022)

M1 "Queendom"から言葉が強い。自身のルーツである沖縄に対する愛憎入り混じった感情、アメリカに行って出会ったハスラーの旦那との死別、それらの経験を踏まえてラッパーとして舞台に立っていくという覚悟、まさにAwichの自伝的な内容でガツンとやられた。その後もラッパーとして、女性として、常に強くあろうとする姿勢が全面に表現され、本気で頂点を取りに来ていることを感じる。M7 "口に出して"のダブルミーニングを超えたギリギリの表現や跳ねたトラックが特徴的なM8 "どれにしようかな"のリリックだって、常に主導権を握ってるのはAwich側だ。どの曲でもまさにアルバムジャケットのように堂々と、そして上から見下ろすような強さを醸し出している。でも、この強さは自分の弱さと向き合った上で、更なる挑戦のため、自身を奮い立たせるための強さだ。だからこそ余計にかっこいい。

BAD HOPのYZERRに「ねえさんが引っ張っててくださいよ」という言葉を投げかけられ(M2 "Gila Gila)、自身に相当プレッシャーをかけて製作されたアルバムのようで、実際にほとんど完成してた内容を一度白紙に戻して作り直したようだ(M13 "44 Bars")。その甲斐あってか捨て曲が一切ない、ラッパーAwichを表現するための極めて純度の高いアルバムになった。武道館公演も大盛況だったようで、今後のAwichにも期待してしまう。

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優河 / 言葉のない夜に (2022)

いやー驚いた。中村佳穂や藤井風のアルバムとともに自分のTwitterのタイムラインでかなり話題になってたのがシンガーソングライターである優河のサードアルバムだった。全くその存在を知らなかったが、どうもテレビドラマの主題歌を歌ってる人らしく、ちょっと野次馬的に興味本位で聴いてみたら、一発でやられた。

まず、そのルーツに根ざした奥行きのある芳醇なバンドサウンドですよね。Blake Mills、Lana Del Rey、Big ThiefといったUSインディー勢が描く空気感に、この優河のアルバムからも近しいものを感じる。これは千葉広樹(Ba)、岡田拓郎(Gt)、谷口雄(Key)、神谷洵平(Dr)というメンツの魔法バンドの貢献が大きいようで、特に岡田拓郎が参加してるとあって、なるほど、通りでこのようなサウンドデザインになっているわけかと納得。そして、優河の重みもありつつ伸びやかで透き通るような歌声が良い。直接胸に響くというか、サラッとしていそうでなかなかパンチ力のある歌を歌う。

このアルバムでも印象的な「夜明け」というモチーフだけど、それにしても今年はDawn(夜明け)というワードが目立つ。BurialもThe WeekndもJack Whiteのアルバムもそうだよね。ただ、BurialはAnti-Dawnだし、Jack WhiteもFear of the Dawnなんだけど。

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